あやぶろ/OLD

テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

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20132/20

テレビがつまらなくなった理由

まず「番組とはハズれるものだ」ということを経営トップが認める。その上で現場には冒険を要求する。冒険とは新しい発想、ユニークなアイデア、独創的な企画だ。そして視聴率ではなく、番組ごとに目標とする「番組イメージ」を設定し、リサーチにかけて変化を測定し、それを番組成功の物差しとする。タレントの顔ぶれで「これだけ揃えば何%は固い」などという視聴率計算をする編成はさせない。

 

次は環境づくりだ。

 

先日、会社の先輩の還暦祝いのパーティーで、久しぶりに会った現場の後輩に最近の現場の雰囲気について聞いたらこんな答えが返ってきた。
「いろいろ制約が多くて大変ですよ。番組作りに集中したいけど、やってはいけない決めごとが多くて、コンプライアンスとかに細心の注意を払っているだけで、疲れ果ててます。」

当時はADだったが今やD(ディレクター)やP(プロデューサー)などを務めるバリバリの中堅たちにハッパをかけるつもりで聞いたのだが、逆にこちらが深刻に考え込まされてしまった。これは彼ら現場の努力だけではもうどうにもならないところまで来ているなぁ、というのが率直な感想だ。

 

テレビ局は様々なミスや失敗などを乗り越えリスク管理の能力を高めてきた。何か問題が発生するたびに、社内研修を何度も行い、膨大なリスク管理表を作成し周知徹底し、少しでもトラブルやミスを減らそうと本当に懸命な努力を重ねて来た。しかしそれは番組制作上の冒険の芽を摘んでしまうことにもなってしまった。

 

当たる番組は冒険の中からしか生まれない。従って、どうやって冒険ができる環境を作るかが、組織としての課題になる。ミスを起こしても大目にみてやれ、というのではもちろんない。番組制作者が面白いと思う事や良いと思う事をとことん突き詰められるような環境を作るのだ。

 

 

番組の危機管理やコンプライアンス管理については、今後、急増する組織の中のベテラン勢に頼ってはどうか。間もなく企業は社員を65歳まで雇用しなければならなくなる。それにあと数年もすると、テレビ局の中の団塊の世代が一斉に50代以上になる。こうしたベテランの力をどう発揮してもらうのかは、どの局にとっても大きな課題だ。どうせなら、今でも最も効率の良いビジネスモデルである地上波放送で、現場が冒険できるように番組制作現場での危機管理やコンプライアンス管理で貢献していただくのはどうだろうか。もちろん上から目線ではダメ、あくまで現場が仕事をやり易い環境づくりが目的なのだから。

 

前述したように「視聴率をとれ」、「番組をハズすな」、「問題は起こすな」、「金をかけるな」は、経営として正しい判断だ。判断というより当たり前、当然のことだ。しかしそれを実現するために、現場にどのような指示を出すのが正しいのか。そのまま伝える事で逆の効果が発生し、負のスパイラルに落込むのであれば、その指示は間違っていることになる。そこで頭をひねることが大切なんじゃないか、と思う昨今です。

 

 

今回はかなり思い切った提言となったので、異論反論、多いにあると思います。是非、あやとりブログにご意見をお寄せください。コメントでも結構ですし、立場上、匿名でないとマズいという方は、匿名投稿ページも用意してあります。

 

 

 

氏家夏彦プロフィール

株式会社TBSメディア総合研究所代表
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その行く末をしっかり見極め、テレビが生き残る道を探っています。
1979年TBS入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部等)・バラエティ・情報・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年現職。
最近はテレビの外の人たちとの人脈が増えています。

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    • Takahiro Koyama
    • 2013年 2月 23日

    以前ネットでテレビ番組作りに詳しい人から
    「製作会社と制作会社の違いを知っているか?」
    と聞かれました。
    「製作会社は、何時に放送するか、分野は何か、アニメか実写かなど計画を立てる会社、
    製作会社はその計画書を渡されて実際に番組を作る会社だ」
    というのがその人の意見です。
    その延長線で私が気がついたのが、
    テレビ番組、例えば報道やバラエティ番組を見ていたら、一番組には三つの部門があるのですね。
    町や記者会見場に足を運んで聞いたり集めたりする取材部門、
    スタジオ現場、
    そして放送するか否かの判断を下すデスク。
    スタジオ現場は取材班の情報を与えられて、基本的にその情報にリアクションをとることが多く、ときどき情報の捏造番組や取材の不備、不甲斐なさに怒ったりします。
    取材班は実は番組や出演者のネームバリューを使って仕事をしたりしますが、
    デスクへの言及って、まずありません。日テレの「ガキのつかい」や「電波少年」で責任ディレクターが番組に出るくらいで、韓流反対デモだったり視聴率至上主義への批判も、個々の責任者が矢面に立つことは有り得ないのですね。
    もちろん業界内では業界の掟に縛られているのでしょうけど、一般の視聴者にとっては全く関係を持つことが出来ない聖域ですので、「世間の目」に洗われることは無いのだと思います。
    あとハードウェアとしては、今までは1対多で情報を発信していたのがIT革命で逆転し、多対1で情報が殺到しているのに、大手通販会社やコンピュータコールセンターのような対応ができない。
    「視聴者からご意見を募集します」と言っても限られた意見か、機械的に垂れ流すだけ。
    「俺の意見って結局無視されるんだな」という腹立たしさが募っているのだなぁと考えています。

    • Takashi Hamamoto
    • 2013年 2月 23日

    テレビ局のトップの人はまだまだ「視聴率ありき」のスタンスでいたのが意外でした。もう実質ドラマやアニメ(特にTBSなら)、DVDやブルーレイの販売と映画化によってビジネスをまわしていると、テレビ局の中の人なら本音ではわかっていると思っていました。

  1. 2014年 7月 05日
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