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20123/28

[「CM飛ばし」は調査されていたはず〜西さんのあや、とります]氏家夏彦

 

西さんのポストを呼んで、確かHDRのCM飛ばしは何回か調査されていたはずだよなぁと思って、ネットで調べてみました。

 

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古いところでは有名な野村総研の2005年5月の調査。
http://www.nri.co.jp/news/2005/050531.html

「ハードディスク・レコーダーの過半数がテレビCM80%スキップ、今年の損失総額は約540億円に」というショッキングなサブタイトルがつけられ、電通が徹底的な反論を展開することにつながったものだ。それによるとHDRユーザのうちCMを全てスキップする人は23.4%、6割以上スキップは56.4%となります。

そして平均CMスキップ率(64.3%)とHDRに録画した番組を実際に視聴する割合の平均(34.2%)とHDR世帯普及率(11.9%)を年間テレビ広告費(2兆436億円)にかけると、2005年度は約540億円が、CMスキップで失われたとしています。
ところがこれは根本的な間違いを犯していて、電通が反論しバッサリ斬っています。その反論は一言で言うと、視聴率の測定はリアルタイム視聴をしている世帯が対象、その視聴率を基に広告費は決められるので、HDRでのCMスキップは年間テレビ広告費とは全く関係ないというものです。つまり広告主にとってHDRで視聴されるCMは+α(おまけ)みたいなものです。だから損失などありえない訳です。

この野村総研の計算方式を逆に使って、平均スキップされない率35.7%(=1−0.643)をもとに計算すれば、「297億円分のCMがタダで視聴者に見られた」とするのが正しい解釈でしょう。広告主の皆さんは300億円近く得をした訳です。

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それはさておき、CMスキップに関する調査はまだあります。2006年の矢野経済研究所の調査です。
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2005/06/29/8202.html

これによるとCMスキップ率が9割以上というユーザは45.5%、7〜8割が23.6%となっています。

■■■

最近の調査では株式会社リサーチ・アンド・ディベロプメントが2011年10月に行った調査。
http://www.rad.co.jp/client/core/2011SpOP/20110215newsrelease.pdf

CMを飛ばして見ることがあるかという問いに、いつも飛ばすが63%、時々飛ばすが25%、飛ばさないが12%という結果が出ている。この調査は問題があるインターネット調査ではなく首都圏に住む18歳〜74歳の男女3000人を対象に、訪問留置法で行われた本格的なものです。ただ首都圏ということで、日本全体の傾向とは異なります。

 

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注意しなければならいのは、先にも述べたように、録画視聴された時間はあくまで視聴率に上乗せされるものということです。録画視聴がテレビ広告費にとってマイナスに働くのは、録画されることで、リアル視聴の時間が減る場合です。どれくらいの人が録画視聴をしているのでしょうか。リサーチ・アンド・ディベロプメントの調査では、28%が録画視聴をすることがよくあると答えています。

 

ただこれも、リアルタイム視聴できるのに録画しておいて後でゆっくり見ようとしたのか、外出しているなどリアルタイムでは視聴できないので録画したのかは、わかりません。少なくとも私が録画するのは後者の場合です。多くの方がそうなのではないでしょうか。つまり録画視聴は、リアルタイムだけでは得られなかった視聴機会を増やす働きがある訳です。

しかも単に見たというのではなく、どうしても見たくて見たものです。視聴者にとって録画する番組は、録画してでも見たい番組です。例えばどうしても見たい番組と普通に見たい番組が同じ時間帯で放送される場合、録画するのはどっちでしょう。私ならどうしても見たい番組、自分にとって大切な番組を録画します。そして録画した番組を視聴する際、全ての人がCMスキップをしている訳ではありません。2割から3割、もしかすると4割のCMは録画視聴でも見られている訳です(野村総研のデータによれば平均35%)。単なる「ながら視聴」ではなく、集中して視聴してもらえるのです。広告主にとっても美味しいじゃないですか。録画視聴はテレビ局にとってむしろ媒体価値を上げる働きをすると言えます。

テレビ局はこのデータと理屈を営業に利用して、少しでもタイム収入のアップにつとめればいいのにと思います(もうやっているかも知れませんが)。そうなると、録画視聴する動機やどんな番組が録画されやすいかなど、知りたい事がどんどん増えてしまいますね。

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西さんは前のポストの最後に「テレビ広告モデルの危機といったテーマが語られ続けること自体が、非常に自虐的に聞こえてならない」とおっしゃっています。私は、テレビ広告モデルは危機とまでは言えないですが、パワーが衰えているのは事実だと思っています。私の前のポストで書きましたが、視聴率全体が下がって来ているからです。テレビから時間が奪われています。その時間が録画視聴に向かっているならまだいいのですが、テレビとは関係ないところ(インターネットなど)に流れている訳です。かといって視聴率がすごく下がったかというとそうでもない。インターネットのアクセス順位で上位にくるのはテレビで扱われたネタです(私が名著だと思っている、中川淳一郎さんの[amazon_link id=”4334035027″ target=”_blank” ]ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)[/amazon_link]を読むとよくわかります)。

数多くの人に対する影響力ではテレビは群を抜いて一番です。ただし今のところです(これまで何度も言っていますが)。動画を楽しませるデバイスやサービスの進化の速度は凄いものがあります。今のビジネスモデルのままでは、まだ登場していない新しいデバイスやサービスに時間を奪われ、得られる対価は徐々に下がっていくのは明白です。テレビがそのメディア・パワーを維持したいのなら、変化し進化し事業ウィングを広げていくことが必要です(これも何度も言ってますが)。

 

野村総研の調査も矢野経済研究所の調査もインターネット調査です。実は、インターネット調査はどこまで信頼できるか・・・という点で非常に問題があります。これについては改めて書く事にします。

 

氏家夏彦プロフィール
1979年TBS入社。報道・バラエティ・情報・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年TBSメディア総合研究所代表。フルマラソンでサブ4を続けるのが目標で す。

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