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20136/28

●捨てる力と伝える力(稲井英一郎)

この取材で撮影できた映像は、警備隊による銃撃シーンも人々が落命する瞬間もなかったが、荒涼とした地形に警備隊へのインタビュー、ヒスパニック系の人々が多い街の様子などを通して、経済格差が広がっていく南北問題の厳しい現実がカメラのファインダーに容赦なく飛び込んできた。
しかし、この映像が放送されることは、ついぞなかった。ワシントンに帰ってすぐに起きた同時テロが、世界の様相を一変させてしまったからだ。

稲井1

9.11テロで炎上する国防総省(ビルの向こうにある)から立上る黒煙(筆者撮影)

 

歴史的なテロが起こったあとの世界では、テロとのかかわりなしに国境管理の問題を語ることはできない。もし放送するのだったら、しばらく時間をおいてから再取材し、ブッシュ政権が打ち出した国家防衛の「ホームランドセキュリティ」政策との関係を踏まえてでしか、取り上げることができなかっただろう。

 

このように、テレビで報道関係の仕事に携わっていると「捨てる」という作業が日常的に発生する。意図して小さな材料を捨てることもあれば、前述したように企画そのものを捨てざるをえない状況に追い込まれることもある。
別に「捨てる」という行為を自慢しているわけではない。「捨てる」という言葉がよくないかもしれない。その時点でとりうる最善の選択をしているだけなのだ。

 

 

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