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20134/9

● テレビドラマと職人文化②(稲井英一郎)

よく米国のドラマは質が高く、日本は低いという紋切り型の議論を聞くが、はたして本当にそう決めつけていいのだろうか。

 

アメリカに住んでいたこともあるので米国のテレビドラマは結構視ていたほうだが、たしかに映像のスケールやぐいぐいひっ張るスピーディな展開、美術道具や舞台設定の本格さにおいてはとても敵わないことがほとんどだ。
住宅街でちまちま日常に会話する場面を扱う日本とはちがい、高速レーンでのカーチェイスや大豪邸での超豪華なパーティ風景なんか日本ではとても撮影できない。というより、そういう文化もない。

しかし日本の私小説や舞台演劇の伝統精神を受け継いでいるのか、日本のドラマは登場人物の揺れ動く心理描写や葛藤のディテールを表現しようとするカメラワークと演出は秀逸である。おそらく世界屈指だと個人的には思っている。

 

ハリウッド系のドラマはストーリーがパターン化されて平板であり、勧善懲悪が明確にされることが多く、絶体絶命に陥った主人公はだいたいにおいて奇跡的な起死回生の策で大逆転劇。恐ろしいほど強かった悪役は、最後は絶望の表情を浮かべながら奈落の底におちていかねばならない。

 

こう展開しないと平均的アメリカ人の観客・視聴者は満足しない。そしてテレビ広告マーケットにおいて一定以上の視聴者を獲得しないと、ドラマはそのシーズンで打ち切りとなる。テレビビジネスにおけるポリシーは極めて明確になっている。
だから日常生活のこまごまとしたディテールの映像化なんて、アメリカのドラマにはほとんど登場しない。
これは好みの問題であって、どちらが劣っているか優れているかという問題ではない。

 

母親と娘の心理的葛藤と疎外感、本当は嫌いな同級生同士の取り繕いや偽善といった描写は、圧倒的に日本人のほうが得手なのだ。
でなければ「桐島、部活やめるってよ」といった、これといった落ちも未来への希望もないが、心理描写群像劇としては極めてユニークで面白い映画作品が、日本アカデミー賞をとれたはずもないだろう。

 

日常の些事を積み重ねた妙味

 

この点、参考になるのはTBSメディア総研が今春出した「調査情報」(No.511)で、このなかで映画批評家の樋口尚文氏がとても切れのよい日本のドラマ論を展開されている。

氏は1970年前後に確立された日本のテレビドラマの世界観について、脚本家の山田太一氏の発言を引用する形で

 

“映画では到底描いていられない些事の表現を積み重ねられる気安さ、自由さがテレビの妙味”

 

と述べている。
そしてTBS不朽の名作といわれている「岸辺のアルバム」などについて

 

“ビデオカメラ的な観察眼によって、映画からはこぼれ落ちるであろうトリビアルな日常に目を凝らすもの”

 

と性格づけて、映画とはちがってテレビ的志向に徹したものだったと分析している。

稲井2-1

ここから思い返されるのは、前クールで話題になったドラマの一群だ。

 

前述の「夜行観覧車」や「とんび」(TBS)、「最高の離婚」(フジテレビ)など評判のよかったドラマは殺人や離婚という非日常的イベントを契機にしつつも、登場人物の日常生活における些事や小波乱をじっくり描く延長線上に物語が展開されていった。
だからハリウッド系のど迫力でスピーディな物語に価値をおく人にとっては、かったるい日本的ドラマと映るかもしれない。
しかし面白いのは、こうした日本的ドラマの世界観が、映画の作品にも登場してきていることだ。
「かもめ食堂」や「めがね」(ともに荻上直子監督)などは従来の日本映画にはなかった、どうということのない日々の日常の些事を丁寧に積み重ねて表現する作品が興行的にも成功をおさめており、テレビドラマを支えてきた女性視聴者層も映画館に足を運ばせている。

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