● テレビドラマと職人文化①(稲井英一郎)
これまで私はテレビというメディアのあるべき姿や条件をこの「あやブロ」で書いてきた。多様性や品格、革新性やエディターシップ、「ながら視聴」の強み、といったことだ。ただしこれらは企画編成する側からみた視点であって、テレビ番組制作にとってなくてはならないものについては触れていなかった。裏方の専門技術、職人集団の存在である。
職人工房がつくった浮世絵
たとえば以前、この場でもとりあげた江戸文化の華、浮世絵。
浮世絵は浮世絵師だけが有名になっているが、本当はほとんどの浮世絵版画は職人集団による工房が大量につくり出したものである。
初刷りでも200枚は生産される浮世絵版画は、大量につくられたからこそ明治以降海外にも数十万枚が輸出され、そのおかげでフランス印象派画家の作風に大きな影響を与えたほどであった。
絵師が書いた下絵を彫師が小刀や「のみ」を自在にあやつって驚くほど繊細で正確な線を彫り、それを摺師がさまざまな色を十数色も重ね摺りし、また絶妙なぼかしを入れていく。出版元の版元は話題性のある作品を世におくりだすため、市場調査を行い、企画立案をし、作品のコンセプトを固めていく。
楊洲周延「江戸風俗十二ヶ月之内六月山王祭」(日枝神社HPより)
メディアがマスメディアたるには、作品や情報、コンテンツを、おカネを出して購入してくれる幅広い消費者がいないと成立しないのは当然だろう。
個人のアーティストがうみだすアートとは違って産業として成立しているのであり、商品を安定的に大量生産していける設備と労働力の供給体制がととのっていないと、一定品質以上のものは継続生産していけない。
テレビ技術の職人たちは今
テレビにおいて話題となったドラマやバラエティ番組をめぐり、スポットライトが当たるのは通常、番組プロデューサー・ディレクター、放送作家、脚本家たちだが、番組をつくる技術者の職人集団がいないと手も足もでないのが実情だ。
綺麗に背景がぼけて奥行き感のある映像、うまく照明がほどこされた演者の表情をきれいにクローズアップした観賞に耐える映像。
それをポストプロダクションにおいて作品に仕上げるため編集加工するとき、最新のデジタル編集機の知識がないテレビ局員などは、下手をしたら撮影した映像を間違って全消去しかねないほど、最近の映像機器は操作上の難易度がましている。
番組があがるまでには美術や小道具大道具、音響効果など、さまざまな職人階層が関わり合いをもつ。当然ながら江戸時代よりはるかに大規模な工房が必要になっているのだ。
その職人集団を維持することが年々難しくなっている。それはテレビ系列や地域に関係なくそうなりつつある。
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