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20134/8

● テレビドラマと職人文化①(稲井英一郎)

 

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リーマンショック以降のテレビ広告収入の落ち込みで、各テレビ局は番組制作費や固定費の削減を余儀なくされている。

テレビ局社員の人件費ももちろん削減されているのだが、それ以上にテレビ番組制作を実際に担っている関連会社にも多大な努力が求められている。つまり番組制作費削減のかなりの割合が制作工程の大半にかかわる技術関連会社が担っているのが実態だ。

従って多くの技術会社は営業赤字にいつ転落するか将来への漠然とした不安にかられる状況にあり、人件費の抑制傾向は無論さけられず、従来の設備投資計画を実行すべきか躊躇するようになっている。生き残りをかけて新規事業や顧客開拓にとりくまなくてはならなくなっている。

地方局にとっても状況は厳しい。同時速報性を武器にするテレビにとってスポーツやコンサート会場からの機動的な映像伝送にかかせない中継車も、自前の設備として保有することを断念し、レンタル会社からの借用でしのぐ方向に転じる地方局が少しずつ増えている。

ドラマの世界を満たす水と空気

テレビ番組の人気を左右するのは無論、優秀なプロデューサーやディレクター、編成などの企画する側の腕だが、そのセンスを番組という形に仕上げるには、職人集団の技術の伝承と経験知の蓄積がものをいう。

それはドラマの世界をひそかに満たしている綺麗な「空気」や「水」のような存在であり、番組にぐいぐい惹き込まれる視聴者が、職人のカメラワークや編集、映像の色味調整(カラーグレーディング)を意識することはない。

しかし職人技を感じてみようと意識して視聴すると、その存在は意外に明確になるものだ。

もしお手元のテレビのハードディスクにTBSの連続ドラマ「夜行観覧車」の録画が残っているならば、もう一度見直していただきたい。連続ドラマの企画意図や演出を支えたカメラワークやポスプロ作業が大きな役割をはたしていることをお気づきになるかも知れない。

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このドラマは「地形の高低」がドラマの対立軸となっている。高台から見下ろす目線、そこからくみ取れる感情に対し、階段の下から豪邸を見上げた目線にひそむ感情がせめぎあい、悪意、嫉妬、見栄、蔑視、偽善が渦巻く人間関係が濃密に描き出されている。演出およびカメラワークと映像の絶妙なつなぎが、二つの交差する目線を表現することに成功している。

それが普段視聴者が意識しない、この世界に満ちる綺麗な「水」や「空気」だ。
こうしたこまやかな技は海外のテレビ産業にはあるだろうか?たとえば米国のテレビはどうだろうか。

 

稲井英一郎(いない えいいちろう) プロフィール
1982年TBS入社。報道局の社会部および政治部で取材記者として様々な省庁・政党を担当、ワシントン支局赴任中に9/11に遭遇。
2003年からIR部門で国内外の株主・投資ファンド・アナリスト担当
2008年から赤坂サカスの不動産事業担当
2010年より東通に業務出向。
趣味は自転車・ギター・ヨット(1級船舶免許所有)、浮世絵など日本文化研究。
新しいメディア・コンテンツ産業のあり方模索中。

 

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