あやぶろ/OLD

テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

© あやぶろ/OLD All rights reserved.

20134/4

APIMEN – アピな人

志村①ガラポンTV参号機を持つ保田社長(2013年3月27日)

 

ガラポンTV参号機始動

ガラポンTV参号機(3代目)が出るというので、記者発表会に行ってみた。(ガラポンの説明は省略)
自分が持ってる「弐号機」は既に死んでいて物置に片付けてしまった。一度動かなくなると、再設定が難しい。それにテレビの近くに置いておくと本体がとても熱くなるので、ついにコンセントを抜いてしまったのだ。
それで参号機。
まず、手に取ってビックリしたのが弐号機より軽くて小さい点だ。なんかカワイイ。
設定も簡単になり、買ってスグ使えるという。チャンネル設定もしなくていい。
ガラポンにちょっと似てるBOXEEという機械がある。これも「画期的!」と思ったが、実際自分で設定するのはちょっとムリだった。
その点、参号機は「ザ・家電」レベルだというから期待できる。

志村②ガラポンAPIを使った「g256」サイト。(ガラポンTV発表資料から)

 

ガラポンTVのAPI公開

さて、ガラポンを見ていて「オモシロ革命的!」と思ったのは、APIを公開しているところ。
「外部の人」が、ガラポンの持ってるテレビ番組データを使って勝手サービスを立ち上げられる。
どんなものかというと、たとえば「g256」は2ch発言数とガラポンのマッシュアップ(コラボ)。2chの実況スレの発言数を折れ線グラフ化し、そのグラフにパソコンのポイントを当てると映像が見れる。
ガラポンではランプの色を変えたり、機械もイじれることも考えてるらしい。
こうしたガラポンTVのAPIを「面白い!」と思ってイジる人(APIMEN=アピな人)は50人ほどだという。
ソーシャルメディアでは「中の人」が活躍したけど、これからは「外の人」が活躍するんだろうか。

 

APIの組み合わせ=編集

ところでAPIってなんだろう。
ツイッターに投稿するとフェイスブックにも載ったりする。あれは、フェイスブックとツイッターのAPIを利用してる。
ほかにもグーグルマップ。地図がたくさんある。たとえば、コレは地図と飛行機の発着データをコラボしてる。オモシロイ!
要は、APIとは「部品」みたいなもので、いろいろな「部品」を組み合わせると新たな「製品」ができるということらしい。
それに、デジタルな知識が無くても大丈夫みたい。IFTTTというサービスは無料。絵をクリックするだけで色々なマッシュアップが作れる。
「今日の天気をSMSで自動に送る」とか「新着アルバムが出たらメールする」みたいなマッシュアップがすでにたくさんある。これはウェザーニュースやアマゾンのAPIを利用してる。
ウェブにあふれるAPIを組み合わせて何かを作る。文系的に理解すれば、コラボ、アレンジ、編集といったものか。
なんかオモシロそー。

 

志村③

日本蕎麦と豚骨スープのマッシュアップ。ローリング蕎麦ットJ。渋谷にて

 

「完成品」から「部品」へ

このAPIという「部品」売り、商売になっている。
グーグルは「完全版!災害マップ」を作って売るのではなく、一歩下がった位置にいて、「地図」だけを売る。「完全版!」を作るのは「外の人」である。「外の人」が災害用やハイキング用と目的別地図をどんどん作ってくれる。
つまり、「完成品」で勝負するのが当たり前だった企業活動に、「部品」だけを提供するビジネスモデルが現われたのだ。
メーカーが「部品」メーカーをケイレツ化するのと、ちょっと逆な関係な気がする。
誰が完成品を出すのか?完成品ってなに?他の人と同じものをなんで買うの?企業はどこまでやるべきか?など、このAPIビジネスからは今までと違う世界が出来つつあることが想像できる。

 

表現とAPI

そんな違う考え方。モノ作り企業だけでなく「メディア」にも大きな影響を与えるに違いない。
完璧な「作品」を作り、読者・視聴者・観客・顧客がそれを楽しむ。意見・感想を述べる。それが今までの企業やメディアと受け手の関係だった。
「VODで配信する」「感想をソーシャル上で共有する」「雑紙を記事ごとに売る」
ここまでは、まだ「送り手」と「受け手」の関係は崩れていない。
「完成品」をやり取りしてることには変わりはない。アナログがデジタルに置き換わっただけだ。
じゃあ「APIを公開する」行為を、メディアに当てはめると、どうなるんだろうか。
たとえば、「映像」を自由に使えるAPIを作る。「夕暮れ」や「雪が降ってる」シーンを集めて公開する。(メタデータの出番だ)
書いた「センサー」からあがってくるデータとテレビ、それに「映像」のAPIを組み合わせて、「湿度60%だったら、爽やかな映像を流す」という「編集」が可能になる。
いまある映像ライブラリを単品で販売するのではなく、「シーン」ごとに「外の人」が「編集」して利用する。
この辺は、企業同士でAPI連携して新たなビジネスを作る話。
受け手がもっと「コンテンツ」に入り込む話も考えられる。
たとえば、テレビ局のバラエティ番組で紹介されるお店や料理レシピ。あの情報をデータベース化しAPIで公開したらどうだろう。
グーグルマップとマッシュアップすれば、面白いサービスが作れそう。映像も用意すれば、他には無いAPIとなる。
家庭教師のトライが「アルプスの少女ハイジ」を使ってテレビCMを作ってる。「アルプスの少女ハイジ」の版権会社が、「おんじ」のシーンを「部品」として公開する。ファンやその部品を組み込んで遊ぶ。
さらにもっと「表現」に踏み込むとどうなるか。
時代劇の「映像」や「音」など「部品」をAPIとして公開する。
その「部品」を使って、受け手が自由に脚本を書く。
あとは、テキストと映像をミックスさせたり。たとえば、テキストで「駕籠を呼び、清水門外の御役宅を出て」という言葉が出たら、映像でその場面が5秒続く。とか。
地名、たとえば「日本橋小網町の行徳河岸の南詰から」というくだりが出てきたら3秒間地図が表示される。とか。
なんか、まだあまりうまく想像が働かないが、プロが作った「部品」を素人が組み合わせて遊ぶエンタメみたいものが広がるんじゃないか。
「受け手」が「完成品」を楽しむ世界の外側に、ちょっとだけ自分好みにカスタマイズしてみちゃう楽しみ方が出てくる。
それは「完成品」を見て感想をソーシャルで、という関係性とは少し違うものである。

 

「スマートテレビ」から「ウェブメディア」

こんなことを考えると、これからの「メディア」は、「完成品」と「部品」を両方用意する。そして、「受け手」は作品を楽しむとともに、少し自分好みに変えて楽しむ。両者の関係はそんな感じになるんだろう。
テレビとインターネットの関係を考えるとき、いままではインフラや機器の話だった。「テレビは何千万にも生中継できる」「ネットは好きな番組を好きな時間に見れる」「テレビ以外の機械にも配信する」
通信と放送の融合、ネットテレビ、スマートテレビという流れ。
そして、いまようやく「メディア」や「表現」領域でテレビ(マスメディア)とネットの比較ができる段階に来てる。
それは、ネットでなく「ウェブ」という言葉のほうがしっくりする。「テレビとウェブ」「ウェブテレビ」とはなにか?それがここしばらくのテーマじゃないか。(小林さんのこのポストを参照。イギリステレビ界のネットメディア化)

 

テレビ局はどんなAPIを公開したらいいんだろう

じゃあ、テレビ局はどうしたらいいんだろう。
「メディア」「場」「プラットフォーム」の運営には、「外の人」に使ってもらえる「素材」を作れるか?がとても重要になる。
映像素材のAPIって聞いたことないし、「表現」に踏み込んだAPIの公開もまだどこもやってない。そのAPI制作と公開はテレビ局に残されたひとつの可能性だ。
丸と線」に書いたJoinTVはそんな指向性を持ったら面白い。エム・データや東芝やエモコンがやってもいい。(氏家さんのポストを参照。)
あまりに色々なものが出たら作る側が困るので、映像関連の共通APIが必要かもしれない。
そんなAPIアグリゲーション(まとめる)をソーシャルテレビラボでやったらどうだろうか。(アメリカにはApigeeというベンチャー企業がいて、APIをまとめるビジネスをしている。)
ガラポンは、そんなテレビ関連のAPI作りの一番手として可能性があるんではないか。

 

 

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取 締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka
[amazon_image id=”4022733489″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]明日のテレビ チャンネルが消える日 (朝日新書)[/amazon_image][amazon_image id=”4492761934″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]ネットテレビの衝撃 ―20XX年のコンテンツビジネス[/amazon_image]

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点⑤

停滞する民主主義が進化する途 ワールドカップの中継番組の瞬間最大視聴率が50.8%だったそうです。このニュースを見…

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点④

ストレンジなリアリティー:ガンダムUC ep7を見て考えたこと 『機動戦士ガンダム』は30年以上前に、フォーマット…

20146/17

情報“系”の中のテレビジョン

6月は、いろんなことがある。 会社社会では6月は大半の会社の株主総会の季節だから、4月の年度初め、12月の年末とともに一つの区切りの季節だ…

20146/16

テレビというコミュニティ。あやブロというコミュニティ。

あやとりブログに文章を書くようになってかれこれ二年以上経ちました。2011年に出した『テレビは生き残れるのか』を読んでくださった氏家編集長か…

20146/13

ワンセグ全番組タイムシフト視聴は視聴率を下げるのか検証してみた〜ガラポンTV視聴ログより

リアルタイムの放送をテレビで視聴する人が増えることは良いことです。 言うまでもなくこれは「視聴率が上がる」ことを意味します。 &nb…

ページ上部へ戻る