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20126/4

6・4【落合博満氏の解説】志村一隆

 

 

未来からの逆算

先日、落合博満氏がNHKの野球中継に登場した。解説で言っていた打撃のアドバイスを翌日の草野球で試したら、なんと三塁打を打てた。スゴっ。
落合氏の解説が聴きごたえあったのは、いつも次の1球がどうなるのか話してくれたからだ。たとえば、こんな感じのことを言っていた。
「ここは彼で攻撃が終わってくれたほうがよい。次の回1番打者からのほうがはるかに攻撃オプションがありますから」
つまり、次の1球がカーブなのか直球なのかを当てるのではなく、次のプレイが試合で持つ意味を教えてくれたのだ。まるで、ベンチの監督のように、日本シリーズで優勝するという目標から逆算して、今日の試合、この攻撃、次の1球が存在し、サインを出すような気分を味あわせてくれた。
この考え方は、ゴールを掲げて、現状との差異を埋めていく米国式経営と同じだ。落合解説の視点はあくまでもマネージャーとしての視点だった。

 

リアルと表現

この落合解説番組を見ていて、あやぶろで「リアル」と「表現」について議論したのは昨年の今頃だったなぁと思い出した。(参照:前川センパイのポスト『オリジナリティーの“一点性”はやっぱり大事だと思うよ 』、志村ポスト『アートとメディア in シカゴ』)
あれ以来、野球中継は「リアル」に球場で見る以上の「表現」を作っているのか、といつも考える。放送の「リアルタイム」性が「利便性」だけを意味するのなら、新たなテクノロジーに置き換えられてしまうだろう。
その意味で、この野球中継は「落合解説番組」という「表現」として成立していたのではないか。落合氏の他に、梨田氏やアナウンサーを配し、言葉を上手く引き出していた。「中日対ソフトバンク」どちらのファンでもないのに最後までテレビの前に座っていたのは、「落合解説+野球中継」ではなく「落合解説番組」として面白かったからだ。こうした取組は、前々回で述べたテレビ三角論の視点の提示といえよう。

 

最後に、プレイヤー視点の落合解説をメモしておく

  • 現役時代は2ストライクまでは、8割ストレート2割変化球という気持ちで打席に立っていた。
  • 外角は遅く、内角は速く見えるのが、いいピッチャー。
  • 手の平は常にクリーム塗って大事にしていた。
  • 今プロの打撃フォームで子供たちに真似て欲しいと思う人はいない。
  • 打ち始めにバットと持つ手が固定され過ぎている。そのためバットを動かし始めるのが遅すぎる。
  • ピッチャーが投げる球との間合いを図るためにも、バットを持つ手は自由に。
  • 最近の打撃始動は、バットをブラブラさせるのはイケナイと教える。しかし、長嶋さんも王さんも現役時代のフォームを見ると、打ち始めに足を上げるのと同時にバットを下げている。
  • 理想の打撃フォームは川上哲治さん。
  • もし、いまバッターボックスに立ったら、試合で投げているこの投手の球種わかる。カーブ投げるときにボールの白い部分がチラっと見える。
  • ベンチで見ていて、ピッチャーの投げるボールと間合いがピタっと合っているのに、なんで振らないのって思うことがよくある。
  • 2ストライクから自分の読みが外れるとピクリとも動かず三振する打者が多いが、それではダメ。
  • 打ってやるという闘争心を持つ。
  • 現役時代も、ピッチャーが苦しんでると、このバッターは振るタイミング全然あってないから絶対大丈夫だとよく声を掛けに行った。

この「落合解説番組」を見ていたプロの解説者の方は多かったと思う。その後、同じことを言っている人を何回か見た。
今月、解説者付きの席で野球を見に行く。「リアル+解説」は「中継+解説」と比べてどうなのだろうか。解説者の方は落合氏が若い頃バッティングを真似たと言われる人。楽しみ。

 

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取 締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka

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