あやぶろ/OLD

テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

© あやぶろ/OLD All rights reserved.

20133/29

● 沖縄国際映画祭にて(志村一隆)

スクリーンショット 2013-04-18 15.48.31

那覇の「新都心」エリアの居酒屋。宜野座一葵氏は映画祭の出品代行「ガラ・コレクション」を運営している。

 

3月24・25日、沖縄国際映画祭で講演してきた。そこで感じたことをまとめてみよー。

 

今風な伝統

「めんそーれ」
紅型着た女性が迎えてくれる。古い民家的なお店。
地元の友達と行った居酒屋は沖縄の女性と結婚した本土の人が始めた。
友人がボソリと言う。
「やっぱり本土の人のほうが商売上手いんですよ」
地元の人にとって身の回りの普通の風景を、今風にアレンジして提供する。それがウケる。
そんなちょっとしたアイデアが浮かぶには、広く旅する経験と伝統をさかのぼる知恵が必要だ。
今風な伝統とは「空間」+「時間」を四方に広げる想像力から生まれるんだろう。

 スクリーンショット 2013-04-18 15.48.56

沖縄国際映画祭の会場(2013年3月25日宜野座ビーチ)

地域発「オリジナル」

「沖縄には知られてない物語がたくさんある。それを作品にする」沖縄国際映画祭で多くの人が言っていた。
なんか面白そう。でも大事なのはあの居酒屋的な感覚。ミックス感覚だ。
それに、地域「オリジナリティ」競争は今後ますます過熱する。色んな地域がウチの村の「オリジナリティ」を主張するだろう。
日本だけでない。
これから格安のスマホがアフリカや中南米にどんどん広まる。今までネットに繋がっていなかったアフリカの人たちがスマホを持つ。そして、自己表現を始める。彼らの映像は、想像もつかない風景やコンセプトの映像がインターネットにあがる。何かと何かの組み合わせみたいなヤワな話じゃない。その「オリジナリティ」度のインパクトはスゴいだろう。ワクワク。
そんなことを想像すると「地域性」に頼る「オリジナリティ」は相対的に弱くなるとなんとなくわかる。

 

「沖縄派」音楽と映画

沖縄発映画、どーしたら広まるんだろうか?考えていたら、そーいえば沖縄発の音楽はもう有名だと気づいた。
たまたま耳にしても「これは沖縄ぽいな」ってわかる。「RYUKYU DISKO」もケッコー好き。
「どの家にも三線が置いてあって、誰かしら弾けるんですよ」って、講演の司会をしてくれたFMうるまの伊波華織さんも言っていた。
音楽は羽ばたいているのに、これぞ「沖縄」的な映像って思い浮かばない。
沖縄を舞台に内地の人(本土の人)が撮った作品はあるけれど、沖縄の人が撮った作品で有名になったものはない。
なんでだろう?
まず広めるより前に作らなければならないんでないか?

 

スクリーンショット 2013-04-18 15.49.08

「デビー」を演じたジェイド・チョウさんとリー・プロデューサー(沖縄国際映画祭にて)

 

台湾映画「デビーの幸福な毎日」(黛比的幸福生活 The Happy Life of Debbie

「沖縄的電影」制作を考えるときに、とても参考になる作品が映画祭でやっていた。
台湾の「デビーの幸福な生活」という映画。インドネシアから来たお嫁さん(デビー)と台湾人の夫(元船乗り。今無職)、息子の話。
台湾人の夫が結婚のいきさつを息子に語る。
「国なんてどうでもいいじゃないか。同じ人間だろ」
まったくだ。
2月に書いた映画「東京家族」には居酒屋で「この国はどうなってしまったのか」と語るシーンがある。普通のオヤジが「国」を背負って語る。東京家族はイイ映画だったのだけれど、端々に出てくる「国」への言葉がなんか違和感あった。
(「国」でなく「クニ」なのかもしれない。そーいえば、映画「かぞくのくに」の「くに」は「家族」だとヤン・ヨンヒ監督が、先日舞台挨拶(2013年3月15日新宿角川シネマ)を見に行ったときに言っていた。)
「デビーの幸福な生活」には「国」は関係無い。国が違うというより「言葉」が違うだけ。
上演された後、舞台挨拶でリー・プロデューサーがこの映画の生い立ちを語っていた。
「台湾の移民省から依頼があってこの映画を撮影した。この映画は4作ある連作のうちの1つである。台湾には外国から来たお嫁さんが50万人もいる。色々な話があるが、どうぜなら前向きの話にしようと考えた。2年で制作した。」
この作品はとにかく台湾の今、身の回りの生活を取り上げている。息子は肌の色が違うのでイジメられる。台湾に嫁いできて家出してしまったインドネシアの女性もいる。おそらく普通の台湾の人にも気づかない普通な題材。
けれど、移民や地域、政治、国境などいろいろなものの上に普通が成り立っていることを気づかせてくれる。
「沖縄的電影」が取り上げるべき題材は、まさにこうしたモノじゃないのか。沖縄版デビー的幸福生活があったらゼヒ見たい。

 

スクリーンショット 2013-04-18 15.49.24

台湾、香港と近い沖縄。(沖縄国際映画祭・コンテンツバザールのセッションから)

 

沖縄のイメージ

じゃあ、なんでそんな作品が無いんだろう。
映画祭では、沖縄の「伝統」に目が向きすぎてる気がした。
「なんか『地元でいいじゃない』っていう守りの思想があるんですよ」
アメリカの大学に通った沖縄の友人は、進学時「沖縄でいいじゃない」と親に言われたそうだ。
なんとなく「内向き」の思想。それに、必ず言われる「沖縄の人はノンビリしてて」という枕詞。
沖縄の人を語るイメージは、南国、島国、太陽、泡盛などなどと結びついている。
でも、考えてみたら沖縄から飛行機で1時間の島「台湾」や香港に、沖縄と同じイメージを持つ人は少ないだろう。
どっちかというと、働き者でセッカチでっていうイメージではないか。自分のルームメイトは台湾人だったが、彼もセッカチでした。
だから、冒頭の「本土の人のほうが商売上手」とか「沖縄はノンビリしていて」といったイメージは風土とは関係ないのかもしれない。
じゃあなんなのか。

 

スクリーンショット 2013-04-18 15.49.34

シアター会場

 

沖縄の「リアル」を描く

少しヒントになったのが、この言葉だ。
「沖縄は補助金を貰い慣れ過ぎている」とある人が言っていた。
もし、そんな感覚があるなら、コンテンツ制作者はこう考えるだろう。
お金が入ってくるんだったら、作品がヒットしなくてもよい。お金が入れば、あと3年は作品を作って遊んでられる。
つまり、その作品でキャッシュフローを生み出す考えは無くなる。だって、新たなお金が入ってくるんだから。
「内向き」「のんびり」「お金」「題材」なんか色々繋がって想像力が膨らむ。
こんな言葉も聞いた。
「『基地反対』とお金が結びついてるんですよねー」
「沖縄で暮らしていくって、結構大変なんです」
補助金を貰うのが沖縄のビッグビジネスなんだったら、それを題材にした作品こそ見たい。そんな題材はムリなら、そのムリさを題材にした作品を見たい。
つまり、それこそが沖縄の「リアル」じゃないだろうか。
そんな作品が「沖縄電影界」に無いのは、見ちゃいけないのか、見たいものしか見ないのか、見ても表現してはいけないのか、生きる知恵なのか。
「空間」的センスは、アジアの制作者たちとの交流が増えれば経験値があがるだろう。伝統に向かう「時間」感覚もある。残りは「いま」の時間を切り取る意欲。
これが「いまの沖縄だ!」っていう作品ができれば、沖縄発映画もどんどん広がっていくんじゃないか。

 

オマケ

①沖縄県の人口は140万人。だけど観光客は年間600万人。平成24年入域観光客統計概況
②年中青い空ってわけでも無い。1月から5月まで、晴れの日は月間10日以下。沖縄気象台
③この計画書面白い。伝統的な風景として、「三線のメロディが流れ」的な指摘はあるが、沖縄の「映像」についての指摘は無い。那覇市景観計画(平成23年12月)
④No.108にコンテンツ関連の記述がある。計上額は約6,000万円。交付金全体では合計500億円。(平成24年度 沖縄振興交付金事業計画

 

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取 締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka
[amazon_image id=”4022733489″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]明日のテレビ チャンネルが消える日 (朝日新書)[/amazon_image][amazon_image id=”4492761934″ link=”true” target=”_blank” size=”medium” ]ネットテレビの衝撃 ―20XX年のコンテンツビジネス[/amazon_image]

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

関連記事

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

コメントするためには、 ログイン してください。

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点⑤

停滞する民主主義が進化する途 ワールドカップの中継番組の瞬間最大視聴率が50.8%だったそうです。このニュースを見…

20146/18

そこに、パースペクティブ=展望はあるか?2014年の論点④

ストレンジなリアリティー:ガンダムUC ep7を見て考えたこと 『機動戦士ガンダム』は30年以上前に、フォーマット…

20146/17

情報“系”の中のテレビジョン

6月は、いろんなことがある。 会社社会では6月は大半の会社の株主総会の季節だから、4月の年度初め、12月の年末とともに一つの区切りの季節だ…

20146/16

テレビというコミュニティ。あやブロというコミュニティ。

あやとりブログに文章を書くようになってかれこれ二年以上経ちました。2011年に出した『テレビは生き残れるのか』を読んでくださった氏家編集長か…

20146/13

ワンセグ全番組タイムシフト視聴は視聴率を下げるのか検証してみた〜ガラポンTV視聴ログより

リアルタイムの放送をテレビで視聴する人が増えることは良いことです。 言うまでもなくこれは「視聴率が上がる」ことを意味します。 &nb…

ページ上部へ戻る