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201110/4

N’夙川BOYSとモテキに見る、不安定な物語とソーシャルの関係 - 志村一隆

物語はちと?不安定

映画「モテキ」見てから、そこに挿入されている「N’夙川BOYS」の「物語はちと?不安定」という歌が耳を離れない。鳴り止まないっ(by 神聖かまってちゃん)(筆者注:バンドの名前です)。
そういえば、あやぶろの2011/8/1ポストで、河尻さんが「安定的な制度を構築するためには、物語性を付与し、時間軸の中でデザインする必要がある」と述べていた。2011/9/10ポストで前川さんが指摘した論点Ⅳ「マスメディアとソーシャルのハブ構造」もこのあやぶろでよく話題になっている。
ただ、僕はこのマスとソーシャルのハブ構造という言葉が「何が何だか全然分かりませーん(by 神聖かまってちゃん)」状態だった。しかし、「モテキ」を見て、なんとなく「物語性」と「ハブ構造」について、こういうことなのかと思った。

物語を辿る物語性が物語を拡張する

映画版「モテキ」を見たら、たまらず録画したテレビ版を一気に見てしまった。その後、インターネットでプロデューサー、監督、原作、主役、挿入されたバンドなどなどのインタビューを読んだ。作品がマジ面白いとなると、インターネットで調べたくなる。「このバンド誰?」とか、「このシーンのロケはどこ?」とか。
「モテキ」はこうした受け手の検索意欲に答えるかのように、原作者、監督、プロデューサーが、音楽メディアや動画メディア、ニュースサイトに大量の痕跡を残している。
その痕跡を辿れば、作者から「提供される物語」を、受け手の興味で再構築する「自分だけの物語」が出来上がる。
たとえば、「神聖かまってちゃん」の「ロックンロールは鳴り止まないっ」を何度も聴いてから、もう一度ドラマ版の第6回を見ると、前回見たときと違うシーンが気になったりするのだ。バクバクしてくる。(byフジファブリック)

マイクロソフト「Bing」のプロモーション

先日セミナーで、河尻さんが、マイクロソフトの検索エンジン「Bing」のプロモーションについて教えてくれた。Jay-Z(Beyonceの旦那)の著作「DECODED」に出てくる場所を、彼のファンがBingで検索し、リアルにチェックインするというプロモーションだ。
作り手が仕掛けたインターネットとリアルを融合させた物語を辿る仕組みが、受け手に用意されている。

マイ「物語」を拡張する仕掛け

「モテキ」を見たあとの僕の行動は、「DECODED」を読みBingで検索し、リアルな場所を辿ったJay-Zファンと同じだ。「モテキ」にマイクロソフトが仕掛けたようなインターネットのプロモーション戦略があったかどうかはわからない。
しかし、インターネットに大量に残されている監督のインタビューは、受け手にマイ「物語」を構築させ、マスに向けた「モテキ」をマイ「モテキ」としてしまうのに充分だ。
作品の物語性の周りに無数のマイ「物語」が配置されるというコンテンツの有り様、それがコンテンツ視点の「マスとソーシャルのハブ構造」と言えるのではないだろうか。「せんぱい」どうでしょうか?
こうしたマイ「物語」の成長には、ソーシャルに点在する監督や原作者のインタビューが面白いというソフトの部分が重要だ。
それでも、「モテキ」のテイスト感やインターネット展開の構造は、まだまだ試行錯誤が続いているマス向けのコンテンツがいかにソーシャルと連携するのかというテーマにひとつの答えを出していそうだ。

「つぶやき」の次は、物語性?

山脇さんが、テレビはツイッターで「ぶっちゃけ性」を獲得したと述べた。(2011/6/23ポスト)それは、リアルタイム性を重視した視点だ。受け手の反応に瞬間的にリアクションすることで、テレビジョンのリアルタイム性がより加速する。
作品に刺激され「つぶやく」ことはもうわかった。だが、マスとソーシャルの関係はそれだけは無いだろうとモヤモヤしていた。
それが、河尻さんの言うソーシャル空間に持ち込む作り手側の仕掛け、編集作業によって作り出される物語性なのだろう。違ったら教えてください。
9月に訪れたサンフランシスコでは、ツイッターの呼びかけで公共交通機関に対しデモを目の当たりにした。ジャスミン革命しかり。行動を起こさせる何かがソーシャルメディアには内在している。「DECODED」や「モテキ」でも、それを起点にソーシャル上の「物語」渉猟を体験した。
このソーシャルの行動喚起性をどのように構造的に組み込むかが、今後のコンテンツに対する変化となるのだろう。そのためには、作品にたくさんの情報を詰め込むことが必要となる。このあたりは、毎度気になる須田さんのユルさを持ってツッコミを入れられる作品とはまた違ったテイストになるのだろうか。

「リスナーが主役」という視点

少し話しはズレるが、「モテキ」に関する記事で、「ro69」の兵庫慎司さんが、モテキは「リスナーが主役」な点が重要だったという指摘をしていた。音楽が溢れる作品で、演奏者が主役の作品はたくさんあるが、聞き手が主役の作品は見たことがないという。面白い指摘だ。
リスナーは、日常生活に溢れる情報を自分好みに取捨選択している。「モテキ」に組み込まれる情報も、作り手のセンスで編集されているのだろうが、目線は
リスナー側にある。
この「受け手が主役」という視点は、氏家さんがセミナーで指摘していた「テレビ局と視聴者の距離」を縮める方法論としても参考になるのではないだろうか。
ソーシャルに情報を点在させるにしても、作品の公式ページに公式見解情報を載せても、マイ「物語」は拡張しない。コンテンツでもマーケティングでも、「目線は受け手」の意識が重要だ。

ちと?不安定な物語

クリエイティブ性は再現できないが、その構造やマーケティング戦略は少なからずマネできる。そんな意味で、「モテキ」は参考になる作品だ。
なにより、N’夙川BOYSの「物語はちと?不安定」はオススメ。

参考:点在する「モテキ」のソーシャル展開

■「モテキ」の脚本・監督大根仁氏や原作の久保ミツロウ氏のインタビュー(RO69、大特集!「映画『モテキ』と音楽」インタビュー!!)

http://ro69.jp/feat/moteki201109_1

■大根監督とマンガ『モテキ』の作者久保ミツロウ氏の対談 (RO69、対談!「マンガ『モテキ』」久保ミツロウvs「ドラマ『モテキ』」大根仁、2010年8月23日)

http://ro69.jp/feat/moteki201009-1

■映画「モテキ」のプロデューサー川村元気氏のインタビュー (松丸友紀のトレンドスクラップ)

http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20110907/1037617/?ST=life&P=1

■大根監督のインタビュー動画 (ドガッチ、つくるひと縲恊ァ作者に聞く舞台裏)

http://dogatch.jp/interview/tsukuruhito/index.html?bclid=p-int_no.82

■大根監督と映画「モテキ」の主題歌を歌う「女王蜂」の対談 (ナタリー、女王蜂アヴちゃん×大根仁対談でお互いをリスペクト)

http://natalie.mu/music/news/57259

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka

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