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20116/28

「アルルの寝室とテレビ表現」 ― 志村一隆

時空を超えた重層な関係性
木原さんポストに、「アルルの寝室」が3枚あると教えて貰った。私は、シカゴで見た2枚以外の場所にも行っているのに、見た記憶が全く無い。。。
木原さんは、現実を目の前に、蓄積された記憶とのズレを感じたが、自分はそのズレすら感じない。絵の実物からはオーラを感じなかったのだろうか。
前川せんぱいは、「テレビ中継」とは、「中継されることによって、視聴者との間に成立する新たな関係性の創出」だと解く。
この「アルルの寝室」体験は、木原さんポスト、シカゴで見た作品、ゴッホが見たリアルな寝室、その後のインターネット体験、時空をまたいだ中継が、実物、対象、表現を貫く重層な関係性を創出している。その関係性こそがリアルと呼べるものではないか。そして、その層が重なるごとに、それぞれの関係性が新しくなる。
なぜなのか?それは、各々のリアルにズレがあり、そのズレを許容した上での関係性だからであろう。

ズレの認識を拡大とメディアの立ち位置
山脇さんは、テレビが「建前」重視になっちまったと嘆き、それが「ソーシャルで壊されることを期待」する。
「実物」を「対象物」として認識した時点で、個々の認識にはズレが生じ、それが表現に昇華される。前川さんに指摘された、実物、対象、表現の整理はこれであっているだろうか。
個々のズレを無視する、その姿勢が「建前」であろう。「建前」は、大きな組織運営にある程度必要な心持ちだ。その「建前」で構築されたのが、マスメディア上の共同体ではないだろうか。つまり、テレビは表現よりも、自らが属する大きな仕組みの存続を優先してしまったのではないか。
前回ポストで指摘したように、ソーシャルメディアが巷の記録装置だとすると、テレビが「建前」構築のために無視できたズレが顕在化する。それは、今までコミュニケーションの分野だと思われていた部分が、メディア領域に浸食することを意味する。また、リアルとストック、実物とコピーを、交互に往来する愉しみが普通な世の中になる。
6/21の前川ポストで指摘された「リアルへの過度な寄りかかり」から、リアルに生じるズレを前提とした表現領域にテレビが入らない限り、中途半端な立ち位置になってしまうのではないか。(4/28の前川さんポストの「時間性」についても参考になる)
ゴッホが描いた空間は個々のズレを楽しむ余裕があるのに、テレビを巡る議論では、「偏向報道だ」、「やらせだ」ということになりがちだ。それは、テレビが「建前」を真面目に遵守しすぎたからではないだろうか。山脇さんの言う通り、それがぶち壊され、テレビに新たな表現が生まれ、木原さんのようなあやとりができる社会は楽しいと思うがどうだろうか。

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka

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