4・4【日本から出る人と日本に来る人と】志村一隆
ニューヨークのTONKOTSUと日本の豚骨
ニューヨークのMENKUI-TEIでトンコツラーメンを食べながら考えた。ニューヨークのTONKOTSUは稲井さんポストにある「フラット化」された場の「多様性」を示していないか。
民主化や資本主義のルールで世界がフラット化され、博多の豚骨ラーメン店が米国に来られる。それでも、ローカルな食材や作る人によって、味はちょっと変わる。世界がフラットになっても、作り手が頑張れば多様性は残される。
フラットな世界の作り手
前回のあやぶろで、受け手に媚びない作り手の意識について書いた。そうしたら料理研究家の山脇リコさんが「作り手の責任放棄、もったいない」とコメントを寄せてくれた。まさに、もったいないと思う。
作り手にとってフラット化された世界はチャンスだ。知り合いの画家は、インターネットで見つけたニューヨークの画廊と連絡を取って、個展開催にまでこぎつけた。英語は話せないが、ビジネス文法は同じなのだ。
「フラット」議論で大事なのは、フラット化されるのは場であって、コンテンツや文化では無いところだ。場がフラット化されたからと言って、文化の単一化を危惧するのは、サボっている作り手のボヤきであろう。
「テレビ=グローバル」と「テレビ=ローカル」
もちろん、フラット化された側か?した側か?では立場が違う。BBCやCNNは世界中どこでも見られる。彼らは世界をフラット化する側の欧米メディア、フラット化される(た)日本とでは立場が違うからだ。
かといって、西さんの言うように「日米の商慣行の違い」を理由に、守ってばかりもどうなのか?場のフラット化が、メディアのローカル性を無くすなら、コンテンツの作り手として、フラットな世界を利用する側になってはどうか。その意味で、境さんの「コンテンツ=コミュニティ」論が、日本やテレビという枠を超えるまで発展できれば面白い。稲井さんの「テレビ=ローカル」論も、コンテンツの話をしている。
日本を出て成功する人
「フラットな世界」を前提にして生きるか、それに抵抗するか。
ニューヨークで和食器を扱う会社の社長は、30年前和食レストランでウェイトレスをしていた。そんなある日、日本の食器を販売するビジネスをしようと思い立った。そこで、仕事の休憩時間に毎日、近くのデパートへ売り込みの電話をした。1ヶ月毎日同じ時刻に電話を掛けてくる女性に根負けして、電話オペレイターがバイヤーに取り次いでくれた。アポを取り付け、商談成立。今では全米のレストランと取引している。
WOWOW元社長の佐久間氏は、松下電器時代、欧州赴任になったとき、現地でまだ売る商品が1つも無かった。そのとき、松下幸之助氏に「まず松下の理念を売ってくれ」と言われたそうだ。そこで1年間、現地の販売店を廻り、商談ではなく松下の理念を語った。あとで、その理念を共有できたお店は強力な販売網になっていった。
三遊亭竜楽さんは、毎年ヨーロッパにツアーに出かける。現地の言葉で落語をするのだが、間の取り方などで充分ウケている。
こうした成功例には、商慣習の違いなんて乗り越える個の強さがある。
日本に来る人
今月ロシアやフランス、それに南米からも友人が遊びに来る。なぜか?桜を見たいのだ。彼らはTokyoでSakuraを見るために来る。そのためにもう2年くらい準備していた人もいる。彼らにとって、大事なのは、桜を「日本」で見ること。自分の国でなく、日本で見たい。大興奮。ワオ。
シンガポールの人が「made in Japanのソニーを買いたいのよ」と言っていたように、稲井さんがレノボの日本生産の話を紹介してくれたように、日本でしか手に入らないモノは武器になる。
ところが、あるメーカーの人と同じ話をしていたら、「made in Chinaでも日本人が管理すれば、国内と同等のモノが作れますから」と言う。彼には、私の友人たちがなぜ桜を日本で見ることに興奮しているのか?中国人がアキバでmade in Japanの炊飯器を買うのか、が理解できてない。
ローカルをもっと生かせば、世界に出られる。
そうすれば、桜はsakura、豚骨はTONKOTSUのままだ。英語に訳さなくても通じるって、とてもラク。
志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取 締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka
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