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20116/24

「フツーの感覚とメディア」 ― 木原 毅

 山脇ポストのあやとりから始めよう。たしかに『あさイチ』の従来の(NHK)テレビの文法を壊すようなスタイルが面白い。去年の春、8時ちょうどに『連続テレビ小説』、15分から『アサいち』という大改編に踏み出してまもなく、(当初は編成を定着させることをかなり意識したものと思われるが)MCをつとめる出演者たちが前番組である連ドラ『ゲゲゲの女房』の感想を言い合ってスタートする、というオープニングを何回か見せてくれていた。

 それが今シーズンはもっとエスカレートして、「脇汗事件」の2週間後、6月10日には『おひさま』を観て有働アナが涙を流し、それを見たゲストが「びっくりしました、番組開始前に司会者が眼を真っ赤にしているとは」と本当に驚愕して始まるという、これまでの段取り重視のNHKでは考えられない、民放ラジオも顔負けの「本音クロスプラグ」が売り物になりつつある。

 山脇さんの指摘にあるように、フツー然とした番組がソーシャルメディアと放送の新しいパラダイムを作る可能性がなきにしもあらず、である。この番組は要観察かも。 
  http://www.nhk.or.jp/asaichi-blog/100/    

 しかしである。思い起こせば、朝のニュースショーや朝ワイドは新しいスタイル開拓にどん欲だった。番組冒頭から事件現場の生中継や取材VTRで引っ張れるところまで引っ張る。何枚ものフリップを使う。巨大なボードを使う。もっともっと前にはスタジオで泣く(古いね!)というものあった。日本におけるワイドショーの嚆矢となった『木島則夫モーニングショー』がそれ、TVを変えた番組のひとつである。用意された言葉ではなくキャスター(当時はそんな言葉はなかった)がインタビュー中に思わず本音を漏らしてしまう、生番組の醍醐味を教えてくれた。

 そろそろ、メディアは自ら使っている「言葉の55年体制」から卒業してみてはどうだろうか。「政府首脳」、「政府高官」、「党首脳」~これらはオフィシャルな会見ではない記者懇談での「官房長官」、「官房副長官」、「幹事長」のオフレコ発言を報道するときに使う新聞用語(最近は少なくなったがTVもたまに使うことがある)であるが、「政府首脳の発言を官房長官が否定する」という茶番にフツーの人はいい加減うんざりしているのに、ムラの構成員たちは気づいていないフシがある。

 それが端的に表れたのが今回の原発事故をめぐる関係者たちの発言だろう。内閣参与をつとめる劇作家の平田オリザ氏が旅先の韓国で、原発の汚染水を海に流したことについて「アメリカから要請があった」と漏らす。近現代史の泰斗で内閣官房参与の松本健一氏が「原発周辺には10年、20年は住めないかもしれない、と菅首相が言った」と記者団に話してしまう。彼らはその後否定したが、恐らくそれに近いなんらかの発言があっただろうとフツーの読者や視聴者はたぶん認識している。メディアが自らの進む道を閉ざさないためにはまだまだすることがたくさんありそうだ。

木原毅(きはらたけし)プロフィール
1978年早稲田大学文学部卒業後TBS入社。ふりだしはテレビ営業局CM部。その後約20年ラジオのさまざまな現場生活を経て、2000年頃からインターネット・モバイルの部局へ。07年よりTBSディグネット代表取締役社長。

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