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20111/24

「ジャスミン」革命で思うこと ― 木原毅

 チュニジアの政変(すでにジャスミン革命という呼び名が生まれています)では、フェイスブックやツイッターによる市民デモ参加の呼びかけ政権崩壊の一助となった、と日本の各メディアも報じています。
 これも「ウィキリークス問題」と同じように「グーグル的なもの」と「反グーグル的なもの」の空隙に生じた「虚数」のようなものが作用していたのではないでしょうか(と前川さんの指摘を拡大解釈しています)。

 チュニジアは、紀元前から地中海世界の一部でしたし、アラブ諸国のなかにあっても、大勢の観光客を受け入れているため、かなりオープンで治安のいい国というイメージがあります。政変時に日本人旅行者が200人近くいたというのもその理由からでしょう。しかし治安のよさは、外国人観光客(=グーグルを普通に使う国から来た人たち)にとっての治安のよさであり、ある意味では長期政権による独裁がもたらしたものだった。さらに彼の地に影響力を持つアメリカ(=グーグルを生み出した国)やイギリス、フランスは、イスラム原理主義の蔓延を恐れるゆえに独裁の延長を望んでいた。
 今回の政変は、そんな入れ子のような構造が爆発してブラックホールのような状態を作りだした、という印象を受けました。

 そして、いまメディアはこの状況を表層的な問題ではなく、構造的に捉えることが求められているという気がしました。

  以下余談です。

 昔、といっても1980年代のことです。CNNは誕生してはいましたが、まだ世界各地から映像やリポートをアップリンクできるような状態ではなかったと思います。
 そのころの中東情勢のニュースのクレジットに「ニコシア発」というのがよくありました。ニコシア発AFP、ニコシア発ロイター、などというものです。
 記事の内容は、当時、パレスチナ問題もからんで複雑な内戦が続いていたレバノン情勢のものでしたが、僕が興味を持ったのはニュースの本記ではなく、発信源のニコシアです。どこにあるかと言えば、地中海に浮かぶキプロスの首都。海を隔てたレバノンのニュースがなぜニコシアから伝えられていたかというと、敵味方が入り乱れどこから爆撃弾が飛んでくるのかわからないような状態でしたので、対岸の地に避難していたわけですね。

 たまたま仕事で出会った元ニコシア駐在の特派員に尋ねたことがあります。 (もちろん東京で、です)
―ところでニコシアで各社の記者は何をしているのですか?
 「レバノンからのラジオ放送や無線傍受して動向をまとめ、記事にして
 いたんですよ。」 (やっぱり)
―いちにち中、スパイみたいなことをしているのは大変ですね。
 「いや、日本の記者はもちろんのこと、欧米の記者だって、そんなに現地
 の言葉に堪能な者はいない。ラジオや無線は当然現地語だから傍受するの
 は現地の助手。翻訳してもらったものを吟味し再構成して、僕らと同じよ
 うに避難してきた外交関係者にぶつけて一応ウラを取る。そんな毎日だか
 らだからみな大抵の時間は日向ぼっこしながら読書でもするしかなかっ
 た。」
というものでした。

 たった四半世紀で、世界をとりまく状況は激変です。
 日本で家庭用ビデオカメラを開発したひとたちは、東欧でこの道具が自然発生的なデモの映像を記録し、その結果として政権を崩壊させることになるとは、まさか思わなかったように、フェイスブックやツィッターを世に放った人たちもこのツールがこんなことに使われるとは思わなかった(はずです)。

 もはや後戻りできないメディア状況で、メディアの役割のきわどい変化を、どこまでメディア側の人間が自覚しているか、それが問題だと感じずにはいられません。
 

木原毅(きはらたけし)プロフィール
1978年早稲田大学文学部卒業後TBS入社。ふりだしはテレビ営業局CM部。その後約20年ラジオのさまざまな現場生活を経て、2000年頃からインターネット・モバイルの部局へ。07年よりTBSディグネット代表取締役社長。

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