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20111/18

「前川さんの「生活と政治」が近かった、というコメントで、昨年末に読んだある本を思い出しました。」 ― 木原毅

『全学連と全共闘』(平凡社新書)。

 戦後(注1)の学生運動の流れを関係者たちへのインタビューを軸にまとめたもの。得てして「全共闘」ものは思想的な距離も含め当事者に近い書き手によって編まれたものが多いのですが、この本の著者・伴野準一(とものじゅんいち)さんは全く違う。本書に掲載されたプロフィールによれば、 <1961年東京生まれ。筑波大学卒業。IT業界でテクニカル・ライター、コピー・ライター、広告・宣伝、インターネット・マーケティング等に従事した後、ノンフィクション・ライターとして幅広い分野で活動中>だそう。

 著者にとって一世代前の若者たちは、なぜ命を賭してまで真剣に革命運動に身を投じたのか、というのが執筆の動機だったといいます。過度の思い入れがないぶん極めて客観的に、礼節を持って語られています。この本の前書きで伴野さんはこう記している―。

< 革命運動が存在したことを全く知らない人も多いだろう。革命運動について耳にしたことはあっても、そんなものは世間知らずの若者たちの茶番であり「ごっこ」であり狂気であり、オウム真理教のようなカルト運動の一種に過ぎないと考える人が多いのではないだろうか。/一面でそれは事実かもしれない。(中略)/しかし、戦後のプロレタリア革命運動は、そもそもの原初から現実を見失った妄想や狂気だったわけではなかった。それはようやく終戦を迎えた日本再建のための希望とともに始まったのである。>

 この本のことを思い出したのがきっかけで、「あやとりブログ」の個々の発言がかたちをかえながら頭のなかでうごめき出しました。そして当然のように2つの妄想が湧き起こります。

 かなり乱暴な設定ですが、当時の「学生運動」を現代のwebの世界の「ソーシャルネットワーク構築」と読み替えてみることはできないだろうか?
 もうひとつは、学生運動家たちがいまのウィキリークスみないなシステムを手に入れたらどうなっていただろうか。彼らは情報をどう扱っただろうか?というものです。
 
 そんな思いも抱きつつ、先週末デヴィッド・フィンチャーの『ソーシャルネットワーク』を観に行きました。ご存じ「フェイスブック」を創ったマーク・ザッカーバーグの成功にいたるまでの光と影を描いたものですが、非常に面白い。「エンタテインメント」としても「作家作品」としても楽しめます。ある人(注2)が映画評で< そばにいたらイヤな人物ばかり出てくるがとてつもなく面白い>と語っていましたが、当たっています。
 モテない!という絶望的な局面から生み出された初期「フェイスブック」から、テレビや音楽、映画などすべてのコンテンツのソーシャル化という現在の「フェイスブック」のコンセプトがつくられていったか、このあたりを、人間のあやを巧みにえぐりながら、(映画に詳しい人なら黒沢明の「羅生門」を連想するでしょう)、青春群像劇として成立させています。
 そんなもんじゃないよ、という方もいらっしゃるでしょう。理念ありきの革命運動と、理念は走りながら考え出されたソーシャルネットワーク。しかし、日本の学生運動内部の人間愛憎劇にも通じるものがあったのではないか、と思います。
 
 また、なぜ「フェイスブック」は実名なのかこの映画でよくわかります。理念よりもまえにコミュニティやソサイエティが大前提として存在する世界。これらの言葉を日本語化することは難しい、とあらためて痛感しました。

 community、societey、identitiy、さらにそれらと密接に繋がった欧米での学生寮(domitory)や学生組織(fraternity)の実態を説明することの難しさが、実名をめぐる考え方の違いを説明しにくいものにしているのでしょう。

 だからではありませんが、日本で尖閣ビデオはいびつなかたちで漏洩したのではないか、とも感じてしまいました。個人を支えるコミュニティやソサイエティの概念が乏しいないところでのウィキリークスはどうなるのか?
 なかなか重い課題です。

  注1 正確に言えば砂川事件(闘争)から;砂川事件(闘争)とは1955年、米軍立川基地拡張計画に反対する地元住民やこれを支援する学生や労働組合と警官隊との衝突。砂川基地は現在の「昭和記念公園」などに。

 注2 永千絵さん;送批評懇談会が出している月刊誌「GALAC」2月号の映画評。

木原毅(きはらたけし)プロフィール
1978年早稲田大学文学部卒業後TBS入社。ふりだしはテレビ営業局CM部。
その後約20年ラジオのさまざまな現場生活を経て、
2000年頃からインターネット・モバイルの部局へ。07年よりTBSディグネット代表取締役社長。

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