「マイ・バック・ページ」を読んでびっくりしたこと~あやとりの妙 ― 木原毅
読むきかっけを逃してしまった本というのがあって、最近ではまさに『マイ・バック・ページ』がそれだった。前川せんぱいの「重くて切ない時代だった」という言葉に惹かれて、思わずアマゾンに注文した次第。
僕は川本さんより一世代若いし、時代を共有していたとは言い難いが、青春の苦さ切なさは普遍的で心を打つ。それゆえに今年映画化されたのだろう。一気に読んでしまった。
驚いたのは冒頭に樹村みのりのコミックスからの引用があったこと。
それからわたしたちは 大きくなった
こどもだったわたしたちはみな大きくなった
わたしたちのうちの一人は留学のために羽田をたったばかりで
もう一人は72年の年の2月の暗い山で道にまよった
この言葉を受けて川本さんの物語は始まるのだが、いま樹村みのりを知っている人はどれくらいいるだろうか。少女漫画家で萩尾望都や竹宮恵子といった一時代を画した有名漫画家とたしか同世代のはずである。
それはさておき、引用は樹村さんの『贈り物』という漫画の、主人公のモノローグの一節である。
漫画のストーリーは20歳そこそこと思われる主人公の、小学校時代の回想から始まる。
ある年の夏休み、彼女を含む仲良しの5人は近所の林のなかで一人の浮浪者に遭った。
「きみたちがほんとうにのぞむなら/世界はほんとうに美しいものなんだ」と言う浮浪者のおじさんの言葉に子供たちは惹かれる。親に止められても5人の仲間は浮浪者の話を聞きにゆく。彼はひょっとしたら世界を変えてくれる人かもしれない、淡い期待が芽生える。しかしある日、住民の通報を受けて現れたお巡りさんに、関係は引き裂かれてしまう。
当然ながら浮浪者は追い出されるが、旅立つ前夜、子供たちに天国への切符をあげると言い残す。彼が示した場所には、「きっぷ」と書かれたガラス片が埋められていた。
そしてくだんのモノローグへと続くのである。
どうして僕がこんなにはっきりとあらすじを書くことが出来るのかと言うと、この『贈り物』が収録された『ポケットの中の季節』という単行本をたまたま持っていたから。
じゃあなぜ持っているのか・・・、川本さんが今回のあとがきに記しているように「72年の年の2月の暗い山で道にまよった」はあの連合赤軍事件の暗喩であり、僕も誰かにこんな漫画があるよと教えられたか、あるいは誰かが書いているものを読んだからに他ならないのだが、それが誰だったのか、何を読んだのか、思い出せない。
ちなみに漫画が描かれたのは1974年、単行本として刊行されたのは1976年。僕が買ったのが同年か翌年あたりか。いま読み返してみると、「マイ・バック・ページ」と同じようなほろ苦さを感じる。
また、ちょっと刺激的な漫画が普通の少女漫画雑誌(別冊少女コミック)に掲載されていたというのも、改めて驚かさせる。ちょうどコミックスそのものが大きく動いていた時代だったからなんだろうか。
とこんな思いを巡らすことができたのも「あやとりの妙」でしょうか・・・。
木原毅(きはらたけし)プロフィール
1978年早稲田大学文学部卒業後TBS入社。ふりだしはテレビ営業局CM部。その後約20年ラジオのさまざまな現場生活を経て、2000年頃からインターネット・モバイルの部局へ。07年よりTBSディグネット代表取締役社長。
コメント
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