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20119/9

セミナーを聞いてちょっと連想したことなど ― 木原毅

メディア総研セミナーが終わった。期待のセッションの冒頭で河尻さんが、『ソーシャルメディア』という言い方はおかしい。ソーシャルネットワークをメディアとして捉える感覚が、かえって構造を見えにくくしているのでは、と刺激的な発言が飛び出し、なかなかエキサイティング。90分があっという間だった。

ところで、全くの余談になってしまうが、河尻さんがセミナー中に紹介したカンヌでのフィルム部門グランプリ作品を観て思い出したこと、それから連想したことなどを書いてみよう。
 
その作品とは『ナイキ』のW杯ヴァージョン。映像も素晴らしいのだが、有名選手のプレイにあわせるように、FOCUSというグループの『HOCUS POCUS』という曲が実に効果的に使われている。邦題は『悪魔の呪文』。CMの音楽は「あれ聞いたことあるけど、なんだったかな」と思いつつ確認を忘れてしまうことが、僕の場合あまりにもにも多いので、これはいい機会と、セミナー終了あらためて調べてみたら1971年の作品。なんと40年まえ、懐かしい。まさにマイ・バック・ページの頃。ビートルズが解散して、ストーンズもちょっとお休み、ポピュラー音楽がちょっとした閉塞感を抱えているなか出てきたのが、エマーソン・レイク&パーマーやジェスロ・タル、そしてこのFOCUSだったと記憶がはっきりしてきた。

 さて、いっぽう、当時の日本のポピュラー音楽状況はと言えば、1960年代末に興隆を極めたGS(グループサウンズ)のブームが終焉を迎えようというあたり。シンガー・ソングライターと呼ばれる人たちがフォークソングのジャンルで出始めてはいたものの、メインストリームはプロの作詞家・作曲家が曲を作り、歌い手はそれを歌う。レコード会社やプロダクションはTVの歌番組にできるだけ露出させ、ヒットに繋げようという時代だった。ちなみに1971年のレコード大賞受賞曲は「また逢う日まで」(尾崎紀世彦)、1972年は「喝采」(ちあきなおみ)。この2曲はちょっと異質かもしれない、その前後は森進一、
五木ひろし、という顔ぶれ。

そんなレディメイド音楽全盛の状況を自ら変えるべくGS界のなかから登場したのがPYG(ピッグ)というスーパー・グループだった。実力派と目され演奏力にも定評があったスパイダースを核に、タイガースから沢田研二、テンプターズから萩原健一を2枚看板に据え、渡辺プロダクションのバックアップ、と余りにも豪華な布陣だったのだが、話題になりこそすれ彼らの曲はそんなに流行らなかった。コンセプトはアイドルではなく音楽的にも優れた日本初の本格的ロックバンド。

彼らが試行したことは、数年後カウンターカルチャーの流れのほうだったフォークソング(ニューミュージックと呼ばれていた!)で結実することになるが、それは荒井由実が松任谷由実に変わる時代まで待たねばならなかったはず‥‥‥、こんなことを思い出しつつ当時の概況に思いを馳せる。
PYGが発足時に目指したものは間違ってはいなかった‥‥‥(事実後身である沢田+井上バンドは、70年代後半から80年代にかけて日本の音楽シーンをリードする以上の存在だった)、だが、どこかで読み違えがあった。
このあたりは、いまのTVが陥りがちな状況と近似ではないか、セミナー後あれこれ思いをめぐらすうちに、そんな考えがよぎった。

 さて本筋。セミナーの終盤、TVの作り手(個人でなく、たぶん総体としての作り手)は100人が視て100人が同じように面白がる番組をめざそうと考えすぎているのではないか、ソーシャルネットーワークを機能させることでさまざまな見方ができる番組が作れないか。解はまだ見つからないが、示唆的な言葉がセッションのなかから出てきた。
 テレビマンユニオンの村木良彦氏が、かって著書『ぼくのテレビジョン』のなかで、「100人が100人とも面白いという番組より、100人のうちの60人が、60とおりの見方ができるテレビ番組がすぐれた番組ではないか」という趣旨の発言をしていたことを、咄嗟に思い起こした。TVの本質的な役割は変わってはいないことも感じさせてくれたセミナーだった。

*Focusはオランダのグループ。当時のジャンルではプログレッシブ・ロックと呼ばれて いた。
*PYGは,沢田、萩原に、ギターが井上尭之、キーボードが大野克夫、ドラム大口広司、 ベース岸部一徳。

木原毅(きはらたけし)プロフィール
1978年早稲田大学文学部卒業後TBS入社。ふりだしはテレビ営業局CM部。その後約20年ラジオのさまざまな現場生活を経て、2000年頃からインターネット・モバイルの部局へ。07年よりTBSディグネット代表取締役社長。

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