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20119/12

「SNS」+「テレビジョン」=「ソーシャルメディア」 ― 志村一隆

環境変化を念頭におかない経済合理性

ソーシャルメディア、おっとSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)だった(そうだったヨネ!河尻さん(マエカワセンパイ風です))。SNSには、巷の会話がアーカイブされていく。そして、マスメディアの信用性が今のままでは揺らぐ、と2011年3月3日(テレビの信用は何に因って担保されるのか)に書いた。
ちょうど、「あやぶろトークセッション」で氏家さんが「テレビ局は視聴者との距離が遠くなっている」と問題提起した。その距離を縮めるのにSNSとどう付き合ったらよいのか?というのが、今回のセミナーのテーマだった。
氏家さんは「SNS上では情報編集が必要」と言い、僕は「必要ない」と言った。それは、SNSは、その特性を論評するより、自ら飛び込んで体験したほうが何か掴めると思ったからだ。
2011年9月7日ポストで前川センパイが「旗印を」と述べている。旗印って、自分でリスクを負って意見表明することですよね。しかし、組織に属していたら、リスクを負って意見表明してもリターンが少なすぎると考えてしまう人がいるかもしれない。
というのも、「あやぶろトークセッション」があった日の午後、別な会場でテレビ局の人がこう言うのを2回も聴いたからだ。
「韓流を放送するのは、経済合理性に適っている」
コストが安くてつまらない商品を置いてあるお店でも、人通りの多いお店だったら売れる。しかし、そんなお店は、人の流れが変わったら、それでも集客力はあるのか。引き戻す力はあるのだろうか。
河尻さんがセッションで、「今年のカンヌで受賞した作品にテレビで流しているCMはない」言っていた。
「ナイキはテレビの予算を半分に削った」そうだ。広告を出す側だって「経済合理性」を考える。
韓流を放送する経済合理性は、店のある通りとは別に新しい通りが出来るという環境変化のリスクを考慮してない。マジメに考えすぎだ。環境に従順すぎでもある。

歌舞伎化したテレビとSNSによる再生

今回、氏家さんや河尻さんとトークしてわかったのは、マスメディアはSNSが知的好奇心の経済合理性を満たしてくれるのではないかという点だ。旗印を掲げる人にとって、SNSに記録される多様な意見から同じ意見の人を探せば、少しはリスクが減るんじゃないだろうか。
氏家さんが言った「視聴者との距離」は、テレビ局が考えた予定調和な世界観に視聴者をむりやり押し込めているから生まれる。
テレビ的表現と言うのだろうが、たとえば夜のニュースでスポーツコーナーを見ていると、カットやアナウンサーの言い方で、どっちが負けたか、途中でわかってしまう。「それでもいいのだ!」とテレビの人が言うのは自由だけれど、視聴者は「テレビが変わんないなら、もっと面白いのをインターネットで探すよ」と思うだろう。宇宙がどんどん大きくなっているように、テレビと視聴者の距離は加速度を増して広がる。
歌舞伎を楽しむには歌舞伎座へ、相撲は国技館に行くしか手段がない。お客は表現者側の流儀に合わせなければならない。日本舞踊は、型の意味を勉強しなければ楽しめない。
50年前、「テレビジョン」時代は、テレビがいちばん新しいテクノロジーだった。このままライバルが居ないまま時間が経てば、テレビも歌舞伎のような伝統芸となり、税金で生きていくしかなくなるだろう。
しかし、SNSが出来ちゃった以上、テレビは表現手法の再構築を強いられ、うまく再生されるのではないか。それには、あまりマジメすぎない人が必要だろうが、もしうまく行けば、SNSとテレビジョンを合体した「ソーシャルメディア」が出来るに違いない。

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka

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