● テレビドラマと職人文化②(稲井英一郎)
職人が支えてきた映像制作能力
話を元にもどしてみる。
普通の人の日常をこまごま描くこうした映像表現を物理的に支えてきたのは、先にあげた技術の職人集団である。それはかってはテレビ局社員が中心だったが、現在においては各テレビ局が抱える系列の技術専門会社に人材がシフトしている。
これらの会社に対しては放送機器を開発する世界的メーカーからも助言が求められ、頼りにされることがある。
たとえば世界のトップシェアを誇るレンズメーカーは、野球中継を実際に担う技術者から寄せられた助言をHD用の超広角ズームレンズ開発に採用したことがある。
これによって、野球のバックネット裏からフィールドを全部とらえる超広角映像と、外野の選手の動きをクローズアップしたズーム映像を瞬時にして破綻なく切り替えられる実用的なフルハイビジョン・ズームレンズが誕生した。
つまり職人集団が支えてきたのはドラマだけではなく、実はテレビ中継の華であるプロスポーツ中継やニュース現場からの実況中継などテレビ放送の多岐にわたっていることになる。
スケールの巨大なハリウッド系とはちがう意味で、日本の地上波が世界的にみてもユニークな映像コンテンツ制作能力を高いレベルで蓄積できたのは、この職人集団が存在するからだ。
テレビ業界においてもデジタルシフトへの潮流は激しく、多様化するメディアスクリーンに対して、映像制作・伝送技術の遷移を踏まえてどう対応していくかが今後ビジネスの優劣を分けることになるとみられている。
ノンリニア編集、記憶メディアのファイル化、IPデータによる映像の伝送、情報のクラウド化とメタデータの活用。そして、これらの新技術の運用を実際に担うのも、テレビ技術の職人集団という流れが一層強くなりつつある。
そのためには一にも二にも、専門的技術者を支える経営環境の安定と次代を担う若い世代を惹きつけられる職業的魅力を業界として備えることが重要になる。
この国には職人を尊ぶ文化があり、日本の文化を支えてきたのは古来より紛れもなく名もなき職人たちだった。その職人集団を制するものが映像メディアビジネスも制することになるのだろう。
稲井英一郎(いない えいいちろう) プロフィール
1982年TBS入社。報道局の社会部および政治部で取材記者として様々な省庁・政党を担当、ワシントン支局赴任中に9/11に遭遇。
2003年からIR部門で国内外の株主・投資ファンド・アナリスト担当
2008年から赤坂サカスの不動産事業担当
2010年より東通に業務出向。
趣味は自転車・ギター・ヨット(1級船舶免許所有)、浮世絵など日本文化研究。
新しいメディア・コンテンツ産業のあり方模索中。
コメント
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