見るだけじゃない!テレビを体験するブランディング
先日『プラットフォーム ブランディング』という新刊をいただいた。拝読させていただき、今のテレビにこそ本書のテーマ「プラットフォーム ブランディング」が必要なのではと刺激を受け、さまざま感じるものがあったので、そのことについて書いてみる。
本書は、技術がコモディティ化してしまい、技術での差別化が困難になってしまった環境の中で、ブランドとは、単なる企業や製品の広告ではなく、顧客が店舗を訪れたり製品を購入し感想をソーシャルメディアで共有するという「体験」のプラットフォームとして再定義し、このプラットフォームを活用した新たなブランド戦略を提案している。
モデルケースとして、アップルとフォルクスワーゲンを取り上げ、製造業を念頭において書かれているが、今のテレビ業界にもあてはまると感じる部分が多くあった。
まず、「技術がコモディティ化した環境」とは、テレビに例えれば、「番組制作ノウハウのコモディティ化」と言い換えることができる。確かに昔は「報道の○○○」とか「ドラマの○○○」など、テレビ局の違いによる色分けがあった。しかし各局が切磋琢磨する中で、どの局も同じような水準になり差別化は難しくなっている。「どこ局も同じような番組ばかりだ」という視聴者からの批判はそれの現れだ。
また「製品の品質だけでなく顧客の体験が重要」については、「製品」を「番組」、「顧客」を「視聴者」に言い換えることができる。つまり「番組だけではなく視聴者の体験が重要」だということだ。今までのテレビは「番組を見せる」ことだけで成立できていた。しかしコンテンツ流通経路の多様化と、ソーシャルメディアという新たなコミュニケーションをもたらすメディアの登場で、「見せる」だけでは視聴者との関係が稀薄になり、共感を得るのが困難になってきている。そこで、放送で一方的に番組を見せるだけでなく、何らかの工夫で視聴者の体験価値を創出する必要が出て来た。今、テレビ各局がスマホのアプリやTwitter、Facebookなど様々なやり方で視聴者とのコミュニケーションをはかり、テレビ視聴に新たな価値を見いだしてもらおうとしているのは、まさに「テレビの新たなブランド戦略」と言える。
この他にも本書には「これはテレビにも当てはまる!」と強く感じる記述が随所にある。
たとえば・・・
『これから始まるのは、生活者のマインドを戦場とする、新しい時代のブランド戦略の戦いだ。製品レベルにおける今の優位性が残っているうちに、コミュニケーションを含めた顧客の「体験」の価値を自社ブランドへの信頼に転換・統合して固めていかなければ、これから先の成功はもはや期待できないと言わざるを得ないのである。』この中の「製品レベル」を「コンテンツ制作力」と置き換えれば、メディアとしてのテレビが置かれている状況にまさに当てはまる。コンテンツ制作力というテレビの優位性が残っているうちに、視聴者=ユーザーの体験価値を自社ブランドへの信頼に転換していかなければ、テレビの未来は暗いものになってしまう。
また・・・
『ブランド戦略の判断ミスは、判断する当事者や組織の過去における事業の成功体験に引っ張られて起きることが多い。中でもよく見受けられるのはチャレンジャーの立場のブランドであるにもかかわらず、王者の戦略をとってしまい、市場競争に負けてしまうことだ。』の部分は、テレビ界全体ではなく、長引く低迷状態から何とか復活しようとしている某局に当てはまるような気がするのだがどうだろうか。
さらに、本書では・・・
『チャレンジャーが勝ち上がる王道は、既存の王者と差別化し、それが新潮流として生活者の多くに認められてメジャーなニーズに育つことだ。』としているが、これを読んで、かつて思い切ったブランド戦略を打ち、一気に最強局になったフジテレビを思い浮かべた。30年以上前、「母と子のフジテレビ」などと言われていたある日、フジテレビは突然「楽しくなければテレビじゃない」という非常に大胆な、下手をするとヒンシュクを買うキャッチフレーズを打ち出した。今で言う「炎上マーケティング」に近いものだった。ところがこれが大成功した。夕方のメインニュースのタイトルからニュースという文字をはずし「スーパータイム」とし、当時、ニュースでは御法度とされた音楽や効果音を使うようになった。そして化け物番組と言われた「8時だヨ!全員集合」の裏で、「オレたちひょうきん族」を編成し勝利、壮大な大自然ロケのドラマ「北の国から」を成功させた。さらに番組だけではなく視聴者の「体験」を重視し、リアルなイベント「夢工場」を開催、視聴者の心をガッチリ掴んだ。1強4弱などと言われて苦しい状況の中からの、見事なチャレンジャーとしてのブランド戦略といえる。
(次のページに続く)
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