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201310/24

『半沢直樹』高視聴率の秘密がわかった

若干、手前味噌だが、TBSの社報『BOOMAGA』に、とんでもなく興味深い記事が載っていた。タイトルは「半沢直樹 クランクアップ座談会」、演出の福澤克雄さん、プロデューサー伊輿田英徳さん、美術プロデューサー西條貴子さん、技術テクニカルディレクター淺野太郎さんの4人がこのドラマを振り返るというものだ。

 

この座談会は、撮影が終わった段階で行われたものだ。福澤さんが「現場は終わっても編集が終わるまでは気が抜けないですけどね」と発言している。だから最終回の42.2%という記録的な高視聴率がでる前のものだ。
この座談会記事には、『半沢直樹』がなぜ当たったのかの秘密が、随所にちりばめられている。以前、あやぶろで書いたこと(「テレビがつまらなくなった理由」)が、間違っていなかったと確認もできた。

 

この座談会記事からいくつか抜き出してみる。

 

まず冒頭での演出の福澤さんの発言から・・・

 

福澤:当てなければいけないものが当たるのとは違って、当たらなくてもいいからいいものを作りたいと思ってたら、こんなにヒットしたのは初めての経験。/当てることが至上命題になっている作品のときは、やっぱりプレッシャー相当かかる。/でも『半沢直樹』に関しては、いい意味で開き直って、ただガムシャラにやれた気がする。

 

おそらくこのドラマは、あまり注目されていなかったのだろう。何しろ同じ日曜9時枠の次が『安堂ロイド』だ。木村拓哉さん主演の今年一番の本命ドラマが控えており、その分、いろんな雑音が入らなかったのだと想像できる。

 

 

次に、美術と技術について・・・

 

西條:「セットはリアルに作ったら面白くないでしょ!セットだからできることをやるんだよ!」と言われ振り切れた。/撮影でもセットの大きさをちゃんと生かして撮ってくれたので、嬉しかったですね。
伊輿田:出演者も、「TBSはセットがすごい!」といつも言ってくれます。今回もすごく気に入っていただいたようでしたね。
福澤:そしてそれを撮ってくれた技術!
淺野:自分は特別なことはしていない。/好きにやらせていただきました。/じっくり撮った画を、その通りにインサートで割らずにジャイさん
(福澤さん)が使ってくれた時は、やはり嬉しかった。

 

なんだかお互いを誉め合っていて気色悪いと感じる方もいるかもしれないが、実はここはとても大切なところだ。テレビ番組制作はチームプレーだ。演出だけが張り切ってもダメで、演者さんが立つセット、画と音を撮る技術が伴って初めて番組は成立する。いい番組は、全てのスタッフのノリが大事で、この座談会で、てらいもなく互いを誉め合えるのは、現場での気持ちの統一感があったせいだとうかがえる。
いい現場だったんだろうなぁ。
もちろん、美術の西條さんと技術の淺野さんの後ろには、数多くの美術・技術スタッフがいて、その人たち全ての気持ちが前向きに一つになっていたのだろう。
それは、次の部分からもうかがえる。

 

伊輿田:ところで今回改めて思ったことですが、ジャイさんの番組にはスタッフ全体の「前向きな緊張感」がある。今回初めてドライを見た時、役者のテンションとジャイさんのテンションの高まりが半端なくて、「これはイケる!」と思いました。
西條:それは私も感じました。
福澤:僕からすると、この企画を通し、役者陣を連れてきたプロデューサー!伊輿田の力が大きいと思う。
伊輿田:読んでみると原作が本当に面白かったので、これはなんとしても企画を通したいと、調整、調整を重ねました。そして編成がバシッと通してくれた。
福澤:そう、編成の瀬戸口も偉かった。普通はこんな男だらけの銀行が舞台のドラマなんて通りそうもないのにビシット通した。

 

ここからわかるのは、『半沢直樹』が普通のドラマではなかったことだ。
福澤さんが言うように、このような地味な設定のドラマを成立させるのは、大変なことなのだ。視聴率から考えると、女性層を取り込むためには、女性の要素が必要らしいが、そんな話は『半沢直樹』にはかけらもない。しかし逆に、これは女性視聴者をバカにした見方だとも言える。極端な言い方をすれば「女子は恋愛でうっとりさせれば見てくれる」などという考え方な訳だ。ただ編成的なものの見方を補足するなら、長年の視聴率分析の結果、女性の登場人物や女性目線、ラブロマンスの要素があった方が女性視聴者に見ていただきやすい、というデータがあるのは確かなのだろうし、ゴールデンタイムで視聴率を獲るには、女性要素は外せないということだろう。

 

その点からすると、このようなコンセプトのドラマを通したプロデューサーと編成担当は、ある意味、博打を打った。よく言えば、大胆な冒険をしたのは確かだ。

 

 

さらに演者、出演者の皆さんも気持ちがのっていた。

 

 

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