『半沢直樹』高視聴率の秘密がわかった
出演者の力
福澤:今回の役者の皆さんの演技や集中力はすさまじくて。あのしゃべりの速さ!普通の人は堺さんみたいに早くは話せない。そして芝居が固まっているから撮りやすい。
淺野:時間との戦いの中、芝居が固まっているから、撮るのが早くて。巻いたよね。
伊輿田:2、3日はかかるシーンを7時間で撮ることができた。スタッフの集中力もあってだけど。
福澤:通常の脚本より、15ページくらい長いのに、みんなスラスラとそれも感情を入れて一気にしゃべる。堺さんを筆頭に役者としての技術を持った人たちが非常に多かった。見ている人から「テンポがいい」と言われるのはそこ。余計なシーンを作らなかったというのも理由としてあると思う。
『半沢直樹』のあのテンポの早さは、演出だけによるものではなく、演者さんたちのノリと集中力もあってのことだったのだ。制作スタッフと出演者の心が一つになって、普通ではない流れや空気をつくる、いわゆるゾーンに入っていたのだろう。こういうのは自分の経験からも、やろうと思ってできるものではない。企画の成立過程から始まって様々な要素が絡み合い、出演者も含めた多くのスタッフの、互いの相乗効果があって初めて実現できるものだ。
社報編集部からの
地で「半沢直樹」なのは・・・
という問いに対して・・・
淺野:それははやりジャイさんですね。
西條・伊輿田・淺野:深く頷く
福澤:でも本当にね、勝負だった、この作品は。当たらなくてもいい、只々いいものを作りたいと思った。そこはブレなかった。これは完全に男のドラマだから、女性に見てもらえなくてもいい!と覚悟を決めて作ったことで、かえって女性が圧倒的に見てくださった。それで思うのだけど、視聴者の皆様は、視聴率を「狙って」作っている我々より、ずっと上を見ているのだと思う。だから、いいものを作ることが、一番視聴者のために作ることにつながるのでは。視聴者に愛される、信頼されるためには、品良く、自分がいいと思ったものを精魂込めて作ることだったのかなと。もうそれしかないと…。まぁ、こういう結果が得られた今だからこそ言えることかもしれませんけどね…(笑)。
さらに編集部の
今、テレビ作りに必要なもの
という問いに対しての答を、長くなるがとても大切なので引用する。
伊輿田:今回特に意識したのは、当たり前だと思うのですがお客様、つまり視聴者が喜ぶことをするということ。放送局である以上、数字は大事。でも、数字を狙おうとするあまり視聴者を裏切ることになる。それは絶対やめようと。
福澤:確かに視聴者を騙すようなことをしなかった。例えばCMの位置とか。自分なりに思うのは、あざとく考えちゃだめ。とにかく、視聴者に愛される局になることが大切だと思う。
西條:制作過程ではブレないことが大事だよね。演出がブレると本当にだめになっていく。今回、全くブレなかったもんね。
福澤:オーソドックスにガツンといく、ということにこだわった。変にかっこうつけもしなかったし。『半沢直樹』の視線での物語ということもブレなかったと思う。
西條:今は失敗する余裕がないのがいけないのかもね。失敗するのが怖くて、びくびく作っている感じがする。
福澤:昔は演出が全責任を負わされる分、好きにやってよかったからね。そこで若手も失敗を経験していくうちに、「当てる」というのが分かるんだよね。
伊輿田:とはいいつつもなかなか、失敗する余裕がないですよね…。
一同:…。
福澤:でも、こういう番組をやらせてくれたのだから、TBSはいい会社だと思う。他局ならこんな企画絶対通らなかったかもしれない。銀行が舞台で、出てくる言葉は難しいし。
伊輿田:「裁量臨店」とか。
淺野:「転貸資金」とか。
「テレビがつまらなくなった理由」でも述べたが、高い視聴率を目標としたり、失敗できないという意識が強くなりすぎると、どうしても、数字につながる要素を欠かさないようにしようとしてしまう。例えば今回で言えば、ラブロマンスの要素であり、またアクションなど派手な映像が欲しくなるので、銀行という地味な設定は避けるようになる。
しかしそうやって数字から逆算していくと、どのドラマも同じような「数字が獲れる」要素で埋め尽くされ、似たような印象になるのは避けられない。
作る方も、自分が感じる面白さより、視聴率につながる設定や、視聴率につながるキャスト、視聴率につながる演出に対するウェートを重くするので、ホントに面白いもの、いいものが生まれるはずもない。
西條さんの「今は失敗する余裕がないのがいけないのかもね。失敗するのが怖くて、びくびく作っている感じがする。」という言葉は重たい。西條さんとは私もバラエティ番組で一緒に仕事をしたことがある。20年以上も前になるが、今と比べると、冒険はしていた。明らかにしていた。美術にも技術にも演出担当として無理言って、大変な仕事をしてもらったりもした。でも生み出せた番組は確かに本当に面白かったと今でも思っているし、何より自分自身がこれ以上ないくらい面白がって仕事をしていた。
その頃は、新番組を5つスタートして1つが当たれば成功と言われていた。打率は2割だ。
冒険すれば失敗も生じる。しかし冒険しなければヒットもない。当てるためには失敗は必要なのだ 。
『半沢直樹』は、テレビ番組の成功の秘密と同時に、冒険と失敗の必要性も教えてくれた。
最後に、『半沢直樹』が今後どうなるのか、誰もが知りたいことについても座談会で触れられている。
コメント
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