今年もタブーに挑戦!「NHK技研公開」
NHKの技研公開、初日の今日、行ってきました。
去年も「テレビのタブーに挑戦したNHK技研公開」というポストを書いたのですが、今年の技研公開も、多少地味になったとは言え、やはりしっかりタブーに挑戦していました。
記憶が新たなうちに、感想を書いておきます。
去年はハイブリッドキャストがメインテーマだったんですが、今年の中心は4K、8Kのスーパーハイビジョン。
これらについては後で述べますが、まずは私が個人的に強く関心を持ったものからご紹介します。
ハイブリッドキャストのタイムシフト視聴対応
これはNHKオンデマンドをタイムシフト視聴する際に、放送時に提供したハイブリッドキャストのサービスも楽しめるようにするというもの。
過去の番組表から例えば「ラン×スマ〜街の風になれ」を選んでVODで視聴すると、ハイブリッドキャストのサーバーからこの番組のデータが送られ、セカンドスクリーン連動のサービスを楽しめます。
なんだ、それだけ?と思うかもしれませんが、ハイブリッドキャストはスマートテレビですから、ここから簡単にインターネットにつながります。もし放送された番組で紹介された商品が購入できたり、紹介されたホテルの予約がとれるように仕掛けていれば、これがタイムシフト視聴時にも使える訳です。そうなると新たなマネタイズがロングテールで実現することになり、ユーザーにとってもテレビ局にとってもメリットとなります。
この機能がNHKだけでなく民放各局も同じプラットフォーム上で使えるようになると、このサービスは一般化し、当然ながら録画機にも装備されるようになる、すると CM飛ばしでテレビ放送にとってはマイナスでしかなかった録画視聴から新たなマネタイズができるようになります。
地味ではありますが、とても大きな意味をもっています。
「タブーに挑戦した」技術
タイトルにもあるテレビのタブーに挑戦した技術です。様々な外部のプレーヤーのアプリを「アプリマーケット」で管理し配信することにより多様なアプリを安全・安心に利用してもらうことができるというものです。
この画面では、右上に占いアプリがオーバーレイで表示されています。また左上には、その他のアプリのアイコンが表示され、すぐに使えるようになっています。もちろんオーバーレイでなく画面分割でも表示できます。
これはチャンネルを変えても表示し続けることができます。
これを実現するためには、テレビ局側から外部の事業者に番組情報などのデータを提供しなければなりません。その配信技術も開発しています。
外部事業者はAPIで提供される様々なメタデータを利用し、GPSと連動させたサービスや、食品情報を扱うサービス、楽曲に関連するサービスを提供するアプリを開発し、視聴者に提供するのです。
この技術はテレビの歴史の中では今までなかった「オープン化」の発想によるものです。テレビ、特に民放はこれまで、テレビ広告という非常に完成された効率の高いビジネスモデルを守るため、利益を一滴たりとも外に漏らさず囲い込むという思想でやってきました。ところがこの技術は、テレビのメタデータをオープンにすることで、外部のプレーヤーもテレビを使ったビジネスに参加できるようにし、一緒にテレビを盛り上げ利益を得ようというものです。アップルやGoogleがやっているのと同じです。これを実現するには長年、遺伝子に刷り込まれた既成概念を大転換しなければなりません。テレビ局の年配の方たちにはとても抵抗感のあることでしょう。しかしテレビを再活性化するにはどうしても必要です。
視聴者の表情分析&番組ナビゲーション
次は、テレビ視聴時の視聴者の表情を分析し、興味を持った内容を推定した上で他の番組をリコメンドするという番組ナビゲーションの技術です。
テレビ側にカメラを置き、視聴者の表情を分析します。喜び、驚き、怒り、嫌悪、恐れ、悲しみの6パターンに分類します。番組内容との関連を解析することによって、視聴者が番組内で興味を持った内容を推定し、字幕情報を元にした興味キーワードをタブレットに表示します。
視聴者がその中の一つをタップするとナビゲータが表示され、選択肢を次々タップすることで、見たい他の番組(VOD)まで誘導するというものです。
この番組視聴中の表情分析の技術は一昨年の技研公開で展示されていましたが、番組レコメンド機能とドッキングさせるところまで進化していました。なにぶん開発中ですからUIは正直イマイチですが、洗練されれば面白いと思います。
これからコンテンツのレコメンド技術は非常に重要になります。米国の動画配信サイトNetflixは急激に成長していますが、その原動力は強力なレコメンド・エンジンです。Netflixでの動画視聴の75%から80%は、同サイトのレコメンドからによるものです。これからテレビは自ら番組配信に積極的に乗り出さなければなりません。その時、レコメンド機能は決定的に重要になります。その際、このユニークな技術は武器になるでしょう。
さらにこの技術の面白いところは、番組評価の新たな基準を提供するかもしれないことです。表情分析については、喜び、驚き、嫌悪の3つに関しては、かなり正確に読み取るそうです。視聴者が番組を見てこの3つの要素だけでもどう感じているかを知ることができれば、番組作りだけでなくマーケティングデータとしても非常に貴重なものになります。
もちろん視聴者の家庭を覗き見るのと同じですから、現実化しようとすればプライバシー問題など障害はいくらでも出てくるでしょう。しかしいずれそれもテクノロジーが解決してくれるような気がします。この技術の応用の可能性は非常に大きいです。是非、頑張って欲しいものです。
民放のハイブリッドキャスト
民放のハイブリッドキャストサービスも展示されていました。
これはTBSですが、女子サッカーの様々なリアルタイム情報を9種類のウイジェットにまとめ好きな位置に配置できるというものです。試合途中でもゴールシーン等のハイライト動画も見ることができます。
展示されていた画面は全部の情報をオーバーレイで表示してますので、元の画面が見えづらくなっています。テレビの制作者が「画面が汚れる」と言って嫌うオーバーレイで表示させているのが大胆で偉い!と思います。もう使うかどうかは、視聴者の判断にまかせていいのではないでしょうか。私は画面分割よりオーバーレイの方が好きです。
次はフジテレビのハイブリッドキャストのサービスです。人狼ゲームの番組なんですが、とてつもなく作り込まれていいます。
タブレットとも連携させて、視聴者からのツイート、ゲームの進行状況、キャストのプロフィールなどを表示し、追放者予想投票やゲーム性のある付加価値CMが楽しめますとの説明があります。
先日、開発した方の話を聞いたのですが、考えつく全てのことを完成度高く詰め込んでいます。これにかけた労力・コスト・時間は圧倒的です。ハイブリッドキャスト対応のテレビを持つ世帯は、まだ数十万世帯しかいないと言われています。その中でこの番組を見るのはさらに少ないでしょう。テレビは普段、百万、千万世帯を対象にサービスしているので、このわずかな視聴可能世帯を相手に、よくぞここまでやったと心から感心しました。ニコニコ動画の世界での最上級の褒め言葉のタグ「才能の無駄づかい」を、皮肉でなくて贈りたいです。
面白がって書いていたら今年のNHK技研公開のメインであるスーパーハイビジョンについて説明するのが遅れました。しかしこのあたりに関しては、これからいろんな人が書くでしょうから、私は簡単に触れます。
目新しいものではないですが、初代から最新のものまで8Kハイビジョンカメラが、並べられていました。
写真ではわかりにくいですが、一番右が2002年に作られた初代、重さは80kgあります。一番左が2013年の最新のもので重さは2kgしかありません。11年の間に、重さは40分の1になったわけです。
その他、盛りだくさん!
この他、1億3300万画素!のイメージセンサーとか、ハイビジョン1波分でスーパーハイビジョンのデータを送信できる圧縮&送信技術とか、裸眼3Dの映像を撮影する際に、奥行きの情報を得るためにドット状の赤外線を撮影対象に投射し、それを撮影することで立体情報を得る技術(モーションキャプチャーのマーカーを赤外線投射で代替するようなもの)とか、モノの柔らかさを測定する技術とかそれを再現する技術とか、オペラや演劇等の暗くて冷却ファンの音をだせないところでの撮影用の8Kカメラと撮影したオペラの映像、ディスプレーに組み込まれたスピーカーによるサラウンド音響再生など、書ききれませんが盛りだくさんの内容でした。
見学は1時間の予定でしたが、私が好奇心にまかせて次々質問したために30分も予定をオーバーしてしまいました。NHKさん、本当にお世話になりました。
さて、来年のNHK技研公開はどうなるでしょうか。来年もテレビのタブーをぶち破るような大胆な提案を期待します。
氏家夏彦プロフィール
TBSメディア総合研究所代表、「あやとりブログ」の編集長です。
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その未来をしっかり見極め、テレビが生き残る道を探っています。
1979年TBS入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部、夕方ニュース副編集長)、バラエティ番組、情報番組のディレクター、プロデューサー、管理部門、経営企画局長、コンテンツ事業局長(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)
2010年現職(株式会社TBSメディア総合研究所 代表取締役社長)
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