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テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

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201212/31

テレビの今と未来は?何をするべきか?…今年を振り返って考える③

  からの続き

 

テーマ⑥
「日本テレビのソーシャルテレビ戦略」
…このままでは、竹槍とブルドーザーの戦いになりかねない…

現状では、日テレは日本のテレビ局の中では最もソーシャル戦略に力を入れている局といっていいだろう。日テレがやっていることについて今谷秀和さんが説明してくれている。http://ayablog.com/old/archives/19371

日テレも3月に画期的な実験放送を行いました。「JoinTV」という仕掛けです。iConという関東ローカルの深夜番組で行いました。
既存のデータ放送にFacebookのAPIを組み込み、普通のテレビ画面にFacebook上の友達アイコンを表示、友達と一緒に同じ番組を観ているという一体感を表現できています。まさしくソーシャルテレビですね。それだけではなく、普通のテレビリモコンの青ボタンが「いいね!」に充てられ、面白いと思ったシーンで青ボタンを押すと、自分のウォールにその一部シーンが切り取られて表示されるという画期的な試みがなされています。閉鎖的な言語だと評判の良くないBMLで記述されたデータ放送をこのようにうまく活用して事実上のスマートテレビを実現してしまったわけです。

日テレは10月16日に「JoinTVカンファレンス」を開いた。「ソーシャルとテレビの明日を語る」というサブタイトルのこのカンファレンスは、ゲストとして、今や急成長中のLINEを運営するNHN Japan、言わずと知れたmixi、世界で10億人のユーザーを抱え日本でも急拡大しているFacebook.Inc、テレビとのソーシャル連動の実現で抜き出ているTwitter Japanと、ソーシャルメディアで日本の最先端を行く企業からキーマンを集めた。

これについては私が、境治さんのブログ「クリエイティブビジネス論」のエントリーと、山脇さんのFacebookでの記述を紹介する形(斜体の部分)で、日テレのカンファレンスの直後にポストを書いた

境さんは「JoinTVがネット関連部署のゲリラ的実験ではなく、局として会社として本気で取り組むプロジェクトだとわかった」と、同じテレビに関わる他局の者にとって、思わず刮目するようなことを書いている。そして会場の雰囲気について、
「この空間のこの空気は、老舗テレビ局っぽくないぞ!ぜんぜん!どっちかというと、ネット系のベンチャー企業(ただし上場済みのある程度の規模の)みたいなんだわ、このにおいは!」と、普段からオールドメディアなどと呼ばれているテレビ局にとっては、まことに羨ましい表現をした上で、

「このイベントから、“企業が本気で取り組むイノベーション”というものを感じとった。本気で会社を変えるなら、新部署をどすんとつくって、しかもそれは端っこに置かないで、中枢に近いところに置く。そして三年間ぐらいは成果を問わない。予算も過不足なくつけて使うことに四の五の言わない。日本テレビは編成局にメディアデザインセンターという部署を置き、ちゃんとイノベーションに取り組んでいるのだ。」

日テレは次の時代への進化へ向け、大きく踏み出したようだ。もちろん他の局も、各番組ベースでは幾つかのソーシャルメディア連動を実験的に行っているが、企業の経営判断として組織で動き出したのは日テレが初めてだ。

 日テレのこのカンファレンスについてはTBSの山脇伸介さんも、FacebookのTBS関連グループ内(非公開)で、
「来る「ソーシャルメディア+スマートフォン」の時代を見据え果敢に取り組み、先行者利益を独り占めにしようという意欲の高い発表会であった。事実、SNS各社とバスキュール社を組織ぐるみで囲い込むという戦略は、会場でNHK担当者が「このままでは、竹槍とブルドーザーの戦いになりかねない」と危機感を露わにする程の衝撃であった。
と述べている。NHKは、今の日本のテレビ局の中で最もソーシャルメディアに積極的だとみられていたが、そのNHKの方がこのような感想をされているのにむしろ驚き、日テレの企業としての本気さと、このままでは取り残されるという焦燥感をより強く感じた。

社外のセミナーやカンファレンス、勉強会などに参加していると、最近はゲストスピーカーとして呼ばれるテレビ局関係者は、日テレの人が圧倒的に多い。しかもそのほとんどが客席は満員だ。日テレがいかに、メディア業界、広告業界、マーケティング業界、IT業界、Web業界から注目されているかがわかる。

先にも書いたが、日テレの人たちと話していて驚くのは、「自分たちは視聴率の為にやっているのではない、金儲けのためにやっているのでもない、ソーシャルと連動する事でテレビを元気にするため、視聴者と一緒に番組を見て盛り上がるためにやっている」というのだ。今のテレビは視聴者=ユーザーから遠い存在になっているが、これを少しでも解消し、テレビをもう一度ユーザーの身近な存在にするための努力をしているのだ。
さらに、「日テレだけが頑張ってもダメで、全局がソーシャルという面白い仕組みを本気で利用し、みんなで盛り上げないとテレビは本当にダメになってしまう」と言う。テレビに対する危機感を、経営・現場のレベルを問わず共有しているのが今の日テレだ。

 

テーマ⑦
「メディアイノベーション時代のテレビ局経営について」
…この時代、変わらないことが安全ではなく、変わらないことが大きなリスクなのだ…

前項の、日本テレビのソーシャルテレビ戦略に関するポストをきっかけに、いくつかの企業経営に関するポストが寄せられた。

まず境治さんが、前述の日本テレビ「JoinTVカンファレンス」で感じたことをベースに書いた「オールドメディアのイノベーションで大事な5つのポイント」というポストを紹介する。今後のテレビ局経営が心がけるべき事を指摘している。

1:責任者自らが新しいことを試してみる
JoinTVカンファレンスでの担当役員の方のお話で、あるドラマを”tuneTV”を使いながら観ていたら、というくだりがありました。tuneTVとはテレビを観ながら使うためのTwitterアプリです。そんな固有名詞が自然に話の中に出てきたのは、つまり生活の中で普通に使っている証しだと思います。いままで見てきた会社で、面白い会社だなあというところは、トップ自身が新しいこと大好きでした。

いま、メディア企業はソーシャルメディアに興味を持たないわけにはいかないのではないでしょうか。それを社長なり、部門の長なりがやるのとやらないのとでは空気がえらくちがってきます。よし!おれたちもトップと一緒になって新しいことやるぞ!そういう雰囲気づくりがまず大事です。

 2:三年間は利益を求めない(予算はつける)
新しい取り組みは簡単に利益を出せないでしょう。テレビでいうと、放送に伴う広告費が莫大で、それと比べちゃうと例えばネットで取り組んで得られる利益は鼻くそ(失礼!)みたいなものです。だから、あの新部門は、三年間は利益出さなくていいから。そうはっきりさせておく必要があります。

 3:トライアル部門を中枢に置く
日本テレビのメディアデザインセンターは編成局の中にあるそうです。これが画期的だと思った大きなポイントでした。いまやテレビ局にはほぼすべてデジタル部門があります。でもなんだか、はじっこなんですね。放送とは別のことで収益つくりましょう、という姿勢。ですが、いわゆるコアコンピタンスを軸に考えると、放送の価値を高め、価値を新たにつくるべきなのです。本業の新たな価値づけこそがイノベーションなのではないかと。だから、傍流扱いをせず、中枢に置く。

 4:中途入社組をそれなりの立場で加える
ぼくはフリーが長かったのでその経験から言いますと。メディア関係に限らず同じ会社にずっといる人たちって、驚くほど“共通化”されています。外から見るとびっくりするような企業文化や習慣、考え方を何の問題も感じずに持ち続けていたりします。何十年も日々やっているとその不合理が見えなくなるのです。いままでやってきたことを継続するならそれでいいのでしょう。でも何らかイノベーションを考えるのなら、新しい“血”を入れた方がいい。それは新しい“知”になるはずです。

 5:自分が面白いと思うことを優先する
新部門や、イノベーションを任されると、何がお金になるんでしょう、と考えがちです。でも正解が最初からわかっていれば、イノベーションなんか簡単ですよね。何がお金になるかを“先に”考えない方がいいと思います。それよりも、自分にとって面白いことを優先させた方がいい。自分はちっとも面白くはないけど、これが伸びてると聞いたので、なんてことで取り組んでもダメだと思います。自分自身が面白いと感じていること。そこには何かがあるはずなのです。そこを大事にするべきです。

境さんのポストをほとんど丸ごと引用したが、とても大切な指摘だと思う。
「1:責任者自らが新しいことを試してみる」については、米国の企業ではごく普通の事だと聞いている。テレビなど既存ビジネスの企業が、新たなインターネットやソーシャルメディアに本気で乗り出すかを決める上で、経営レベルでネットやソーシャルがどんなものかを体験し、理解し実感した上で経営判断するのは当然だと言える。
「3:トライアル部門を中枢に置く」これについては、日テレの思い切った判断を、テレビ局も含めカンファレンスに参加した様々な企業が皆一様に驚き、高く評価した点だ。

私も企業経営に関するポストを書いた。私の大学時代の同期、赤羽雄二さんが「現代ビジネス」というサイトに掲載した論文に触発されて書いたものだ。

赤羽さんは日本の製造業大企業がいかに深刻な局面にあるのか、その原因と解決方法を、歯に衣着せぬ表現で書いている。彼の指摘は製造業だけでなく、環境の激変に当惑し、方向性を見いだせずにいるテレビ局にも当てはまる事が多い。厳しい表現での指摘は、彼の感じている危機感の強さの現れでもあり、私の心に響くものがあった。
赤羽氏は東大工学部を卒業、小松製作所に入社しスタンフォード大学に留学。その後、マッキンゼーに入社し1990年から10年半にわたり韓国企業、特に財閥の経営指導に携わった。2000年にシリコンバレーのベンチャーキャピタルに移り、2年後独立、現在は日本発の世界的ベンチャーを1社でも多く生み出すことを使命として活躍中だ。(斜体が赤羽氏の記事からの引用部分)

赤羽氏は冒頭で、
「かつて栄光に輝いていた大企業の内部の方々と話すにつけ、それらの組織の自己改善力の乏しさ、経営力のなさ、組織効率の悪さに呆然とする」とした上で、競争力を失った原因をいくつかあげている。
まず…
「長年の成功体験にあぐらをかいて、思い切った方向転換を躊躇した…」と指摘している。この辺りは、誕生して半世紀もの間、マスメディアの王者として君臨してきたものの、この10年間の環境の激変に当惑するテレビ業界に、まさに当てはまりつつあるのではないだろうか。

次にスピード感の欠如として
「関係者間の根回しを行い、社内稟議を上げ、差し戻しを受け、再度検討し、また稟議を上げ、やっと副社長に具申できたと思ったら、「考えておこう」と言われ、塩漬けにされる。そういったことが日本の大企業では日常茶飯事ではないか」

そして経営者の本気度の問題として、今の製造業大企業の経営者たちについて
「多くの場合、サラリーマンとして、人生の大半を落ち度なく大過なく過ごしてきた結果、組織のトップまで生き残ることができた人材ばかりだ。組織の反対やノイズを押し切って構造改革、新事業立ち上げをやり遂げることのできる経営者は、今の日本の製造大企業において、数えるほどしかいないのではないか」

テレビ業界は、制度によって競争が制限され、圧倒的なリーチ力と存在感を持ち、そもそも構造改革や新事業立ち上げなど全く必要なかった。むしろ構造を変えないようにする事が経営の、というより業界としての重要なタスクだった。拙速な判断で元々持っている巨大な利益を毀損するより、多少の利益を失っても慎重に判断して安全性を重視する方が正しい経営判断だった。ところが、ネットの発達でテレビ局以外に次々と競合が現れ、時間の奪い合いという視聴率競争とは別次元の競争が始まってしまった。今のテレビ局がこのような厳しい局面に相対するのは、全くの初体験ではあるが、今、動き出さないと生き残れないのもまた確かだ。

 赤羽氏はさらに
「組織の慣性が異質な事業を生み出す邪魔をする」例として
「そんな利益率の低い事業をしてどうなるとか、お手並み拝見とか、新たなチャレンジに向けて頑張っている人の心を折る発言や行動」も問題だとしている。

そして赤羽氏は経営者の資質について、
「経営者の視点で、部下に徹底的に要求し、議論をふっかけ、最善手を打っているのかどうかを追及し続けることがトップの責任」であるとし、
「この時代、変わらないことが安全ではなく、変わらないことが大きなリスクなのだ。そこを社長たちはどこまで認識しているか」と厳しく問いかけている。

これまで何度も書いたが、ほんの数年前まで、テレビ業界はまさに赤羽氏が言うように「変わらないことが安全」だった。しかしインターネットが普及しソーシャルメディアが社会の構造に深くビルトインされようとしている今、テレビ「放送局」でいることはかつてと比べると大きなアドバンテージではなくなっている。テレビは今、生き残りのために急激に進化する事が必要となっている。まさに、“変わらないことがリスク”なのだ。

その一方で赤羽氏は、経営者の意識が変われば苦境に陥っている大企業でも再生できるとし、次のように書いている。

「企業の経営は、経営者に大きく依存する。経営者の意識が変わり、果敢に立ち上がって、決めるべきことを決め、取るべき責任を取り、官僚的な組織を壊し、旗を振るようになれば、実は大企業もかなりのスピードで変わる。変わり始めた時の日本企業は強い。一致団結した、屈強の戦士集団となる」

境さんと赤羽さんの指摘、両方ともドキッとさせられ、きつ過ぎると感じる表現もあるだろう。しかし今の八方塞がり的状況から脱出するためには、正面から受け止めるべきではないだろうか。

 

テーマ⑧
「テレビとは・・・最も本質的な問題を考える時が来た」
…今必要なのはテレビの外の人の、全く異なる視点・発想・思考だ…

今、メディア業界では壮大な破壊的イノベーションが進行中だ。つい数年前まではTBSの競合は他の在京キー局だけだったが、今はどこが競合かさえ、分からない時代になろうとしている。このような大変革期には、自社の強みや価値を抽象化し、ビジネスドメインを再検討した上で、イノベーション、つまり既存ビジネスを本気で飛び越え、かつ誰も知らない未開の場所(ブルーオーシャン)を目指さなければならない。そのためには「テレビとは何なのか?」という根源的な問いを自らに投げかけ、腰を据えて考えてみることが絶対に必要なプロセスとなる。

このテーマに関しては多くの方が、あやとりブログで議論している。その中でも異色の、デザインという分野から寄稿をいただいているウジトモコさんのポストを引用する。
ウジさんは、多摩美術大学卒のアートディレクターで、広告代理店および制作会社で大手企業のクリエイティブを担当し、1994年ウジパブリシティー設立。デザインを経営戦略として捉え、採用、販促、ブランディング等で飛躍的な効果を上げる「視覚マーケティング」の提唱者。『デザインセンスを身につける』(ソフトバンク新書)など多くの著書を出している。

【価値の再解釈がブランド再構築のポイント】
さて、ここで未だ大きな潜在能力を持っているにもかかわらず、存在感が薄くなって視聴者が離れつつあるテレビ(メディア)についても、同じように実存と認識マーケティング的「ブランドの再構築」という視点からみるとしましょう。つまり、価値の再解釈です。

テレビはいまだに「ただの現在」なのでしょうか。もしもそうでないとしたら、それを置き換えて語るとしたら何なのか。概念メタファーのチェンジ(置き換え作業=すなわち再解釈)は時代が求める空気感に対する価値の最適化でもあります。

「現在」という時間概念には、管理され記録される「歴史的(意味のある)現在」と、生まれては消えてゆく「ただの(無意味な)現在」が存在します。「テレビは後者であるべきだ」という先人の素晴らしい主張について、それを否定ではなく、現在に最適化してあらためて考え直す、すなわち「テレビよ、お前は今や○○なのだ」と更新して書き換えていくと、つまり何になるのでしょうか(私は業界の人でも、中の人でもないのでごめんなさい、それが何なのかはよくわかりませんが)。

「それはつまり何なのか」をダイレクトに再解釈して言い表すこと、すなわちソーシャルメディアやスマホを持ち出さず、鎖や社会現象と切り放して言い当てることがリブランディングという意味では、スタートでありゴールとなり、「実存と認識マーケティング」的にはフロントラインへの近道になります。

作り手側から見てテレビとは何なのか?
視聴者=ユーザーにとってのテレビとは何なのか?
テレビの限界はどこにあるのか?
テレビの可能性はどこに隠れているのか?
テレビはどこに向かっているのか?向かえばいいのか?

「テレビとは何か?」の答えは、視聴率を獲れる番組開発というテレビ局が長年続けてきた伝統的領域には存在しない。この問いの答えを見つけるには、テレビの「中の人」たちの発想だけでは難しい。テレビが、自らがどのようなドメインで進化する可能性があるかを見いだし、どこにブルーオーシャンがあるのかを発見するには、固定観念にとらわれない、自由奔放な発想がどうしても必要だ。

イノベーション創出の先駆者として、世界のビジネス界から注目されているIDEO社があるが、その最先端といわれる商品開発のプロセスは、その商品ジャンルとは全く関係ない異業種の専門家を集め、予想外の発想でビックアイデアを生み出すところから始める。そして→カオスの状態→プロトタイプをつくる→検証する→あり得ない組合せに驚くような効能と問題解決を見つける→画期的な新商品ができあがる、というプロセスをたどる。

既成概念にとらわれず、まっさらな状態でテレビを見ることができれば、今のままでは予測もできない大きな可能性を見つかるかもしれない。

あやとりブログ執筆者の一人、前川英樹さんのポストを引用する。
前川さんはご紹介するまでもないが、ブログのプロフィールでは1964 年TBS入社、TBS人生の前半はドラマなど番組制作。42歳のある日突然メディア企画開発部門に異動。ハイビジョン・BS・地デジというポストアナログ地上波の「王道」(当時はいばらの道?)を歩く。その後、TBSメディア総研社長。2010 年6月”仕事”終了。でも、ソーシャル・ネットワーク時代のテレビ論への関心は持続している・・・つもり。で、「あやブロ」をとりあえずその<場>にして いる。…となっている。

テレビマンユニオンニュース(No617. 2011.11.30.)で、重延浩氏の「テレビジョンは『状況の時代』である」を読んだ。
重延テレビ論では、1970年までが「放送の時代」であり、そこには「未知の世界が広がっており、どういう媒体になるのか、未だ見当もついていなかったから生まれたテレビの独創」が多くの秀作が誕生した時代である。
次の「構造の時代」(1980~90年)は「放送が産業化した時代」であり、システム化と数値化に象徴される時代である。そこから「『独創性』と『高視聴率』を共存させる創造」が生まれた。
いま、「状況の時代」は「バブル崩壊」後の、デジタルテクノロジーの急速な進展のなかから生まれる。そして、「テレビメディア崩壊」説が徘徊するようになる。
重延氏は、このようにテレビの変化を概括する。そこから「テレビには同時に多くの人間が同じものを見るという圧倒的な媒体能力があるのではないか」というごく基礎的な事実を確認するという布石を打った上で、「目から鱗」の一言が登場する。
「もし、今、そんな媒体が白紙の状態で生まれたら、それは革新的媒体として、動き始めるだろう。・・・ネットを越える媒体として、全く異なる形のテレビ構造を構築しただろう。テレビが崩壊するというメディア論はその能力からして、ありえなかっただろう」と。そして「原点に戻るべきである。テレビという媒体を白紙で考えれば、驚くべき媒体なのだ」と続ける。
「ネットよりテレビが後から登場したら」という想定は、まことに鮮やかで説得的な切り口だ。

全くの白紙の状態からテレビの可能性を考えてみる、しかもテレビとは関わりのないジャンルの人たちを交えて侃々諤々議論をしてみる。これこそが今、必要なのではないだろうか。そして全く新しいテレビの価値を見つけ出し、色褪せてしまったテレビというブランドを生まれ変わらせることこそ、テレビ局の経営戦略にとって最も重要なのではないだろうか。

あやとりブログの執筆者は、テレビ局以外の人の方が多い、というより意図的に異業種の方に多く参加していただいている。テレビの今を理解し、ソーシャルメディアとの関わりを分析し、メディアの未来を考えるためには、テレビの「外の人」の思いがけない視点・予想外の発想・全く異なる思考が必要不可欠だからだ。

これまでも何度も述べたように、テレビのビジネスは、圧倒的に効率の良いテレビCMからもたらされる莫大な利益を、外に漏らさないように極力守り続けるというものだった。テレビ広告という完璧なビジネスモデルを少しでも傷つけることがないよう、新しい変化の兆しが見えたらすかさず排除するというのが、正しい判断だった。リスクを犯して変化や冒険をすることは、できる限り避けるのが正当だった。何か新しい事にチャレンジする時は、十分に時間をかけ、何度も稟議を繰り返し、石橋を叩き過ぎて壊れて渡れなくなってもよしとしてきた。高い壁に守られテレビの中だけで生きて来た我々は、これがDNAに刷り込まれてしまっている。

今、必要なのは新しい発想、新しい知と思考、そして、リスクを覚悟の上で非常に早いスピード(爆速)で冒険する勇気だ。

「テレビはこれからどうすればいいのか…」その答えは、これまで書いてきた中にちりばめたつもりだ。今、変わらないことは滅亡につながり、ゆっくり変わるのでは取り残される。素早く大胆に変わることこそ、次の時代へ生き残る唯一の路なのだと覚悟しよう。その上で、テレビが今やるべきことは何なのか、既存の観念を捨て去りまっさらの白紙状態から考えれば、テレビの未来は必ず見えてくるはずだ。

 

氏家夏彦プロフィール
1979年TBS入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部等)・バラエティ・情報・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年TBSメディア総合研究所代表。テレビの中だけでなく外の人たちと明日のテレビを考えています。毎年
フルマラソンでサブ4を続けるのが目標。週末は江ノ島でセーリングしています。Facebook、Twitterやってます。

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