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20145/27

「グルマン世界料理本大賞2014」に参加して

「グルマン世界料理本大賞2014」に参加するため、北京に行って来た。「グルマン世界料理本大賞」とは料理本のアカデミー賞とも言われ、その1年間に出版された世界中の料理本の中から、さまざまなジャンル毎にグランプリを発表するものである。今年も世界中から187の国と地域から、2万冊以上がエントリーしたという。

 

日本人ではこれまで、2010年に栗原はるみさん、2012年に有元葉子さん、2013年に速水もこみちさんらがグランプリを受賞している。昨年末、相方の料理本が1次審査を通過したという一報が入り、私もどっぷり「グルマン大賞」の世界にひたることになった。しかも、かなりずれた形で(笑)。

 

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(「Japanese Farm Food」で、『翻訳部門』グランプリ受賞のナンシー八須さん)

 

そもそも「グルマン世界料理本大賞」は、オレンジ・リキュールで有名なコワントロー家出身のエドワール・コワントロー(67歳)が始めたものである。「将を射んと欲すればまず馬を射よ」というではないか。コワントロー家とは、どんな一族なのか?調べ始めたら止まらなくなってしまった。

 

1849年、フランスのアンジューに住むアドルフとエドワール・ジャンのコワントロー兄弟が、オレンジ・リキュールのコワントロー酒を発売した。このコワントロー酒をフランスの国民的な酒に育て上げたのがエドワール・ジャンの息子、大エドワール。大エドワールの息子ルイとアンドレ(3世代目)の1920年代には、コワントロー酒はアメリカ、カナダ、南アメリカに進出。世界的なブランドとなった。

 

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ところがファミリービジネスの難しさ。4世代目に入るとご他聞にもれず、コワントロー家の結束にもひびが目立ってくる。1948年、コワントロー社はマックスとロベール兄弟と従兄弟のピエールに3分割され、経営方針をめぐって争うようになった。
最初レミー・マルタン社との提携を進めたのは、妻がレミー・マルタン社を相続した2人姉妹の妹だったマックスだった。コアントロー社は、ピコン、グレンタレット(スコッチウィスキー)、イザラ、クレデデュックなどのブランド酒を次々と買収、事業を拡大した。
しかし1973年、マックスが若干25歳の次男アンドレをピコンの社長に抜てきすると、一族の争いは激化。経営権や相続権をめぐって、骨肉の裁判が長く続いた。

 

そして1989年ロベールとピエールはコワントロー社を、マックスの義兄が経営するレミー・マルタン社に売却。ここにコワントロー家のコワントロー社は消滅した。
しかし、コワントロー社を乗っ取られたアンドレは、それでは終わらなかった。1984年に買収した料理学校「ル・コルドン・ブルー」の国際化を押し進め、大成功。2008年にレジオン・ド・ヌール勲章を受けている。

 

ところで、このアンドレには1歳違いの兄がいた。23歳でフランスを飛び出し、スペインに移住してしまったこの長兄こそ、グルマン大賞を運営するエドワール。コワントロー家の中で、最も重要なエドワールという名前を受け継ぎ、本来5世代目のホープであるべき立場だった彼は、父親との葛藤を抱え?名門一族を飛び出したプリンスなのか??はたまたドラ息子なのか???

 

と、ネットで調べただけでも、勝手に想像が盛り上がってくる。ミーハーなら、エドワール・コワントローに会ってみたくなるのは当然だ。「グルマン大賞」でばたばたなのはわかっていたがダメ元でインタビューを申し込んだところ、なんと授賞式直前の30分だけ許可が出た。

 

5月20日「グルマン大賞」発表初日。約束の時間にホテルを訪ねると、エドワールJr.(26歳)がスィートに案内してくれた。エドワールは、遅い昼飯摂っているところだった。メールのやり取りをしていたせいか、初対面の気がしないと伝えると、「ケルプ(昆布)が健闘するといいね」とリップサービス。なかなか気が利いている。

 

なぜグルマン世界料理本大賞を始めたのか?と問うと、「昔から、料理本はもっと高い評価を受けていいと思っていた。そもそも私は国際人で4か国語を話す・・・」
性格のいい私がすかさず「会不会説中文吗?(中国語は話すの?)」と聞くと、中国人の夫人から「你好と謝謝くらいよね!」と茶々が入り、場は一気になごんだ。

 

「ユネスコ無形遺産の良いところは、各国の料理が素晴らしいと言っているだけで、優劣をつけていないことだ」という発言に、思わず「グルマン大賞はどうなの?」と喉元まで出かかったが、明日は大事な発表日である。。。エドワールが強調したのは、「料理本の国際交流の意義」と「日本料理と料理本への高い評価」だった(すみません、全部書けなくて)。

 

翌日の5月21日「グルマン大賞」発表2日目は、私にとって一生忘れられない一日となった。 

 

 

授賞後パーティで、エドワールの秘書のピラーが満面の笑顔でおいらに言った。

「来年も待ってるわよ!」
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「エドワール・コワントローの悲劇」

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山脇伸介(やまわきしんすけ)プロフィール
TBSテレビ「あさチャン!」プロデューサー

1991年TBS入社。
朝昼の生情報番組やニュース番組のプロデューサーを経て、
2007年8月から1年間、ニューヨーク大学院(NYU)で「テレビとインターネットのこれから」について学ぶ。
帰国後、他局に先駆けてTwitterやFacebookの導入に尽力。
著書「Facebook世界を征するソーシャルプラットフォーム」(ソフトバンク新書)
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