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20126/18

6・18【「発信」よりも「受信」が大事だぞ!ソーシャルメディア ~ある泊まりデスクのひとりごと~】山脇伸介

2012年6月15日(金)オウム真理教元幹部の、高橋克也容疑者が逮捕された。6月4日に川崎市の潜伏先から逃走してから11日目のことだった。それはそれとして、その前日のことである。

 6月14日(木)午後11時過ぎ、翌日の朝番組のために泊り勤務をしていた私に、後輩のH君が気になることを言ってきた。
「ぼくの友人がフェイスブックに『川崎で人が集まっていて、警察官が交通整理をしている』と写真をあげているのですが」。
写真を見ると、確かに道には大勢の人が集まり、制服を着た警察官が交通整理の蛍光棒を持って立っている。
早速、その友人に連絡を取ってもらうと、現場は川崎駅近くのマンション前ということがわかった。念のため、報道局にも連絡を入れる。報道でもツイッターに同様の情報が流れていることを確認していた。

まもなく現場にいた一般の人が、スマートフォンでユーストリーム中継を始めた。タイトルは『高橋容疑者はこれから逮捕 川崎』。ネットでいう刺激的な“釣り”タイトルである。
ユーストリーム情報はツイッターでどんどん拡散され、午後11時30分頃には100人程だったユーストリームの視聴者数が、あれよあれよという間に増えていった。
15日午前0時10分には1万人、0時20分には1万5000人、0時24分には2万人を超えた。ユーストリームの横のソーシャルストリーム(ツイッターですね)には、「本当か?」などの信憑性を疑うものや「マスコミは何をしているんだ」というコメントが並ぶ。

もちろんテレビ局も手をこまねいていた訳ではない。記者も私の番組のリポーターも現地に向かっていた。面白かったのは、ユーストリーム中継のおかげで、他局の取材の様子もこちらで把握できたことである。
取材に出した後で、こちらには「現場近くのマンションに高橋容疑者がいるという通報があったが、警察で確認したところいなかった」という情報が入ってきた。

一方、ユーストリームの視聴者はその後も増え続け、午前0時29分には3万人。0時36分には4万人を超えた。
「このまま行くと、ユーストリーム記録の10万人を塗り替えるかも?」
と思っていたら、午前0時38分、おそらくスマートフォンのバッテリー切れのため、ユーストリーム中継は途絶えた。途中、何度も「手が痛い」と言いながら、1時間10分以上に渡ってユーストリーム中継を続けたこの方には敬意を表する。

結果的にこの騒ぎは空振りだった訳で、一部の新聞を除いて報じられなかった(私の番組では、ニュースで短く取り上げた)。しかし、今でも気になっていることがある。

☆  もしこの騒ぎが本物で、ユーストリーム中継内で高橋容疑者がひょいっと出てきたら?

その時は、ユーストリームに書き込まれていたように「マスコミより、ユーストの方がすごい」という言葉が現実のものとなる。
マスメディアでは、事実と確認できないのに「高橋容疑者は、これから逮捕」というタイトルをつけることはあり得ないし、騒ぎの状況を中継することも難しい(たまたま生情報番組枠ならあり得るが)。とすると、黒だか白だか情報がはっきりしない段階では、ユーストリームに持って行かれる可能性が高いということだ、ううむ(もちろん、事実である可能性が高まれば、マスメディアが追いつく可能性は十分にあるけれど)。

それにしても、たった一人で始めたスマートフォン中継が、わずか1時間ほどで4万人以上の視聴者を集めてしまうという事実は、ソーシャルメディア時代のすさまじさを物語っている。そして今回のユーストリーム中継は、多くのマスメディアの人間も食い入るように見つめていたと思われる。現場に向かう記者より、会社にいるデスクの方が現場の状況を把握しているなんて、時代は変わったものだ(というか、現場に向かう記者もユーストリーム中継を見てなきゃならない訳だ)。

先日の竜巻や雹の時も痛感したのだが、マスメディアにとって、一般の人たちからの映像や情報の提供はもはや必須になっている。かつて英BBCが、ツイッター上の誤った情報をそのまま報道して批判を浴びたが、マスメディアにとってソーシャルメディアは「情報発信」よりも「情報受信」の方が、より重要度を増している。ソーシャルメディアを通して「如何に多くの一般の情報(映像)を集め、その真偽確認ができるか」その仕組みを早急に作れるかどうかがマスメディア生き残りのカギだな!と痛感した夜だった。

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山脇伸介(やまわきしんすけ)
1991年TBS入社。
朝昼の生情報番組やニュース番組のプロデューサーを経て、
2007年8月から1年間、ニューヨーク大学院(NYU)で「テレビとインターネットのこれから」について学ぶ。
帰国後、他局に先駆けてTwitterやFacebookの導入に尽力。
著書「Facebook 世界を征するソーシャルプラットフォーム」(ソフトバンク新書)

 

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