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20136/28

●捨てる力と伝える力(稲井英一郎)

彼らが何をしに来るかというと、まず、国境付近にある広大なゴミ捨て場に、まだまだ使えそうな電化製品や、金目になるものを盗みにくる人々がいる。
また、米国に不法入国し、不法就労しようとする人々もいる。
そして、中南米からの麻薬を米国で売りさばくために密輸する麻薬カルテルがいた。

 

米国とメキシコの米墨国境は3,141㎞におよぶ、世界でもっとも長い国境のひとつだ。1848年の米墨戦争の原因となったこともある、両国にとってはその管理が歴史的にも悩みの種になっている。
そして1994年に、NAFTA(北米自由貿易協定)が締結されたあとは、メキシコから米国に流入する不法移民や違法麻薬が激増し、米国国境警備隊の取り締まりとイタチゴッコがエスカレートしていた。

 

アメリカのゴミをこっそり盗んで持ち帰るだけならまだしも、不法移民の激増と麻薬流入は、米国内の社会不安を増大させ、地下経済を肥えふとらせるため、米国政府にとっては見過ごせない問題になっていた。

 

テキサス州知事から米国大統領になったブッシュ氏は国境管理の重要性を認識していた。新政権は管理強化に踏み出すとみられ、その現場をみるために私たちはエルパソを訪れた。
そしてアメリカの国境警備隊に依頼して、夜間のパトロールに密着取材させてもらい、彼らにインタビューし、街の様子を撮影した。

 

エルパソ郊外の国境地帯は周囲に砂漠が広がり、まるでSF映画にでてくる地球外惑星のような荒涼とした地形が至るところに見られる。
夕方、向こう数百キロ先まで見通せる国境近くの小高い山に登ると、遙か向こうの方に雷雲がたちこめ、大気を稲妻の光が切り裂いていた。島国育ちの日本人にとって、これが、この惑星の光景かと疑うほど茫然とするほどで、雷雲の下はおそらく凄まじい豪雨だったのだろう、黒っぽい降雨の帯がベロのように地表に延びる姿がみてとれた。

稲井4

エルパソ郊外(Wikipediaより)

 

こういう過酷な場所に多数の不法入国者が忍びこんでくるのである。その数は年間、数十万人から百万人規模であり、うち数百人が過酷な気象条件や警備隊からの逃走で命を落とすといわれている。

 

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