● 番組制作の運用面からみたNHK技研公開(稲井英一郎)
機動的・効率化をめざしたIP無線モバイル中継技術
この技術は、一般視聴者にはあまり関心がないだろが、テレビ番組制作の機動力を高め、効率化をつきつめていくにはこれから欠かせない技術だ。
IP無線モバイル中継とはIP網による映像の伝送のことである。基本的にテレビ局はUHF波やマイクロ波によって中継現場から映像を送る。そのほうが、安定性があるためだ。
安定性があるというのは、伝送中に途中でロスが発生して、映像が途切れたり画質が乱れたりすることがほとんどないということである。
一方、インターネット回線を使ったIP無線による伝送では、最善は尽くすが結果は保証しないという「ベストエフォート技術」なので、周囲の地形や通信環境によって回線のトラッフィックが逼迫してくれば、途中で映像が途切れたり、ブロックノイズが混じったりすることがある。極度に高い安定性を求められるテレビ技術としては扱いづらいものである。
そのIP無線による中継でNHKは、伝送速度の増減に応じて映像データの容量(レート)を強めたり弱めたりして制御できる技術を開発した。
これはどういうことかというと、送る映像の品質を一定に保つことは二の次にするかわりに回線を極力途切れないようにする、という目的をもつものだ。
つまりテレビの中継現場スタッフが一番怖れる、生中継中に「絵が終ちる(=画面がブラックになる)」という事態を回避できる可能性が飛躍的に高まるということになる。
そうすれば、ネット回線が通じる場所でさえあれば、手で持ち運べる小型機材で機動的に中継態勢が組めることになり、多少の映像のクオリティを我慢すればコストの高い中継車を出さなくても、ニュース現場などからの映像伝送が遥かに今より簡単になる。
緊急時の災害報道や事件事故、スポーツニュースの取材などに効果を発揮するのは確実だ。
こうした技術を活用したIP伝送装置が今後、民生機で普及してくれば、テレビ放送はかってのように再びスタジオから現場に飛び出す番組機会が増えて、ライブメディアとしての性格をまた取り戻すかもしれない。
東京都世田谷区にあるNHK技術研究所
稲井英一郎(いない えいいちろう) プロフィール
1982年TBS入社。報道局の社会部および政治部で取材記者として様々な省庁・政党を担当、ワシントン支局赴任中に9/11に遭遇。
2003年からIR部門で国内外の株主・投資ファンド・アナリスト担当
2008年から赤坂サカスの不動産事業担当
2010年より東通に業務出向。
趣味は自転車・ギター・ヨット(1級船舶免許所有)、浮世絵など日本文化研究。
新しいメディア・コンテンツ産業のあり方模索中。
コメント
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