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20132/26

テレビがつまらなくなった理由がこんなに拡散した理由

先日のエントリー【テレビがつまらなくなった理由】に2328人もの方がいいね!を押していただいた(2月26日午後3時現在)。これまでのあやとりブログのエントリーでは、せいぜい100人ちょっとぐらいがMaxだったから、全くの未体験、こっちがビックリするような広まり方だった。

それにしても、なぜこんなに多くの方々に読んでいただけたのだろう。その理由をネット上の様々なコメントから考えてみた。

まずタイトルだ。テレビ関係者は不快に感じるタイトルだが、「テレビがつまらなくなった理由」でネット検索すると、過去に何度も様々な方が同様のテーマでブログに書いたり、掲示板などで話題になったりしている。ネットでは特段珍しくも目新しくもない。
今回目新しかったのは、下記のコメントに代表されるように、執筆者である私がテレビ局に所属していながらこんなテーマを掲げたことだろうか。

*  なぜテレビがつまらなくなったのかをテレビ局の中の人が冷静に分析した記事。たいへん興味深く読んだ。

ただ厳密に言うとちょっと違う。私はプロフィールにも書いてある通り、TBSメディア総合研究所の代表をしていて、TBSメディア総研はTBSテレビの100%子会社だが、ポジションとしてはTBSテレビの外部にある。従って厳密には、今は「中の人」ではない。むしろTBS本体から一歩引いた立場から、「TBSがより良くなるためには…」、「テレビがもっと元気になるためには…」などの考察・提言をするのが役割だ。だからこそ辛口の物言いもできるし、実際これまでにTBSの経営幹部宛に提出した様々な提言や報告書には、ブログに書いているよりずっと厳しいことを書いている。

 

もう一つは、今のネットではテレビをdisる風潮が強く、それに乗っただけでは、と最初は考えた。サイトに「テレビはもうダメだ」的な記事を載せるとPVを稼げるのは事実だろう。そんな風潮の中で、テレビの「中の人」が珍しくテレビをdisったかのようなタイトルでブログを書いたので、単にいわゆる「アンチ」が喜んだのかと思った。

しかし実際は全く逆だった。

現場で苦しい状況の中で頑張っている全ての制作者の名誉のためにも明確にしておくが、このエントリーで私は、テレビをdisろうなどとは露程も思っていない。むしろ個々の番組を見れば現場の人たちが実に良く工夫し、懸命な番組作りをしているのがよくわかる。皆、かつて一緒に番組を作っていた後輩たちだし、私の立場からすれば、今や他局の人たちも同じテレビの同志だ。

しかし現在のテレビのどうにもならない行き詰まり状況、閉塞状態は、もはや彼ら現場の努力だけではどうにもならない事態であり、構造的な問題が原因であるのは明らかだ。このエントリーにはそんな思いを込めたつもりだし、ここは誤解されないよう細心の注意を払って書いたつもりだ。

その思いは伝わっていると思う。今回のエントリーに関して、前述した「アンチ」からのネガティブなコメントはあるものの数はごく少なく、多くのユーザーはむしろ共感し、意図を正しく読み取ってくれた上で「この問題はテレビだけではない」と、テーマを広げてくれた。そのいくつかを拾ってみると・・・

*  中の人の冷静な分析だからこそ?業界は違えど「負のスパイラル」に起因する現状が、今の会社の現状に似ているから?・・・スッキリはいってきて、納得。
*  これ、テレビだけの問題じゃないよなあ。いろんな業界で首絞め合ってつまんない世の中になってるよなって思う。
*  TVに限らず、日本の大企業経営者の多くが同じ自縄自縛に陥って業績を落としている。
*  これは名文だと思います。テレビ業界っていうよりコンテンツ産業…いや、日本の企業全体に当てはまるかも。
*  PVで計測してるウェブメディア(釣り記事、ページを細かく分割してPV水増し等)は、この視聴率に翻弄されてつまらなくなったテレビ業界を笑えない。
*  これって、教育現場をはじめとして他にも色々な職種で似たようなことが言えるんじゃないかな。
*  どこも一緒だねという感じ。俗にいう数字が一人歩きするというもの。新たなメトリクスの開発&低コストな測定方法が必要というの共通な解決法。
*  これはテレビ局の話だけではなく、自分の会社にも当てはまると思った。ポイントは「経営陣が今までの指標に頼らず、本当に現場がチャレンジできる環境を作れるかどうか」ではないか。正しいだけの方針は矛盾と戦う現場には負担になり過ぎる。
*  「最適化」が「面白さ」を殺す、という話。これは本当にその通り。テレビが顕著だけど、それ以外のメディア(ネットのまとめサイトなど)に共通する構造でもある。

*  何もテレビに限った問題ではない。単純に成果だけを追い求め冒険やミスを認めず本来の目的・趣旨を見失えば当然にそうなる。経済とは本来、経世済民。事業の本質的な目標を見失ってはならない。

「名文」とあるのは間違いだ。私はニュースの原稿やバラエティー、ワイドショーの台本は山ほど書いたが、これらの基本は名文ではなく、「聞いてわかる日本語」(テレビだから当たり前)だ。これは自分のDNAに刷り込まれていて、今でも一文は短く!主語は短く!で書かないと気持ちが悪い。文学的表現ではなくテレビ的表現だ。

それはさておき、テレビにまつわる閉塞感がテレビだけではなく今の世の中の様々なところに蔓延しており、その部分で強い共感を得たのだと思う。
こういう広がり方をするのはTwitterの本当に素晴らしい特性だ。Facebookではこのような急激な拡散はできない。エントリーに対する2300を超えるいいね!は、もちろんFacebookのいいね!機能によるものだが、それをもたらしたのはTwitterの拡散力だ。この爆発力の凄さを今回は強く実感した。

 

こうした受け止め方とは別に、中には私が言いたかった事を違った意味で受け止めているなぁと思われる事例がいくつかあるので、改めて説明する。
まず、このコメント

*  新たな指標は大事だが、それが収益基準になる環境を実現しないと。

エントリーの中で「世帯視聴率を捨てて・・・」、と表現したが、これは別に視聴率を無視しろという意味ではない。年間2兆円近いテレビ広告市場だ。その広告価値を測る指標としての視聴率を無視するなどできないのは明白だし、結果としての視聴率は非常に重要であり重いものである事には変わりはない。ただし番組制作の際に「視聴率を獲ること」を目標にすると、逆に視聴率が獲れなくなるということを言いたかった。視聴率以外の指標を収益基準にするのは現時点では時期尚早だろう(録画視聴率など考えるべき事は多々あるが別の場で論じることにする)。

こんなコメントもあった。

*  後半の小牧氏の案はスポンサーとしても飲みやすいだろうが氏家氏の案はそのままスポンサーに言ったら「アホか」と言われそうだが。あとBPOに引っ掛かる様な内容が面白い番組だと思っているように読めるが。その時点で氏家氏は終わっているのでは?

エントリーの中で紹介した小牧さんの、性別・年代別の視聴率を指標に番組制作にあたる…というのも、これでスポンサーに説明するなどという意味では全くない。この辺りは間違えて受け止められたくないので丁寧に説明したつもりだったが、なかなか全ての人がちゃんと理解できた訳ではなかったようだ。またこのコメントには「BPOに引っ掛かる様な内容が面白い番組だと思っているように読める」と書かれているが、どこをどう読んだらそう受け取れるのか、困ったものだ。しかしそう受け止めた人もきっとこの方だけではないのだろう。今回は、自分の説明力のなさと同時に、ネットには色んな人が居るんだなぁということも実感できた。

話を視聴率に戻すが、もちろん、番組の価値を評価する新たな指標の開発は活発に行われている。
例えば、番組についてのツイート数を指標にできないかとか、(ビデオリサーチ社が実験中)、ツイートの中のキーワードから、番組に好意・好感を持つもの、高揚・興奮を感じているもの、否定的なものにツイートを分類して比較する(われらが境治さんたちがトライしている)などだ。
しかし、収益基準の指標として実用化されるにはまだまだいくつものハードルを乗り越えなければならないだろう。今後に期待したいし私も開発に協力するつもりだ。

最後に同じ人の二つのコメントを紹介する。今回の様々なコメントの中でも読んでいて本当に嬉しくなって胸が熱くなったコメントだ。感謝の意味も込めてIDもご紹介します。『f_fukusuke』さん、ありがとうございます!

*  テレビの閉塞状況が、現場レベルの声としてあらためてわかる記事。評価の尺度を多様化させれば、テレビはまだまだオワコンじゃないと思う。

*  逆に、これだけガチガチの制約に縛られてるのに、その中でなるべくおもしろい最適解を出そうとしてる現在のテレビ制作者のクリエイティビティとスキルって、どんだけ高いんだよって思うけど。

 

氏家夏彦プロフィール
株式会社TBSメディア総合研究所代表
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その行く末をしっかり見極め、テレビが生き残る道を探っています。
1979年TBS入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部等)・バラエティ・情報・管理部門を経て、放送外事業(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、 商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)を担当した後、2010年現職。
最近はテレビの外の人たちとの人脈が増えています。

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    • Natsuhiko Ujiie
    • 2013年 2月 27日

    エントリーの中で紹介しきれなかった
    番組ごとのツイート数を利用したスマホ・アプリをご紹介します。
    *Emocon(byグリーとVOYAGE GROUPのジェネシックス)
      http://emocon.me/
    *wiz TV(by日テレ)
      http://wiz-tv.com/
    *みるぞう(byニフティ)
     http://miruzow.nifty.com/pc/
    *テレビジン(by福田一行さん)
     http://tvz.in/

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