あやぶろ/OLD

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20132/27

●《メディア時評》テレビを“まとめる”ことはできるか?―「にゃんこ大戦争」「リーダーズ・ダイジェスト」「SPIDER」他(河尻亨一)

★「なめこ栽培」に没頭するサラリーマンの境地に我達せり

ハマりますよね! にゃんこ大戦争。

私は高校のときに「ドラクエVI」および「ぷよぷよ」などをさんざんプレイし、以来あまりデジタルゲームにご縁なかったんですが、これにはやられました。この一週間くらい夢中です。

流行りモノの周辺で何か考えたり言ったりする稼業ですから、以前より話題の新作ゲームがリリースされるたびに一応気にはなっていたとはいえ、遊ぶまでにはいたらずでした。近年の私とゲームの関わりと言えば、電車内で人目もはばかることなく「なめこ栽培」に没頭しているオッサンの観察程度だったのですが、いま、ようやくその無我の境地に近づけた気もします。

とはいえこのゲーム、猫軍団(味方)とほかのアニマルズ(敵)が陣取り合戦するだけですからね。たわいもないと言ってしまえばそれまでなんですが、難易度とパワーアップ度合いの兼ね合いが絶妙でして、いい感じで進んでるぞ~と思うといきなり負け始めたりするのでまた頑張らざるを得ず、非課金でもそれなりに楽しめてしまうところも罪作りです(2月24日現在、200万DL突破とのこと)。目に見えない部分での計算が綿密に施されてそうな匂いがします。

パワーアップのアイテム(猫缶)の購入に抵抗感がある場合は、「Hulu1ヶ月無料視聴」その他たくさんの無料・有料キャンペーンや商品の中から選んで登録するとゲットできるようになってました。キャンペーンリスト内に自分の関心とマッチするサービスがあれば、一瞬検討してしまいます。

nyanko

「2章で挫折しますた」

こんなこといまさら言うのもなんですが、勢いあります、スマホゲーム。正月には「パズドラ」のCMもよく見かけました(こちらは現状900万DLとか)。かなり前にフジテレビとのコラボや提携も地味にニュースになっていた「angry birds」シリーズにいたっては世界で累計12億DLとも言われておりますが、このゲームも面白いんですよね。

●パズドラ大ヒットの深層ーガンホー森下社長が語った開発の裏側(東洋経済オンライン)
http://toyokeizai.net/articles/-/13026

●「アングリーバード」,フジテレビと提携。新エピソード「サクラ・ニンジャ」公開(4gamer.net ※2012年の記事)
http://www.4gamer.net/games/149/G014980/20120308021/

 

★「にゃんこ」な目線で世界をまとめれば

ところで自分の場合、これをやり始めたきっかけは「ゲーム」ではなく「にゃんこ」です。近頃、“猫タグ”にめっぽう弱くなってまして…。

古くは百鬼園先生の『ノラや』から最近ですと『世界から猫が消えたなら』といったニャンコ系文芸のみならず、猫グッズのバナー広告、ご機嫌取りから家出時の対処法までのノウハウを紹介するサイトetc、キャットにまつわる情報&コンテンツには、それこそ「猫大好きフリスキー」状態で即座に飛びついてしまうわけです。

それを可能にしているのは、“検索とソーシャルの合わせ技”です。それがあると、ゲームにあまり関心ない人が、「にゃんこ」タグからそこにたどり着いて入って行くことも起こりえます。逆もまたしかりですね。

よく、ネットの弊害として「閉じこもって世界が狭くなる」(偶然の出会い、新たな発見の機会が奪われる=オタク化する)という指摘がなされることがあり、確かにそういった側面は否定しきれないのですが、自発的にせよ多発的にせよ、どこかに「編集」(価値を混ぜる)の仕組みが構築されれば、そのリスクはある程度回避できるのでは? というのが私の考えです。私のイメージする今世紀の人間像は「大衆とオタクのあいだ」に存する気もします。それを明快に示す言葉が見つかってないのですが。

というわけで、猫との絡みも豊富なPC遠隔操作事件の今後の展開にも大いに注目しているわけですが、情報を検索する過程でこんな“まとめ”たちも発見しました。

●産経新聞、チョコが貰えない「非モテ男」の象徴として片山祐輔容疑者の写真掲載(痛いニュース(ノ∀`) )
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/lite/archives/1750800.html

●【遠隔操作】”ソースコード”というウイルスに慌てふためくtwitter民(Naverまとめ)
http://matome.naver.jp/odai/2136055481454413501

ツボをよく押さえているというか思わず笑います。ヒットするまとめって、みんなさりげなくよくできてますね。上記はまだオーソドックスなうまさと思うんですが、たまに編集者視点で見て、ニクいくらいの超絶テクを披露しているものにも出くわします。

これらの“キュレーションサービス”に関しては、「他人が2ちゃんやらTwitterやらに書いたことをパクってPV稼ぎやがって」という批判もあったり、嘘かまことかまとめの達人の中には「都心の高級マンション住んでベンツ乗り回してる輩もおる!」みたいな噂も小耳にはさんだりもし、思わず聞こえなかったフリをしてしまうのですが、その善悪はともかく、おびただしい量のニュースが日々飛び交ういまの情報爆発環境において、ほしい情報をサクッと効率よく面白く提供してくれる「まとめ」のニーズは大きいってことかもしれません。

古今東西、人は楽で楽しいところに集まります。こちゃごちゃに錯綜した情報の中から、意義あるストーリーを自ら見つけ出すのはしんどいし時間も手間もかかりますから、「いい質問ですね!」と参加者をいい気持ちにさせながら、ズバッと要点を整理してくれる池上彰さんみたいな人や機能が存在するのは、助かるわけです。

 

★「統合」で栄える者と去る者と

話は変わりますが、「リーダーズ・ダイジェスト」の経営元が2度目の破産申請をしたというニュースが先週世界を駆け巡ってました。

「リーダーズ・ダイジェスト」と言えば、膨大な雑誌群から重要記事をピックアップし、読みやすいようにまとめた元祖まとめ(超編集)メディアとも言えそうな存在です。1922年創刊と言いますから、いま90周年キャンペーン開催中の「文藝春秋」とほぼ同い年で、wikipediaによると世界で4000万人もの読者がいるらしいです。なんで破綻したんでしょう?

イマイチわからない点もあるので、調べてみました。色んな記事を読んで、合点がいった部分といかなかった部分があるのですが、以下2つの記事は参考になりました。

●ハフィントン・ポスト 成功の鍵は(NHK NEWS WEB)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130221/k10015672221000.html

●Rise and fall of Reader’s Digest(CNN)
http://edition.cnn.com/2013/02/20/opinion/sharp-readers-digest/index.html

NHKの記事は、急成長を続ける「ハフィントン・ポスト」(3万人のブロガーが参加するネットニュースサイト)との比較で、「リーダイ」についても言及しています。記事内では「ハフィントン」のCEOのコメントが紹介されているのですが、なかなか気になることをさらっと言ってのけてますので、肝に当たる部分を引用してみましょう。

「私たちは、ニューヨーク・タイムズのような従来のニュースメディアではありませんし、フェイスブックのようなソーシャルメディアでもありません。この2つを統合して全く新しいソーシャルニュースを立ち上げたと自負しています」

ここで言う「統合」が言うは易し行うは難しの部分でして、実行・成功した人が言うと説得力ある気もします。

記事では匂わすだけで明確にそう書いてませんが、ふくらませて自己流に解釈すると「リーダーズ・ダイジェスト」は、「アメリカで最も慎重に編集された雑誌」であるにも関わらず、まとめメディアとしてソーシャル性(現代的キュレーション性)に乏しいがゆえに、(現状のままでは)その役割は終わりに向かっているということかもしれません。

本家CNNの記事はネットの影響云々に加えて、冷戦構造の崩壊とも絡めて書いてますが、いわゆる「大衆」に向けた総合記事コンテンツの編集はいまやなかなか難しいものがあるのでは? というふうにも読み解きました(「リーダイ」のケースだと昔は「ソ連ガー」と言っておけばなんとかなったのが、その手は使えなくなった)。

いずれにせよ、また別の「まとめ」発想がいるようにも感じるのです。

そこで思ったのですが、テレビにおけるキュレーションてなんなのでしょう? 氏家さんが近頃その重要性を力説されている「全チャンネル同時録画機SPIDER」や「メタデータ」は、もしかするとこのテーマに絡むことかもしれません。「発想の大転換で大ピンチをチャンスに変える」と題された一連のポストはかなり興味深い。

全録画・全データ化されることによって全番組の詳細情報が検索可ということですから、私だったらひたすら「猫」で探すとか。そうすれば、動物番組だけでなく、猫ゲームの話題等の関連ニュースですとか、任意のワードにリンケージした色んな情報がゴマンと出てくるってことですし、テレビ経由で猫グッズを買えるようにもなったり、番組に出て来た猫スポットが「江ノ島だ」ってことも即わかるようになるってことですね。そりゃ便利だ。

 

★テレビパーソンのためのキュレーション講座

一方でこういったブログもありました。

●全チャンネル同時録画レコーダー「SPIDER」を5ヶ月使ってみて考えたテレビの終わりの始まり(オレンジ)
http://orangeorange.jp/archives/21349

下記ブログでは、「SPIDERの検索機能は出演者や番組のコーナー内容まで驚くほどきめ細かい検索をすることができるのですが、それで検索した番組が、自分にとっての『面白い番組』とは限らないのが厄介なところなんですよね」と書いてらっしゃったりもします。

ようは検索して出て来た情報がその人にとってどれだけ有為なものかはわからない、というネットの検索と似たような課題が出てくるわけで、「+ソーシャル」の合わせ技がここでもいりそうってことですね。

前ポストで氏家さんが、メタデータのフル活用化実現への劇高ハードルとして掲げている「①全番組の巨大なプラットフォーム化」「②ネットビジネス化」「③オープン化」がもし果たされれば、そこにはソーシャルまとめ的なニーズが自動的に生まれてくると思います。

つまり、キュレーション的発想がテレビ産業シーンでも重要になってくるかもしれません。「ザ・テレビジョン ソーシャル」みたいなものでしょうか。「みんなの感想 Yahoo! テレビ」などもすでに結構盛り上がってるようですが、あれは感想メインですから。いや、この場合、既存メディアやサービスの似姿として考えることがすでにハズしているのかもしれませんが。

ちなみに、「まとめ」とか「キュレーション」というのは、編集フィールドっぽい用語ですから、テレビパーソンの方は聞いたことがあっても馴染みが薄いかもしれません。そういう場合は、この書物が一等おすすめです。

キュレーション-収集し、選別し、編集し、共有する技術-スティーブン・ローゼンバウム
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これ、翻訳版が出たのが2011年の年末でして、登場する事例が少し古くはあり、加えて基本海の向こうの話ですから、日本の情報環境にそのままは当てはめずに読むことが重要と思われますが、「Curation」という近頃一気に聞かなくなったけど、実は今後さらに重要度を増しそうなコンセプトを理解するための教科書としては適していると思われます。

ソーシャルウェブを活用した現代編集のメソッドにとどまらず、その行為が果たすマーケティングパワーについてもふれ、比較的ニュートラルな立ち位置から語っているぶんヘンなバイアス感も少なく、「じゃ、どうすりゃいいの?」の策までポジティブかつ実践的に示唆しており、もしかしたら今後3年くらいは活用出来そうなコスパの高い一冊となっております。

ところで、高田馬場の老舗CDショップ「ムトウ」が4月でクローズするらしいですね。創業1924年という話ですから「リーダイ」や「文藝春秋」とほぼ同世代なんですが、前川センパイの学生時代からあそこにあったんでしょうか? 推察するに、当時目白・落合界隈にまとまって住んでた大正バブリーなクリエイターたちの御用達ショップとしてスタートしたのかもしれません。

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4月30日まで閉店セール開催

こういう報に接すると、多くの人が残念だと言いますし、自分もまたそう思う一人なんですけど、もう10年行けてないんですよね。毎日のように前を通るものの…。

学生時代、隔離別室のようになっていた店舗最奥のJAZZコーナーで、ジョン・コルトレーンの映像がでかいスクリーンに映し出されてるのを見つつ、「いつかはこういうDVD BOXセットを、ためらいなく『ぱーん!』と買えるオトナになりたいものだ!」と思いつつ未だそうなってないんですが、その前に動くコルトレーンでもビル・エバンスでもいくらでもyoutubeで見られる時代が来てしまい、買いたい欲そのものが消失気味です。

いつまで続くんでしょう? このコンテンツデフレの荒波は。頑張れ! アベノミクスと思いつつ、自衛と自営のためにはまた別のアプローチも探ったほうがいいような気もし始めた昨今です。

●デフレからの脱却は無理なのです―水野和夫・埼玉大学大学院客員教授に聞く(日経ビジネスオンライ)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130116/242345/?P=4&mds&rt=nocnt

 

 

★プロフィール
河尻亨一(元「広告批評」編集長/銀河ライター主宰/東北芸工大客員教授/HAKUHODO DESIGN)

1974 年生まれ、大阪市出身。早稲田大学政治経済学部卒業。雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心にファッションや映画、写真、漫画、ウェブ、デザイン、エコ など多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集企画を手がけ、約700人に及ぶ世界のクリエイター、タレントにインタビューする。現 在は雑誌・書籍・ウェブサイトの編集執筆から、企業の戦略立案およびコンテンツの企画・制作まで、「編集」「ジャーナリズム」「広告」の垣根を超えた活動 を行う。

 

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