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20121/10

ネットは嘘つかない―前川英樹さんの5つのご質問に本音でこたえる⑤― 河尻亨一

~④からの続き~

社会の側が頑強にいままでの体制を守ろうとするなら、ますます呪いの声はネット上に満ちあふれることだろう。そのことが着地点を見えにくくしている。

「類的につながって呪いの言葉を吐きまくる一群」や「価値観の違いから対話を拒む人々」は、かつてもたくさんいた。そしてネットワークはインタラクティブなやり取りに依拠するために、社会状況や時代の空気、人々の本音を映しやすい面はある。

テレビは一方通行であるために、基本「呪い」がメディア内に潜航するような仕組みになっている。表現とはそうやって昇華されたものだ。

しかも日本のテレビは基本イケイケの時代に並走してきたので、そういった一般的ヒューマンマインドへの耐性が薄い面もあるのではないだろうか? たとえば大阪の中学生が当時大ブレイクのトレンディドラマを見ると、「まったくの絵空事」にしか見えなかった(言葉が東京弁であるし)。リアルな世の中には“不幸”や“呪い”が満ちあふれているのに、ずいぶん気楽そうな人たちがいるもんだなー、と感じていたのである。

人間はうれしいときも悲しいときもあり、人の悪口を言ったり酔っぱらってくだを巻くときもある。現状不幸な人たちは、匿名性の場において、そのネガティブ面を強く発信するケースはままあるだろう。つまりネットは「嘘がつけない」「ついてもバレる」のだ。

なので、その意味ではネットワーキングのツールが問題ではなく、そこに対応しきれていない社会や人の側の問題が大きいようにも思う。テクノロジーのポテンシャルを生かせていないのだ。

確かに、もっと「戦メリ」的な出会い、あるいは柄谷行人が言っていた「交通」的な文脈によるハイパーコミュニケーションがもたらす価値創出は、ネット上でよく見かける「似た人たちがなんとなくつるんでます」的な若干気持ち悪い感じとは一線を画すものであり、僕も含めその部分に嫌気がさしている人もたくさんいる。

もし、そこを突破する方向性を考えるのであるとすれば、職業的スキルを持つ「触媒的存在」を養成するしかない。

これは僕も重要だと考えている。「メディアとネットワーク」、「文化と文化」、「世代と世代」、「共同性と共同性」、「バーチャルとリアル」の橋渡しをする“ハブ的存在”。そのひとつのトライアルがキュレーターというものだ。

もうひとつ。「類を超える」ことを知っている人(大人)が、それを知らない人たち(若者)に、「類を超える」ことの意味と価値を地道に説いていったほうがよいのでは? とも思う。もちろん強制はできないが「匿名で無責任なこと言って楽しい? それってたんなるストレス発散じゃん? もちろんストレス発散自体はいいけど一生それやってんの?」みたいな。

かつての社会にはからだを張ってそれを言える、身を以て呈する“金八先生的存在”がわりといた気がする。別に松岡修造のようにアツくならなくてもいい。たとえば以下のようなことなのでは?

wikipediaによると手塚治虫は、「漫画を描く際にプロ・アマ、更には処女作であろうがベテランであろうが描き手が絶対に遵守しなければならない禁則として、“基本的人権を茶化さない事”を挙げ、どんな痛烈且つどぎつい描写をしてもいいが以下の事だけはしてはならない、『これをおかすような漫画がもしあったときは、描き手側からも、読者からも、注意しあうようにしたいものです』と述べていた」そうだ。

禁則は以下の3つに集約されるようである。

① 戦争や災害の犠牲者をからかう
② 特定の職業を見下す
③ 民族、国民、そして大衆を馬鹿にする

この3原則は基本いまも変わらない。「リテラシー」とはここを徹底することではないかと僕は思う(これ以外は表現上何をやってもいいというのがすごい)。学校でも教えたほうがいいだろう。こういうことを示唆する“キュレーター”のニーズも今後は高まりそうだ。

言っておくが「キュレーション」とは日々のおすすめニュースをコメント付きでSNS上にぶっ放す行為をさすのではない。ニュートラルな視点から、情報を編集し、意味をデザインし、行為へ導く地図の機能をバーチャルとリアル両面のアクティビティを通じて果たすことだ。

しかし、残念ながらいまはこの程度のことも呼びかけずに「呪いじゃ~!! やべえぞー」みたいなことをブログに書いたりする“知識人”が影響力を持ってしまっているのだ。そのわかりやすさが人気の秘訣だと思うが、実はそれこそ世界の矛盾の裏返しに過ぎない。根本的な勘違いがここにある。

日本が「ボイド(空虚)」であることを自覚し、目立たなくともコツコツと行動を積み重ね、「グローバル・プログラム」を綴って行く以外に解決策はないように思うのだが。

まあ、その方はその方で何かを達成する手段・戦略の一環としてそれをやっているのかもしれないし、そうだとすればわからなくもないのだが、ほかにもやりようはあるだろうに……。

もしかしたら世の中全体が“釣り化”しているのかもしれないが、そういった動きが「倫理感やビジョンを欠いたほうの資本の論理」とガチ結託したときにはマジしょっぱい。水平型世界を垂直の論理で強引にかき回すあの手法だ。アパッチではないがコミュニティはそのとき滅びる(水平的コミュニティで西洋社会に挑んだアパッチは敵に「牛」を贈られることで力を失ったそうな)。

ヘルシーに働き、ヘルシーなビジネスを志したいものだ。もちろん「ソーシャルでビジネスをしてはならぬ」みたいなことではない。その際には水平型ネットワークの可能性をふまえた倫理と美学と手法がいるということだ。たとえばTwitterはクリエイションのかけらもない“ヘンな広告”が入りだしてから、明らかに空気が変わった。

クリエイションはハブになる。しかし、そのためにはマス的なそれとは違う「テックとクリエイティブの関係性」を考察する必要がある。もちろん、マスにもクリエイティブはもっといる。

ここで最初の話に戻るわけだが、前置きで示唆したように僕は「表現者」と相性がよいケースが多い(クリエイターという“類”に限定しているのではなく、多くの人が持っている自由な「表現要素」。コミュニケーションで何を伝えたり、人と自分を楽しくしたいという欲求。そういう欲はモノに依拠する部分が少ないので今後にマッチしていると思うのだが)。

自分もそうありたいというか楽しく生きたいので、あやぶろメンバーを始め、せめてそういうことが共有できる「類」とつながっていたいと思うのは、望み過ぎなのだろうか。つながれる人はそんなにいないわけでもあるし……。

その場合の「類」は政治家でも、起業家でも、どんな職業の人でも、金持ちでも、金ない人でも、なんでもいいつもりではいる。そういった「共同性」の束が世の中を変える可能性はあると思う。

★結び

いかがでしょう? 大急ぎで書いたのでまとまってないところもあるかと思いますが、これくらいのほうがブログっぽくていいかもしれません。隙も作ってありますから、皆様といろいろディスカッションしながらブラッシュアップしていけたらと思います。今年もよろしくお願いいたします。

※参考文献『ヒトデはクモよりなぜ強い—21世紀はリーダーなき組織が勝つ』(日経BP社/2007年)

★新プロフィール
河尻亨一(元「広告批評」編集長/銀河ライター主宰/東北芸工大客員教授/HAKUHODO DESIGN)

1974年生まれ、大阪市出身。早稲田大学政治経済学部卒業。雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心にファッションや映画、写真、漫画、ウェブ、デザイン、エコなど多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集企画を手がけ、約700人に及ぶ世界のクリエイター、タレントにインタビューする。現在は雑誌・書籍・ウェブサイトの編集執筆から、企業の戦略立案およびコンテンツの企画・制作まで、「編集」「ジャーナリズム」「広告」の垣根を超えた活動を行う。

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