あやぶろ/OLD

テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

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201112/28

伝える、つながる、会いにいく。それは…いいことだろう?① ― 河尻亨一

●2011年は終われない?

振り返ってみて、歴史に残る一年だったんだと思う。国内の地震、原発はもとより、世界に目を向けてもアラブの春、ロシアの冬、その他のデモ、ビン・ラディン、カダフィ、金正日という“ヒール”たちの退場。スティーブ・ジョブズや時代を築いたたくさんの人々の死。欧州の金融不安。タイの洪水。大阪の選挙。名称から「広告」の2文字が取れたカンヌクリエイティブ祭etc。

21世紀の扉がようやくフルオープンした、という印象だ。

個人的にも様々な動きがあった。しゃべり、書き、人に会い。(志村さんには負けるが)NYや被災地をはじめ移動も多かった。あやぶろの活動もやり、山形の芸術工科大学で講座も持ち、まだトライアル中のものが多いが様々なブランドコミュニケーションの企てもお手伝いし、芝居にまで出演するというよくわからない日々だ(男優賞いただいた)。来年もこうでありたい。

2011年は僕の方向性を定めてくれた気がする。

今年もその動きをサポートしてくれているのがSNS(TwitterとFacebook)である。僕は正直、世間の達人たちほどうまく活用できていないと思うが、それでも現状役に立ってる。巣となるメディアを持たない自分にとって心強い武器だ。交流、情報収集、PR、ストレス解消など、その効果も様々である。

●難民なのか遊民なのか

そして7月28日をもって、僕はいわゆる“地デジ難民”となった(逆に言えば“ネットワーク遊民”)。テレビジョンのない生活だ。無理してそうしているのではなく、テレビ受信機を買い替えるのがメンドくさく自然にそうなった。3月にテレビがないのは考えられなかったが、いまはNO PROBLEM。もう一度テレビで、今度は素敵なことが起こったら、また観ようと思ってる。いまはiPhoneとPCとネット環境があればそれで十分。

厚生労働省の調査では、「テレビやDVDをほとんど見ない」と答えた18歳未満の子供の割合が前回調査(2004年)に比べて、2・5倍になったそうだ。高校生の場合、「ほとんど見ない」「1日1時間未満」が約24%に上るという。筆者が教える大学でも「最近テレビあんまり見ないんで…」と言う学生が多い。
参考記事:http://blogos.com/article/27700/?axis=p:0
「♪都会では テレビを 観ない若者が 増えている~ 今朝出た ネットニュースに 書いていた~」。井上陽水がいまデビューしていたらこう歌っただろうか?

だが、それ以前にフォークもロックも遠い風景になりつつある。『ロックとメディア社会』(サエキケンゾウ著)の新聞書評を書いたが、それ(“ロック”)はマスメディアの隆盛あってこそ花開いた音楽産業であった、ということがわかった。本書では、プレスリーとテレビ、ビートルズと映画、80年代POP音楽ブームとMTVなど、巨大メディアと音楽産業の関係性、つまり蜜月が緻密に描かれる。

聞くところによると、就活の面接で「趣味はロックです」と答える学生が多くなっているらしい。つまり、それはいまや上の世代とコミュニケーションするための“教養”となりつつあるようだ。

●“君”に会いにいかなくちゃ!

じゃ、彼らにとってリアルな音楽とは? それはPC上で生成され、ネットワーキングで伝播する。たとえば、Google Chromeが12月中旬に始めたグローバルCM(feat.初音ミク)をご覧いただくとイメージがわきやすい。

この60秒CMの中では、計100人近い“クリエイター”が、バーチャルシンガー・初音ミクをモチーフにした楽曲、イラスト、動画などをコラボスタイルで制作する様子と、公開された動画がコスプレ・ダンス動画などの派生投稿、ライブイベントにまで広まって行く模様が描かれる。

[yframe url=’http://www.youtube.com/watch?v=MGt25mv4-2Q’]

Google Chromeの動画:http://www.youtube.com/watch?v=MGt25mv4-2Q

このCMは「ネットワーキングとはどういうものか?」を、マス的マインドの持ち主でもわかるように楽しく表現しているという意味で、とてもよくできていると思う。氏家さんや須田さんのように“そっち方面”に詳しくない僕でも、「ボーカロイドの面白さってそういうことだったのか!」を体感できる作りになっているのだ。

時代はここまで来たんだな。概念に過ぎなかった「Everyone,Creator」が理解できた。牧歌的にも思えるこのトリセツ風CMが描こうとしてるのは、実は未来へのヴィジョンだ。

それにしても、陽水は正しい。いつの時代も“僕”にとって本当に大切なことは、「新聞(やテレビ)がどう言っているか」ではなく、“君”に「会いにいかなくちゃ」なわけだから。そう言えば、さっき挙げたCMのBGMの歌詞でもそういう内容のことを言ってた。「君に届けたいことがある」と。そして「たくさんの点が線になってつなげていく」とも。それはいいことだろう?

本質はそこだと思う。「“君”に伝えたいこと」があるかどうか。メディアやネットワークは手段にすぎない。だが、個人(一ジャーナリスト)の声を届けるツールとしては、ネットワーキングサービスのほうが適していると思う。

●スティーブ・ジョブズは就活やらんだろう…

もちろん、稲井さんが前回ポストで書いていたように、超ゴージャスなビジネスジャーナリズムスタイルが裏で確立されているアメリカのような社会なら、そんな“スナイパー”なゴルゴ的言論活動も悪くないとも思う。倫理的ポイントを無視すれば(「フェア・ゲーム」観てみよう)。しかし、ジャパン村ではたぶんそれを望むべくもない。それは“平和”の証でもある。

前回ポストで前川さんがベンヤミンを引用されていた。それで『複製技術時代の芸術』の中の有名な一節「世界史において初めて、機械的な複製は芸術作品を儀式への寄生的な依存から解き放った」を思い出した。

先ほどのGoogleの初音ミクCMを観て思うのだが、「デジタル技術は芸術作品を儀式への寄生的な依存からもう一度解き放った」のかもしれない。歴史は繰り返そうとしているのだろうか? ロックが儀式(就活)で用いられているくらいだから(「趣味は初音ミクです」と言ったらそっち系の会社でない限り落ちそうだ)。

12月初旬。マイナビという就職情報サイトの広告が、ちょっとした物議をかもした。B倍サイズのポスターにスーツ姿の若者たちの顔、顔、顔。みんな判で押したように、「考える人」のポーズをとっている(スティーブ・ジョブズポーズとの説もあり)。Twitterで検索すると「気持ち悪すぎる」「ひどすぎる」「コワすぎる」と悪評の嵐である。

しかし、これは広告としてよくできていると思った。逆説的な言い方になるが、「就活」というカルチャーはこういうものである、ということがここでは端的に表現されているからだ。それは「画一的な枠の中で“個性らしきもの”をアピールせよ」という近代的な村の儀式である。

ネットワーク的世界を生きるいまの学生たちが、この表現に生理的嫌悪感を覚え、Twitterなどでブーイングするのは当然だろう。だが、村の掟は意外と厳格なのじゃ。SNS上で異議を唱える学生の多くも、やがては枠(メディア)の中に吸収されていかざるをえないのでは? とも僕は思う。しかし、その枠にハマりきれなかった“無法者”たちがブレークスルーを起こす可能性はある。現にそういう受け皿もネットワーク世界には誕生しつつある。

【管理人より】
管理人の氏家です。河尻さんの原稿はこのブログ・システムの字数制限を超えてしまっているので、二回に分けて掲載します。

★新プロフィール
河尻亨一(元「広告批評」編集長/銀河ライター主宰/東北芸工大客員教授/HAKUHODO DESIGN)

1974年生まれ、大阪市出身。早稲田大学政治経済学部卒業。雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心にファッションや映画、写真、漫画、ウェブ、デザイン、エコなど多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集企画を手がけ、約700人に及ぶ世界のクリエイター、タレントにインタビューする。現在は雑誌・書籍・ウェブサイトの編集執筆から、企業の戦略立案およびコンテンツの企画・制作まで、「編集」「ジャーナリズム」「広告」の垣根を超えた活動を行う。

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