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20123/9

「MAKE TV」はテレビをスイッチできるか?―「dot.switch生番組、現場・オンエアレポート ― 河尻亨一

3月4日。Facebookを見ていたら、だれかが「dot switch」というサービスの情報(使用中の写真とともに)を上げていた。なんとなくピンとくるものがある(気になる)写真だったので、その人のコメント欄に「これ、なんですか?」と質問したところ色々教えてくれた。

で、「あー、PARTYが関わってる“make.believe”(SONY)のアプリだ」ということを思い出し、さらに調べた。すると、6日(火)の深夜にTBSで、このアプリと連動した生番組「MAKE TV」を放送するということが判明したのである。情報はそのように伝わる時代を改めて実感した。

少し解説を。「dot switch」とは、“PCやテレビなどのスクリーンの向こう側に参加・コントロール”するというふれこみのAndroidアプリ。……と言って「わからん!」という感想をお持ちの方は、ようするに「スマフォやタブレットの画面を押せば、テレビに映ってるものが動く」くらいにお考えいただきたい。

サイト:http://dotswitch.jp/index.html

“あやぶろ”はテレビ業界ブログなのでもう少し補足説明を。さっき話に出た「PARTY」というのは、僕がよく取材させてもらったり、イベント出演を依頼しているクリエイティブラボ、つまり広告界寄りの企画チームである。昨年5人のクリエイターが中心になって立ち上げた。
「日本人として、カンヌ(広告のほうの)でもっともアツく受賞しまくってる人たち」と言えば、その実力をイメージしてもらいやすいかもしれない。

で、「この“MAKE TV”は面白そうだ」と思い、TBSメディア総研・氏家さん(あやぶろ編集長)に急遽お願いして、現場取材の手配をしていただいた。「世界初、地上波とウェブのサイマル、しかも生放送」を謳うテレビ番組を、新しいテレビのあり方を考える言論パーティーの先鋒である「あやぶろ」がピックアップしないわけにはいかない。

「テレビ×ウェブ(ソーシャル)×生」で何が起こるのか? を体験すべく現場へ向かった。

スタジオは湾外沿いのデカい倉庫(40m)だった。そこに巨大なフィギュアやら、ドミノやら、トランプやら、バラエティ番組に出てきそうなセット群が並んでいる。セットは約1ヶ月かけて準備したそうだ。番組ではセットのあいだを、youtube発で人気に火がついた米ポップ・デュオ「KARMIN」が演奏しながら練り歩くという。

※写真①(キャプション:様々なセットが並んだスタジオ。大勢のスタッフが機材やセットの最終チェック中)

それぞれのセット(計13個)には仕掛けが施されている。オンエアではKARMINが各セットの前に来たタイミングで、スクリーンに「PUSH」のマークが現れ、テレビの前の視聴者(参加者)はそこで「dot switch」のボタンを連打する。視聴者プッシュが一定数に達したところで、ドミノが倒れたり、花火が吹き出したりなど、仕掛けが作動するというわけだ。制限時間内にプッシュが目標数に達しないと、何も起こらない。つまり、その仕掛けは「失敗」だったということになる。

つまり、これは視聴者参加型の新しい“歌番組”の実験でもある

僕が現場入りしたときには、リハーサルが行われていた。このプロジェクトにおけるリーダーの川村真司さん(PARTY)が、アーチストの動きをチェックしている。演奏しつつすべての仕掛けを周りながら、1曲歌い終わるときにKARMINの二人がメインステージにいるようにしないといけない。生放送なので、セット巡りのタイミングが肝だ。

※写真②(キャプション:KARMINのアクションを演出する川村真司さん)

 TBS、goomoほか番組サイドのスタッフ、清水幹太さん、中村洋基さんほかPARTY、バスキュール、太陽企画など企画・制作サイドのスタッフも準備とチェックに余念がない。これは“テレビ側”と“ウェブ側”の連携がうまくいかないと成立しない試みなのである。

だが、スタジオには緊張と期待が入り交じった空気が漂っていた。トラディショナルメディアとニューメディア。それぞれの専門スキルを生かした上で、その向こうにある何か。その“ハイブリッド”がいま起ころうとしている。何人かの関係者に話を聞いたが、この現場で“もの作り”をする人たちのあいだには、そういったエモーションが共有されているようだった。

※写真③(キャプション:PARTYの清水幹太さん、中村洋基さん。番組を支えるシステムや端末を本番ギリギリまで検証する)

 

※写真④(キャプション:リハのプレイバック映像が流れるモニターを囲むスタッフ)

 ウェブサイトのほうではすでに何度か公開リハが行われ、その後もスタジオの様子は固定のウェブカムで生中継され続けていた。

リハを見学させてもらい、速攻で港湾倉庫街をあとにする。番組をオンエアで観るためだ。約半年間、地デジ難民ライフを続けて来たが、あやぶろで以前「テレビで新しいことが起こったら買います」と宣言した通り、いい機会と思い今回テレビを購入した。

番組を観た(参加した)感想をひと言で言うと“気持ちよかった”。これは従来のテレビ視聴がもたらすものとはちょっと違う体験である。「笑える・泣ける・考えさせる」ともまた違う何か。

僕はアプリではなくPCサイトから参加したのだが、モニターに「PUSH!」の表示が出ると、ひたすらクリックしまくる。ほかの参加者たちも連打しているのだろう。瞬く間にカウンターの数値がグッと上がる。1回の「PUSHI!」(仕掛け)につき制限時間はものの10秒程度。目標値をクリアするとセットが作動する。ダメだったときは「FAIL」の表示。ちょっとゲームの感覚に近い。本番では全部で13個のうち、11個の仕掛けがクリアされたようだ。

前川さんが言う「テレビは玩具箱的時空」(http://ayablog.com/old/?p=18557)は名フレーズだと思うのだが、その意味でこれは“おもちゃ度”の高い番組だったとも思う。「観てもらう」から「遊んでもらう」へのシフトはひとつの鍵だろう。

※写真⑤(キャプション:放送中の画面写真)

番組とウェブの連動というと「ケータイ大喜利」的なテキストベースの投稿やユーザーコメント表示みたいなイメージが強かったが、そのイメージともまた違う。音楽番組にはこういったシンプルな“ノリ最大化”の仕組みがマッチしそうにも思った。

それにしても、テレビの生放送のモニターにウェブからのアクションが“そのまま”リアルタイム反映されるのは、なかなか画期的なことではないだろうか?(それもかなりのスピードで)。この体験は自分は初めてだ。「実はできたんですね、こういうこと」と思った。画面下には参加者のニックネームがどんどん表示される。

映像は最終的にはPVとして仕上げ、メイキングとともにサイトで公開されるという(3月13日予定)。コンテンツを生放送1回で消費するのではなく、「参加型の仕組み→生放送(FLOW性の高いコンテンツ)→映像作品(STOCK性の高いコンテンツ)」に至るプロセスにも注目したい。これによって“ライブ”は“記録”となる。

「MAKE TV」は実験的な試みのひとつだとは思う。これが「あやとりブログ」上でいままで議論してきたソーシャル・テレビのスタンダードなのかはわからない。

だが、こういったトライアルが続々と出てくるようになれば、テレビは確実に進化するだろう。番組名の「MAKE」は視聴者参加の“メイク”であると同時に、テレビ側の“メイク”の意志もあるのではないだろうか? と関係者の話を聞いていて思った。

テレビ的「WATCH」やウェブ的「INTERACTIVE」の醍醐味を求めてこの番組を観た人の中には物足りなさを感じた人もいるだろう。しかし、僕があやぶろで書き続けている“「HUB」へのチャレンジ”として考えた場合、「MAKE TV」はかなり刺激的なプロジェクトだった。この仕掛けはもっと色んなところで応用できそうにも思った。

ブランド・コミュニケーションの面から考えても興味深い。「make.believe」は「ソニーが創造する新しい体験を想起させるメッセージ」とのことだが、それをマス訴求するだけでなく、「dot switch」のような仕組みを開発するところから始めてテレビにフィードバックしている。つまりこのプロジェクトは、“体験型ブランディング”のトライアルにもなっている。「企業×クリエイター×テレビ局」の新しいフェーズを予感させた。

僕が前回のポストで述べた“連立方程式”(http://ayablog.com/old/?p=18536)を解く可能性を秘めた実験だったということだ。

 

★プロフィール
河尻亨一(元「広告批評」編集長/銀河ライター主宰/東北芸工大客員教授/HAKUHODO DESIGN)

1974 年生まれ、大阪市出身。早稲田大学政治経済学部卒業。雑誌「広告批評」在籍中には、広告を中心にファッションや映画、写真、漫画、ウェブ、デザイン、エコ など多様なカルチャー領域とメディア、社会事象を横断する様々な特集企画を手がけ、約700人に及ぶ世界のクリエイター、タレントにインタビューする。現 在は雑誌・書籍・ウェブサイトの編集執筆から、企業の戦略立案およびコンテンツの企画・制作まで、「編集」「ジャーナリズム」「広告」の垣根を超えた活動 を行う。

 

 

 

 

 

 

 

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