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20113/19

「3・11」、ソーシャルの側から ① ― 河尻亨一

前川さんより、「今回の震災に際して、“あやブロ”メンバーが様々ないかなるメディア体験をしたかを知りたい」という内容のメールをいただいた。「①まず記録しておくことが大事です」「②こういう事態であればこそ、メディア(マス×ソーシャル)について学習するべきです」の趣旨に賛成だ。いま、この状況において、僕にできることは「考える」と「書く」だけだと思うので、この1週間(11日から17日)までに見聞きしたこと、感じたことを、忘れないうちにできるだけ正確に正直に記しておこう。前川さんとは逆に、ソーシャル上の出来事をメインに。

地震発生時から初日の夜

僕は新宿区新目白通り(自宅近所)にいた。揺れでまっすぐ歩くことができなくなり、木とビル群がゆっくりしなる様が目に入った。そういった異様な光景を見るのは初めてだ。揺れが収まると、すかさずiPhoneからその模様をTwitterに投稿する(14:53)。

その後数百メートル歩いて、震源地等詳細が気になりiPhoneで地震速報をチェック。多くの人がアクセスしているためか開かない。さっきのツイートにフォロワーからリプライが来ていたので返事する。地震の規模等把握したくなり帰宅。久しぶりにテレビのスイッチをつける(日頃は週一回くらいしか見ない)。

モニターには、すでにお台場近辺の火事の模様が映し出されていた。宮城県で震度7を記録したという。都心の高層ビルの下に集う人々。こういった光景には、2008年に北京で出くわしたことがある(高層ビルの30Fあたりでインタビュー取材中、四川省大地震に遭遇)。「あのときはビルが折れるかと思ったなあ……」などと回想していると、津波の恐れがあることなど、次々と情報が飛び込んでくる。画面に釘付けになる。次に映像は仙台・名取川河口付近に飛んだヘリからのレポートに切り替わった。遡上した津波が畑や家々を飲みこんでいく。“これ”が“いま”起きていることへの衝撃を禁じ得なかった。

そこで改めて事態のとんでもなさを実感。TLをチェックするとすべて地震がらみのコメントだった。だれもが同様を隠せない。「Twitterで間違った情報を拡散しないように、テレビやラジオで正確な情報を確認してください」と書いている人がいたので、それへのコメント付きRTとして、「仙台の映像を見て思う。しばし軽口も慎むようにします。必要な情報優先で」(16:04)と書き込む。「しよう」ではなく「します」とした。

夜。都内で帰宅困難者が多くなりそうとの報に接し、TL上に流れてくる非難所情報をどんどん公式RTする。同時にテレビから流れてくる鉄道の運行回復情報を書きこんでいく。非常時にもTwitterは、マスメディアがカバーしきれない情報を提供するプラットフォームとして大変役に立つと思う反面、このあたりから不安を訴えるコメントも増え、TLがパニック状態を呈してきたのも事実。デマと思しきものも増えている気もしたので、「情報を良心によって抑制すべし。有益と思われるものは、勇気を持って発信、拡散すべし」(21:47)と書き込む。

僕が拡散に努めたのは都内ライフライン関連の情報のみ。東北被災地や被災地に親戚・縁者がいる方からのヘルプを求める悲痛なツイート(「どこどこに何人取り残されている」など)も増えだし、それらがとても気になったが、そういうものもおそらく夥しい数が出回っているであろうし、これらをその段階において拡散しても(報道を見るに、そういった立場の人々が何十万人もいるであろうことを考えても)、効果は乏しいであろうと感じた。

そこで自分のフォロワーのメイン層であると想定される広告・メディア関連業者の役に立ちそうな情報のみ抽出、限定発信した。「女性の一人歩きはしないほうがよい」といった注意喚起系のメンションに関しては、自らの責任・意志も反映させるためコメントなしの非公式RTとした。

深夜近く。某ビデオレンタル業者のある店舗のアカウントより「こんな日には自宅で映画を」といった内容のコメントがRTで流れてくる。TL上にはそのツイートに対してすでに怒りの声が溢れており、僕も「もう借りねえ。つぶれろ!」と書こうとしたが、思いとどまる。冷静に冷静に。某紙記者からの情報提供を求めるコメントにも、その頼み方がややチャラい印象を与えたためか、非難めいた声が寄せられていた。取材をしてモノを書く自分の立場的にはビミョーな心境だったが、自分でウオッチして情報を集めればいいのに、とも思う。

12日(土)と13日(日)

12日(土)。Twitter使用(発信)を控えることにした(日頃からそんなに多くは書いてないが)。前日に比べて都内はひとまず落ち着きを取り戻したように見え、自分のアカウントからは現地に対して有効な情報提供はできない気がしたため。ひたすらテレビを見る。意外とそういう人が多かったのではないか。こんなに見たのは「1995(阪神大震災・オウム真理教騒動)」「9・11」以来だろう。昨日の菅総理大臣のコメントがよほど気になっていたのか、この日はNHK PRによる原発関連の情報だけ公式RTしている。

13日(日)。テレビを見ているうちに、どんどん自分が無力であるように思えてきた。ツイッターを見てみたが、同じような思いを抱えている人は多いようで、TLがザワザワしている印象。せっかくの情報が一本化できてない&ワークしていない感じがして、だれのせいでもないが残念な気持ちになる。僕自身はそんな有様であったが、この段階で現れたまとめサイトには有効なものがあったのではと思う。

そうこうするうちに現地に行きたくなってきた。フィールドは違うが、取材者の性か。しかし、行く手だてはないし、現段階では行っても邪魔になるだけだ。夕方、辻元清美議員がボランティア大臣に就任したという報道に接し、辻元議員のアカウントを調べて@で以下のコメント。

「初めまして。河尻亨一と申します。『広告批評』という雑誌をやっておりました者です。地震ボランティア、なんらかお役に立ちたいのですが、お力になれそうなことありますでしょうか。どうすればよいのかわからないので、ご連絡してみました。いつでも動けます」(17:22)

——-<後半へ続く>——————–

河尻亨一(かわじり・こういち)
編集者・キュレーター。1974年生まれ。元「広告批評」編集長。現在は様々な媒体での企画・執筆・編集に携わる一方で、小山薫堂氏が学長を務める「東京企画構想学舎」などの教育プロジェクト、コミュニケーションプロジェクトにも取り組む。2010年、エディターズブティック「銀河ライター(Ginga Lighter LLC)」を立ち上げた。東北芸工大客員教授。


この原稿は一回に入力できる文字数の限度を超えたので、前半と後半に分けてアップロードします・・・管理人

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