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20122/23

「“メディアとはライブだ!”―テレビ・ダイエットの経済的価値ついて、境さんのあやを取る―」 前川英樹

境さん、あや取りが遅くなってすいません。折角初投稿していただいたのに、反応が鈍くて申し訳ない。理由は二つ。一つは、境さんの投稿の前に迂闊にも拙速な総括してしまったこと。これで、皆さんの盛り上がった議論に水を差してしまったようで、まことに申し訳なかった。もう一つは、このシーズン最優先事項があって、何をおいてもスキーに出かけること、こっちの方が主な理由かな。

さて、改めて境さんポストを読んで思ったことは、「なんだ、ほとんど同じことを考えているんだ」ということでした。でも、この「ほとんど」というところがビミョーです。
どうビミョーかということを書きましょう。
境さんの論旨を前川風にまとめるとこうなります(悪しき総括癖をご容赦ください)。


日本のテレビ業界の構図は、1.3憶人の人口に7つのネットワークが存在するという「肥大化」状況で、これは世界的に見ても特殊である。問題は、クリエイティブ業界全体が依存してきたこの地上波の肥大化という危機(=比喩として「肥満」)を、いかにスリム化するかである。

その鍵はソーシャルと一体化することであろう。一体化するのはネットではない、ここが肝心だ。何故ならば、ネットは媒体であるけれど、ソーシャルはただの媒体ではなく、メディアであるからだ。メディアとは“ライブ性”を本質とするものであって、テレビもソーシャルもこの点で共振するのだ。

かくして、境さんの答えは、「テレビ局にとってWEBサイトは長らく、”放送の添え物”だったと思います。でも今後は、セットで捉えないといけないのだと思います。」「 “放送至上主義“を一度忘れることで、”放送の新しい生き方”が見いだせる。矛盾した言い方ですが、そういうことではないでしょうか」ということになる。

 

ここ至るまでのあやブロの議論は、一方では、「テレビは一度死んだと思った方が良い。そこからテレビとはなんだと考えることがクリエイティビティーの根源だろう」(新妻さん)といわれ、他方では「テレビが崩壊するとすれば、それはテレビの一時代の構造であってテレビそのものではない」(重延さん)ともいわれて、そこからいろんな議論があやブロでも交わされてきたが、境さんの認識もその幅の中に入るものだと言えるだろう。

では、境論の要点はどこかといえば、「メディアのライブ性」という視点から「ソーシャルテレビによってネットと融合したテレビ放送のあり方を、経済価値のあるものにしなければならない」という展望を語るところにある。当たり前といえば当たり前で、テレビもまた情報流通市場あるいはクリエイティビティーという商品市場にさらされているからだ。とすると、「メディアのライブ性」はどのようにして経済的価値を生み出すのであろうか?ということになる。だが、その解を境さんに求めてはいけない。それはテレビ局の行為(経営)の問題であるからだ。ビミョーというのはこのことである。

何故かというと、「メディアのライブ性」というメディア論的切り口から「経済的価値」という問題を想定しようとすると、テレビ局の新規メディアビジネスがしばしば陥って来た「札の総張り」か「三年単黒・五年累損解消」という図式から逃れられなくなり、結局のところ“添え物”的展開から脱出できないままになる可能性があるからだ。いや、流石に学習効果というものはあるのであって、テレビ局も確かに賢くなった、というのなら大変結構な話である。このへんは、稲井さんか氏家さんのコメントが聞きたい。

メディア論とビジネス論の交点を、ぼくたちは未だに上手く取り結べていないのである。
その理由は、またまた独断的に言ってしまえば、メディア論が経営哲学としてちゃんとしていないからだ、と僕は思う。
「メディアのライブ性」、河尻風に言うならば「ネットワークのライブ性」だろうか、それを基軸にしたテレビとソーシャルの共振という魅力的な提言を、どう形にするのか。そして、これは旗印の経済性にもつながる話だろう。少し話は飛ぶようだが、3.11から1年経とうとする中で、テレビとソーシャルの同時進行を経験したぼくたちにとって、そのことを考えなおすためにも境論をもう一度読み砕き、それぞれのメディア論の再構築の機会にするべきであろう。

 

前川英樹(マエカワ ヒデキ)プロフィール

1964年TBS入社 。TBS人生の前半はドラマなど番組制作。42歳の ある日突然メ ディア企画開発部門に異動。ハイビジョン・BS・地デジとい うポストアナログ地上波の「王道」(当時はいばらの道?)を歩く。誰もやってないことが色々出来て面白かった。その後、TBSメディア総研社長。2010 年6月”仕事”終了。でも、ソーシャル・ネットワーク時代のテレビ論への関心は持続している・・・つもり。で、「あやブロ」をとりあえずその<場>にして いる。
「あやブロ」での通称?は“せんぱい”。プロフィール写真は40歳頃(30年程前だ)、ドラマのロケ現場。一番の趣味はスキー。ホームゲレンデは戸隠。

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