あやぶろ/OLD

テレビの中の人による唯一のテレビ論、メディア論ブログ

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20122/14

「テレビのイノベーションの鍵は、ソーシャルテレビにある。」… 境 治

はじめまして。氏家さんからお誘いいただき、このたび、あやとりデビューを果たすことになりました、境と申します。
どう“あやとり”して書けばいいかなと思っていたところ、2月7日付の稲井さんのポストの中に、“テレビはワン・オブ・ゼムになると警告する人もいる”というくだりがあり、ぼくは『テレビは生き残れるのか』という本の中でまさしくそんなことを書いたので、ここで呼ばれて飛び出ようと思った次第です。
稲井さんが書いておられた、世界的に見てもテレビはスーパーメディアだしそのリーチ力が見直されている、というお話はまったくその通りなのですが、あえてあやをとって突っ込んで見ます。

世界の中で日本のテレビを比べて論じるには注意が必要ではないかと思います。と言うのは、日本のテレビの有り様は世界でもかなり珍しいと言えるからです。ネットワークがNHKも入れると7つもある。テレビ視聴の大半をその7つが占めている。そんな国は他にはないようです。
簡単に言うとヨーロッパは国営中心でやって来てあとで民放もできたけど、数が少ない。日本のテレビネットワークの数の多さ、華やかさとは比べ物にならないでしょう。アメリカは日本と近い。けれども、あとから参加のFOXを加えてもネットワークは4つです。人口3億に4つ。日本は1億3千万に7つ。
そしてご存知の通りヨーロッパでもアメリカでもCATVや衛星放送が発達して何十局も視聴する。それが生活の中でわりと普通。だからネットワーク局の比重も日本ほど高くはない。「LOST」のような大ヒット番組でも視聴率が10%を超えることは少ないそうです。
中国は聞くところでは50局ぐらいが視聴できるとか。いきなり多チャンネルなんですね。そして分散して視聴している。全国ネットワークとしてCCTVがあり、人気番組もあるけれども視聴率は数%だそうです。各地のローカル局も頑張っていて、それぞれの地域でCCTVより見られているらしい。

つまり、日本だけ、7つのネットワークで肥大した形でやってきた。繁栄してきた。賑やかに運営してきた。ドラマの視聴率が30%とか40%にもなって国中の話題になるなんて、他の国ではそうそう起こらないわけです。
ぼくは日本のテレビを考える上で、こうした地上波局が”肥大”した特異性がポイントだと思います。

テレビが生きるの死ぬの、崩壊だのそうでもないの、言われる時にその対象はテレビそのものや全体ではなく、日本の地上波テレビの”肥大さ“だと思います。肥大さが修正されようとしていて、それがある意味”テレビの危機”を招いてしまっている。そういうことではないでしょうか。
その肥大した状態はバブルがはじけても続いたんです。90年代は肥大さにむしろ拍車がかかった。新聞がじわじわ縮んでいったのに対しテレビはますますパワーをつけた。それがいま逆にしわ寄せ的なことになっている。肥大したことの反動が大きく作用している。危機だ、死ぬんだ、生き残れるのか、と大げさに言いたくなるのは、その反動がいまあまりに大きく出ているからなのだと思います。
しかもその影響が大きい。テレビ局だけの話じゃない。映画界、広告業界、アニメ業界、などなど大げさに言えばクリエイティブ業界すべてに、テレビの危機だ死ぬんだが影響を強く及ぼそうとしている。なぜならば肥大していたから。ギョーカイ中がテレビにすがって生きてきた。例えば映画についてでも、テレビ局がこんなに企画し出資し宣伝する状況は他の国にはないでしょう。

面白いので”肥大“を”肥満”と言い換えてみましょう。すると、いま起ころうとしているのは、肥え太っちゃったテレビがダイエットして筋肉質になろうとしているのだと言えます。そんなの、イメージの遊びですけど、でもなんだか、とてもカッコよくなろうとしてるみたいで、よくないですか?
崩壊とか、死ぬとかじゃなくて、ダイエットするんです。イケメンにもう一度なるんですよ。
テレビが生き返る際のエネルギーが、ネットです。もっと言えばソーシャルです。象徴的な言い方をすると、テレビはソーシャルメディアと一体化することでダイエットできるのだと思います。
ネットと言うよりソーシャル。そこが大事です。ネットが登場しただけではテレビは融合しにくかった。むしろ対立するものだったかもしれません。でもソーシャルがそこを変えようとしています。対立する感じだったのが、なんだか仲良くやれそうなムードになってきました。

なぜならば、テレビもソーシャルもライブメディアだからです。
ぼくは、メディアの本質は”ライブ”にあると思います。伝説のテレビ論『お前はただの現在にすぎない』のタイトル通りです。
例えば映画館って”メディア”って言うでしょうか?言いませんよね。メディア(=媒介)という意味からすると、映画というコンテンツのメディアだと言えそうなものなのに、そうは言わない。
メディアという言葉にはたんなる”媒体”以上の意味があって、それは”ライブ性”ではないでしょうか。ひとつにはジャーナリズムですが、それだけでもなく、いまもっとも生き生きしているとか、旬なものを見せてくれる、それがメディアだと、メディアのライブ性だと思うのです。
ソーシャルメディアもライブ性がぷんぷんしてますよね。Twitterはもうライブそのもの。「渋谷駅なう」ですからね。「いま何してるの?」に対してつぶやく。
Facebookはそれに比べるといささかライブ感が後退はします。Twitterに比べるとストック型だと言われますが、それでもウォールから一週間前のお友だちのコメントを探す、なんてことはあんまりしない。さかのぼるのもせいぜい一日程度じゃないでしょうか。今日、お友達のみんなは何を言ってたの?そんな感じです。
そんなソーシャルメディアだから、これもライブ感ばりばりのテレビとはがぜん相性がいいわけです。互いのライブ性を加速しあう。地震が起こるとまずTwitter見ますよね。「揺れてる!」「大きいぞ!」とタイムラインに並ぶ。そのうち誰かが「○○地方で震度△だそうだ」とつぶやく。これはテレビの地震速報を見てつぶやいているわけです。テレビとTwitterの間で共振が起こる。

テレビはいろんなサービスの”ワン・オブ・ゼム“になる。ぼくはそんなことを書きました。でもおそらく、実際には”ハーフ・オブ・ゼム”ぐらいでしょう。スマートテレビ時代になって、VODを楽しんだり、だらだらゲームしたりしつつも、半分ぐらいの時間は”テレビ放送”に費やす気がします。そして”いまこの瞬間、何が面白いの?”とお友達に聞いたりしながら番組を見るんです。見ながらお友達と感動を共有したりするんです。
こうした観点から言うと、ソーシャルに取り組んだ番組が、テレビを豊かにしていくのでしょう。あるいは、ディレクターやプロデューサーにとってソーシャルをどう使うかが企画を立てる際の重要な要素になり、番組の人気も左右するのかも。番組を、放送中の30分視聴するだけでなく、二重三重に、二度三度と、味わって堪能してもらうためにソーシャルを活用したアイデアを張り巡らすことになると思います。

こうした取り組みはやはりアメリカが進んでいるようで、先日のスーパーボウルでは番組にしてもCMにしても、放送だけでなくネットを併用して立体的に楽しむ仕組みが満載だったようです。これについては検索すると、その様子をレポートしてくれる日本語記事がいっぱい出てきます。アメリカでテレビが勢いを取り戻したのはソーシャル活用のおかげだという説もありますしね。
テレビとソーシャルメディアの連動は”ソーシャルテレビ”と呼ばれています。これを積極的に活用するにはいくつもの要素と課題があります。
いちばん大きいのは、コストの問題です。ソーシャルテレビを放送に生かすにはWEBでの新しい仕組みやスマートフォンやタブレット用のアプリなどが欠かせない要素になってきます。その開発や運用にはコストがかかることになる。その費用をどう賄うのかは、大きなハードルです。
ということはつまり、ソーシャルテレビによってネットと融合したテレビ放送のあり方を、経済価値のあるものにしなければならないということです。テレビ局にとってWEBサイトは長らく、”放送の添え物”だったと思います。でも今後は、セットで捉えないといけないのだと思います。

“放送至上主義“を一度忘れることで、”放送の新しい生き方”が見いだせる。矛盾した言い方ですが、そういうことではないでしょうか。
ソーシャルテレビ活用への課題についてはまた書きたいなと思います。というか、まだまだ整理がついていないもので。(^_^ゞ

境 治 プロフィール

フリーランスのコピーライターとして長年活動したのち、なぜか映像製作会社ロボット経営企画室長となり、いまは広告代理店ビデオプロモーション企画推進部長。2011年7月に『テレビは生き残れるのか』を出版。
ブログ「クリエイティブビジネス論」:www.sakaiosamu.com
ツイッターアカウント:@sakaiosamu
メールアドレス:sakaiosamu62@gmail.com

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