あやぶろ

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20149/7

GALAC10月号が面白い!

久しぶりの投稿です。
GALACというテレビ・ラジオの専門誌があります。放送批評懇談会の機関誌で毎月発行されています。
放送批評懇談会は、日本の放送文化に貢献した優秀な番組・個人・団体に贈られるギャラクシー賞で知られています。

このGALACの10月号がとても面白いのです。GALACでは毎号で特集企画を組んでいるのですが、10月号では『いつでも!どこでも!急増する「シフト型」テレビ視聴』というのが特集企画のタイトルです。
扉には

高機能録画機による「タイムシフト視聴」は、視聴者に利便性をもたらす反面、テレビ局のビジネスを脅かす存在となった。
一方、「見逃し視聴サービス」でタイムシフト視聴を提供する局側。
今号では、録画視聴の実態と視聴者の意識、そして見逃しサービスを提供するテレビ局の狙いを探る。そして、逆説的だが、
「シフト視聴がリアルタイム視聴を活性化」する可能性を示し、
全キー局によるシフト視聴サービスを提案する!

と、大変興味深いことが書かれています。

実は、私は6月からこのGALACの編集委員になっておりまして、初めての編集会議で企画の提案をしたのがこの「タイムシフト・プレイスシフト視聴」です。だから「あやぶろ」で紹介する訳ではありません。この特集は本当によくできました。
8本の記事で構成されているのですが、その内容と執筆者は…

『便利すぎる!最先端のTV生活』隈元信一氏(朝日新聞編集委員)
『タイムシフトの始まりと、テレビ“アウラ”の消失』渡邊久哲氏(上智大学文学部新聞学科教授)
『タイムシフト視聴調査から見えるもの』中島耕太郎氏(朝日新聞東京本社文化くらし報道部 放送担当キャップ)
『レグザの視聴ログが示した録画視聴の実態』片岡秀夫氏(東芝ライフスタイルVSクラウド&サービス推進室 室長)
『若年層にも放送局が身近な存在になる』大元隆志氏(ITビジネスアナリスト)
『テレビ業界と共存目指すガラポンTV』水島宏明氏(ジャーナリスト・法政大学教授)
『マルチデバイス視聴で変った英国人の意識』小林恭子氏(在英ジャーナリスト&メディア・アナリスト)
『大規模見逃しサービスがテレビ回帰を促進する』遠坂夏樹氏(メディア研究家)

どの記事も、今のテレビ、そしてテレビの将来に関して、非常に示唆に富む記事ばかりです。メディア関係者は必読といっていいでしょう。今回のポストはこの中から特に私が気になった記事を紹介します。

*****

特に東芝・片岡さんの記事は、録画機レグザ・ユーザーの視聴ログから得られた貴重なデータがたくさん紹介されている。おそらく今回初めて紹介されたデータもあるはずだ。
私が面白いと思ったのは、「タイムシフトマシン利用者もライブ視聴は短くならない」ことを示したデータだ。タイムシフトマシンとは、全番組録画機(全録機)のことで、従来は、視聴者がレグザのような高機能型の全録機を使うようになると、ライブ視聴、つまり放送のリアルタイム視聴はしなくなってしまう、というのが定説だった。だから放送局は高機能型全録機が普及してしまう前に対策を打たないと、地上波テレビのビジネスモデルの根幹をなしている時間軸編成が、全く無意味なものになってしまう、つまりテレビのビジネスモデルが崩壊すると思われていたし、私自身もそう思っていた。それをデータが覆しているのだ。レグザクラウドサービス「TimeOn」のユーザーの2ヶ月間の利用状況を記録したデータによると、全録機を利用している人の方が、録画を使っていない人より、常にリアルタイム師長時間が長いのだ。グラフを大ざっぱに読むと、全録機ユーザーはだいたい毎日4時間から4時間半を少し超えるくらいの時間を、リアルタイム視聴している。しかし、録画を利用していないユーザーは、3.7時間から4.3時間程度しかリアルタイム視聴をしていない。全録機ユーザーの方が約1割程度、放送を視聴する時間が長いのだ。

正直これは、かなり驚いた。片岡さんには申し訳ないが、ずっと高機能型全録機はテレビの敵だと考えていたのだが、この考えは改めなければならない。

また片岡さんの記事では、放送開始からの視聴・再生秒数ユーザー数比較という、大変面白いグラフも紹介されている。これはひとつの番組の放送または再生で、番組はじめから、番組終わりまでのどれくらいの時間(分数)を見る人が多いかを示したグラフだ。
これによるとドラマでは短い視聴分数は少なく、ほとんどが最初から最後まで見ているのに対し、歌番組では一度にみるのは5分以下の人がが圧倒的に多く、自分の好きな特定アーティストのみを見たら終わりにするという視聴傾向が顕著だ。

こうしたデータは、これまでの視聴率ではけっしてわからない視聴者・ユーザーの視聴形態を明らかにする、大変貴重なものだ。番組作りの上でも、また広告主のマーケティングの上でも、非常に参考になる。テレビ局にしても広告を提供する企業にしても、この東芝のデータを活用させてもらってはどうか。テレビ番組もテレビCMも巨額のコストがかかっている。このコストを今までよりは有意義に使えるようになるのではないだろうか。

 

全部の記事を紹介する訳にはいかないので、あと一つだけ紹介する。
特集の最後に載っている遠坂夏樹さんの記事だ。
遠坂さんの記事は、むしろ提言といっていいだろう。

テレビをサービス面から見ると、様々なインターネットサービスに比べ、もう時代遅れで不便なサービスとなってしまっており、こうしたテレビの限界を打ち破るにはテレビがインターネットに乗り出して、全テレビ局が足並みをそろえ、同一プラットフォーム上でインターネットサービスと同等の使いやすさで、全番組の見逃し視聴サービスを提供すべきだ、というのだ。
この見逃し視聴サービスは、ユーザーにとって便利なだけでなく、広告媒体としても非常に有望で、今のテレビにはできないターゲティング広告が可能になるなど、テレビCMを超える価値が生まれるだろうというものだ。
またユーザーのログデータを収集でき、この利用価値は計り知れないものがあり、テレビは全局全番組の見逃し視聴サービスに乗り出すことで、インターネット・メディアとして巨大な可能性を手に入れることになる、今こそテレビ・イノベーションが必要だという、非常に大胆で積極的な提言となっている。

これは私が今までこの「あやぶろ」で何回か発信してきたものと共通しており、まさに我が意を得たりという思いだ。

*****

このGALAC10月号、改めて言うがメディア人にとって必読の書です。
入手方法なんですが、紀伊國屋新宿本店、丸善丸の内本店、八重洲ブックセンター本店、近鉄ビル星野書店、紀伊國屋梅田本店が取り扱っていたと思いますが、在庫があるかどうかは問い合わせしていただいたほうがいいようです。
また、また、放送批評懇談会のホームページからも購入できるそうです。
http://houkon.shop-pro.jp/

 

氏家夏彦プロフィール
「あやぶろ」の編集長です。
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その未来をしっかり見極め、テレビが生き残る道を探っています。
1979年テレビ局入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部、夕方ニュース副編集長)、バラエティ番組、情報番組のディレクター、プロデューサー、管理部門、経営企画局長、コンテンツ事業局長(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)、テレビ局系メディア総合研究所代表を経て2014年6月現職
テレビ局系企業2社の代表取締役社長
放送批評懇談会機関誌「GALAC」編集委員

 

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