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20145/26

ドワンゴ会長の示すメディアの未来

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5月14日、ドワンゴとKADOKAWAの経営統合が発表された。
そして統合した会社の代表取締役会長になるドワンゴの川上会長が先週、週刊文春に「メディアの未来予想図」というタイトルで寄稿した。この記事を読んでインスパイアされた。
ネット企業と、いわゆるオールドメディアであるコンテンツ企業を対比させながら、今後のメディアの姿を描いているのだが、非常に説得力があるのだ。

 

まず、ここの部分が目を引いた。
「世の中のネット企業を見ると、自分たちはなにもせずに儲かる仕組みをいかにつくるか、そういうことがかりを考えているところが多いように思います。それはビジネスとしては正しい考え方だとしても、そんなうまい話が成立する時期はすぎつつあるのではないでしょうか。」
自らが属するネット業界に対して非常に厳しい表現だ。しかしこうした考え方を川上会長が示したのは今回が初めてではない。

 

川上会長は何年も前に、
「自分がテレビ局の立場だったら、ネットに番組を流すなんてことはしない」と言っていた。
高い制作費をかけたコンテンツを、ただのような値段でネットに流通させるメリットはないという意味だ。当時はまだ、テレビ局は番組をもっとネットに出すべきだというネット系、IT系の声が圧倒的だった。

 

ネット企業はテレビ番組というコンテンツが、ネットでも人気があることをよくわかっている。だから自分たちのサイトでも配信したい。
しかしテレビ局からすると、ネットで配信するには、コストと労力がかかる権利処理をしなければならないので、タダみたいな値段では出せないという。するとネット側は、アメリカではできてるんだから日本でやらないのはテレビ局の怠慢だと非難する。数年前まで、本当に嫌になるほど聞かされた議論だ。

 

そんな中で、動画をビジネスとするネット企業のトップとしては、川上会長の発言は異例だった。しかも私はこれを、カンファレンスや研究会だけでなくプライベートでも何度も耳にしている。

 

今回の文春の記事の中で川上会長は、議論をさらに進め、インターネット企業は、コンテンツ調達の考え方を変えなければならないとしている。
「遅かれ早かれインターネットメディアに寄生されたコンテンツ業界がコンテンツの制作コストをもはや負担できなくなるから」「いずれはネット企業がコンテンツの制作コストをださなければならなくなるでしょう。グーグルやアップル、アマゾンのような巨大プレイヤーであればコンテンツ業界が痛んでいくのを、じっくり柿が熟すのを待つようにゆったりと構えていればいいと思いますが、僕らのような小さなネット企業はそうはいきません。先手を取り、まだ、余力のある有力コンテンツ企業と手を組んで新しいエコシステム(生態系)をインターネットに作っていく、僕にすれば当然の戦略です。」

 

この記事の中では、出版社だけでなくテレビ局や新聞社などにとっても非常に参考になることが多く書かれている。
コンテンツ企業は、プラットフォーム(コンテンツを流通させる仕組み)を持っていて、そこが重要だというのです。
「放送免許制度に支えられているテレビ局のチャンネルの寡占や新聞の宅配システムなどは、実質的なプラットフォームを形成している」のだが
「インターネットの世界においては、そのようなコンテンツ企業のプラットフォームとしての機能が、ネット企業に根こそぎ奪われつつある」、そして、コンテンツ企業がこれに対抗するには、ネット企業にならなければならず、そうでないとプラットフォームとしての機能をどんどん失っていくと、川上さんは断言している。

 

『コンテンツ企業はネット企業にならなければならない』、ここは非常に重要なところだ。
最強のメディアといわれるテレビであっても、視聴率の低下傾向はずっと続いており、存在感が希薄になっている。
私は、テレビの未来を明るくするには、インターネットに進出し大胆なサービスを提供していくことが必要だ、つまりテレビ局は、インターネット企業に、メディア・サービス企業にならなければならないと、『あやとりブログ』や講演、セミナーなどで何度も力説してきた。

 

5~6年前の、テレビの番組をネットに流しても何のメリットもない頃からすると、今は状況が様変わりしている。番組配信はお金になるようになった。TBSの有料動画配信である「TBSオンデマンド」は既に黒字化している。ネット動画はタダが当たり前という悪夢のような時代がようやく終ろうとしている。
動画広告もついこの間までは、動画広告を載せようにも広告が足りない状態だった。しかし今年は動画広告元年と言われ、動画広告はたくさんあるが載せる動画サイト、コンテンツが足りないと言われている。
今はまさに、テレビ番組を大規模にネット配信するサービスをスタートさせる好機なのだ。テレビ局がネットに進出して、インターネット企業になるチャンスなのだ。

 

しかし川上さんは、この記事の中で厳しい指摘もしている。
「コンテンツ企業がネット企業になるためには、優秀な開発部隊を内部に作れるかどうかが決定的に重要」であり、多くのユーザーを集められるような「ネットサービスを作れるだけの技術者を質量ともに兼ね備えたネット企業というのはそんなに数多くないと思います」というのだ。
この意味は、新聞やテレビや出版等のコンテンツ企業がこれからインターネットに進出してサービスを展開しよようとするなら、システム構築を外注するやり方では、ネットサービスに求められる使い勝手(ユーザーインターフェース)の素早い改善などPDCAサイクルのスピードアップはできないので、開発部隊は自社内におかなければならない。しかしシステムを自前で作ろうにも優秀なエンジニアは枯渇状態で確保できないということだ。
川上さんは「現実問題としては単独でネット企業化できるコンテンツ企業は少ないのではないでしょうか」と指摘している。つまり、テレビや新聞や出版がネットサービスに乗り出すのなら、自力では無理で、有力なインターネットサービス企業と力を合わせなければならない、すなわち今回のドワンゴとKADOKAWAのようにやるしかないということだ。

 

そして川上さんは、最後に、非常に面白いことを言っている。
「プラットフォームには二種類あって、コンテンツを自分でも作るプラットフォームとコンテンツは自分では作らないプラットフォームです。」 「自分でもコンテンツを作るプラットフォームのほうが、コンテンツの価格を維持しようとして結果的にはコンテンツ企業の利益を考えるのだと思います」

 

これからインターネットでサービスを展開していかなければならないテレビ局の立場からすると、どんなところと組むかは大切な問題だ。そのとき、自分ではコンテンツを作らず、テレビや新聞から安く買い叩いて手に入れたものを並べているだけのプラットフォームと、自力でコンテンツを作る難しさ楽しさ可能性を知っているプラットフォームと、どちらを選ぶか、確かに真剣に考慮すべき問題だ。

 

角川会長は記者会見で、「私はようやく、“天才”川上君という若き経営者を手にした」と川上氏を高く評価し信頼していることを示した。川上さんを天才だと評価しているのは角川会長だけではない。私も何年も前から「川上量生は天才だ」と、友人たちに力説してきた。
天才・川上さんがこれからどうやってメディアの未来をリードしていくのか、ワクワク期待しながら見守っていきたい。

 

氏家夏彦プロフィール
「あやぶろ」の編集長です。
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その未来をしっかり見極め、テレビが生き残る道を探っています。
1979年テレビ局入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部、夕方ニュース副編集長)、バラエティ番組、情報番組のディレクター、プロデューサー、管理部門、経営企画局長、コンテンツ事業局長(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)、テレビ局系メディア総合研究所代表取締役社長を経て2014年6月現職

テレビ局系関連企業2社の社長
放送批評懇談会機関誌「GALAC」編集委員

 

 

 

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