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20163/3

テレビの未来は明るい! これからの放送はサービスでありユーザーインターフェイスが重要だ! ②

今年1月28日に、アタラ合同会社のCOO有園雄一さんにインタビューしていただいた記事が、Unyoo.jpに掲載されたものを転載しています。
http://unyoo.jp/2016/01/tv-future/
2回めです。(1回めは http://ayablog.com/?p=770 )

以下、インタビュー記事

**********************

テレビは使いにくい

 

氏家:テレビの未来を明るくするには、これまでお話ししてきた「地上波放送を元気にすること」に加え、「新しい接触点を増やすこと」も重要です。ユーザー側からすると、今までのテレビは使いにくいわけですよ。放送しているその時、テレビの前にいなければ見られない。こんな不便なサービスってないでしょう。

有園:テレビ業界にいる氏家さんがおっしゃるなら、そうですね(笑)

氏家:スタートしてから60年間ズーッと変わらないわけですから。いまのネットユーザーは、いつでもどこでも、見たいものは見るし、知りたいことは知るし、買いたいものは買う。若い子たちと話をしていて「これって何だっけ」と聞くと「何だっけ」と言う前にパパパッとスマホで調べて「こうです」と。私自身はスマホで調べる動作は面倒臭いんだけど、若い子は抵抗感がない。スマホを使い倒すことが自然なんだよね。

有園:スマホと一緒に育っていますからね。

氏家:便利なものに慣れてしまった人からしたら「テレビって使いにくい」と思うのは当然です。テレビでやっていることは面白いかもしれないけれど、面倒臭かったら見ない。僕らだってネットで動画を見ようと思っても、年齢とか居住エリアを打ち込んだり手続きが面倒だと、「う~ん、もういいや、見ない!」と(笑)

有園:はい(笑)

氏家:それと同じことを若い子たちはテレビに感じているわけです。面倒臭くないようにするには、いろいろなルートで番組を届ける必要がある。それで一番効いてくるのが見逃し配信だと思うんです。見ようと思っていたけど録り逃した、ネットで話題になっているけど録画していなかったから見られない。それらを解消してあげるだけでだいぶ違います。

ネットの話題の半分はテレビのことだと言われてます。記事や書き込みに画像が付いているかもしれないけれど、そこに見逃し動画へのリンクが付いていたら視聴につながります。面白いことがいっぱい起きると思うんです。

 

民放連の井上会長が示す未来

有園:2015年12月8-9日にテレビ業界のイベント「VRフォーラム 2015」が開催されました。僕は行けなかったのですが、参加した人々の話を要約すると、「広がるテレビの価値をすべて計測していきます」という話がなされたらしいです。

そのことをもっとも表していたセッションが「ビデオリサーチが描く”これからの視聴率”」で、ビデオリサーチのテレビ調査部長、橋本和彦氏の話が良かったらしいです。今後の視聴率計測の方針を示して「分散したテレビ視聴をすべて計測する」という内容だったと聞きました。

  1. 視聴率のサンプル数を現状の関東600世帯から900世帯に拡大
  2. タイムシフト視聴も計測する
  3. スマートデバイスによるテレビ視聴の測定準備をする
  4. 関西・名古屋をはじめ徐々に全国で同様の体制を整える

こんな感じで、2016年10月からスタートし、視聴対象やエリアを徐々に広げていく、と。

このフォーラムの初日におこなわれた民放連の井上会長の話では、「テレビはこれまで放送だけで儲けてきたけれど、現状の世帯視聴率だけでなく、タイムシフトでも、VODでも見逃しでも、スマホで見ているものも含めて、放送以外のチャネルも計測していこうよ」というメッセージが感じ取れた、と聞きました。
つまり、あらゆる視聴の場で収益を得ていくよ。そんなビジネスモデルを提案しているようにも見えたらしいです。
井上会長ってすごいなって思いました。

氏家:あの人はすごいですよ。昔、私が管理部門にいた頃、井上会長は副社長、社長でした。鍛えられましたね。感覚が鋭くて緻密で視野が広いです。固定観念、既成の概念に縛られない人です。

3~4年前に私がメディア総研にいた頃、会社の幹部にテレビの未来に関する提言資料を配るとリアクションがあったのが井上さんでした。「この話は面白いから詳しい資料を秘書経由で送ってくれ」と言われて用意したり。「全局全番組の見逃し視聴」の重要さを提言したときも「実は同じことを考えていた。これはやらなければいけない。」と言われました。

有園:それがTVerにつながるわけですね。

氏家:井上さんは「俺はデジタル音痴だから」などとおっしゃっていたのですが、全然そんなことはありません。鋭い方です。技術的な細かいことは別にしても、「時代の中で、これがどういう意味を持つのか」ということに関しては非常に鋭く見通している人です。今の時代、井上さんが民放連の会長でよかったなと思います。

 

すべてのデバイスの視聴を測ってビジネスにしていく

有園:VODであれ、見逃し視聴であれ、視聴を測ってビジネスにしていこうというのは賛成です。ハードディスクレコーダーに録画しないようにする、録画させないようにするというのは、それもそうですよね。

ハードディスクレコーダーに録画したものに関してはCMを飛ばすという制限はかけられないけれど、配信は違う。VODもCMを入れられるとなると、スマホでもCMビジネスは成り立つわけで。そこを測ってお金に換えられる指標として出すだけでも違ってくるなって思います。

アドタイで「普通の大学生に聞いてみました。「普段、テレビ観てますか?」」というインタビュー記事が先日、掲載されていました。それによると、普通の大学生はテレビを見ていないようです。でも、インタビュー記事を読むと分かりますが、「Huluで見ているよ」とか「YouTubeで見ているよ」という話で。

氏家:YouTubeで見ているって違法でしょ(笑)

有園:はい(笑) でも、TVerによってネットでも見ることができるようになれば、「テレビって面白いじゃん」と大学生は言ってくれる可能性がある。そのことを、アドタイのインタビュー記事を読んで思いました。大学生はテレビを見ていないと思っているけど本当は今も、YouTubeでテレビコンテンツを見ていたりする。

氏家:地上波放送は見ていないだけなんだよね。リアルタイム視聴はしていないけれど、どっかで目には入っている。

 

世帯視聴率を捨てたらいい!?

有園:だったら、それを計測するようにすれば、お金に換えることができるはずだよねと。世帯視聴率のボリュームゾーンはM3とF3になっているから、世帯視聴率を上げようとすると、おじさん、おばさんが楽しいと思う番組を作らなければ視聴率は上がらないという法則になっています。それはテレビ局の人たちも分かっている。

だったら、世帯視聴率を捨てたらいいじゃないか。今後も世帯視聴率も計測するけど、他の計測の仕方も導入していくってことを井上さんは言っているのかなと。

氏家:世帯視聴率が広告費の指標になっているシステムは半世紀をかけて築き上げたものだから、すぐに無くすことは難しいし、性別、世代別の視聴率を見ることもできるので、なくす必要はないです。

今、問題になっているのは、視聴率に引っかかってこないもの。これをちゃんと捉えていきましょうよと。ネットで配信していれば細かいデータがとれるんですよね。この人は、何月何日に何時から見始めて、どこでいったん止めて、それをまた再開してどこまで見たか。やろうと思えば細かい視聴ログデータがとれるんです。それってコンテンツを作る側からすると気になる情報だし、どんなものをユーザーが好んで見るかということ自体が非常に重要です。それに属性やIDが取れていればターゲティングができるようになる。

有園:そうですね。

氏家:そうすれば、Netflix(ネットフリックス)が得意なレコメンドができたり、いろいろなことができるようになります。それとは別に、番組の内容を記録しているメタデータというのがあるから、それと視聴ログデータを組み合わせると「このタイミングでこれが出てくる」ということが分かるから「そこで視聴のパターンがどう変わるのか」ということも、やろうと思えばいろいろとデータ分析ができます。それはとても面白いです。それと消費性向を連結するとスポンサーさんにも喜ばれるデータになります。

有園:東芝さんのテレビの中には、CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)がやっているTカードのIDを入れることができるものがあります。あれはたぶん、いわゆるスマートテレビだけだと思うのですが、Tカードでの購買履歴とテレビの視聴履歴がつながるという話だと思います。そういうイメージであっていますか。

氏家:そういうイメージです。それを大声で言うと「個人情報の扱いは問題だろ」ってことにつながってしまうので、言うときはぼやかしていうようにしているのですが(笑)

有園:東芝のサイトに行くと載っていますよ(笑)

(参考ページ:レグザクラウドサービス「TimeOn」の「Tポイントをためよう!」

氏家:東芝さんのレグザTime ONのデータはすごいですよ。膨大な数のユーザーの録画視聴データが集まっているんですから。それらのデータをもとに、録画神として有名な片岡秀夫さんのチームが質の高いレコメンドサービスをやっていて、ユーザーにとってはとてもありがたい「おすすめ」が実現されてます。

 

一番のメリットはユーザー自身が得られる

氏家:大事なのは、ユーザーの視聴データを使うことによって一番メリットを受け取れるのはユーザー自身だということです。だから、そういうデータは積極的に使った方がいいと思います。

例えば、Netflixを見終わったあとに「次はこれどうですか」と出てくるのは、すごく便利です。これを見ているのが誰で、どういう視聴傾向があるかを把握し、精緻なアルゴリズムを組んでいるから的確な情報が出るわけです。

そういうことをやっていない動画サービスは使いにくいですよ。「これはどうですか」ってでてきたものが、自分の好みとは全然関係ないものが並んでいたり。ユーザーが何を見たかは関係がなく、向こうの人が「これがいいだろう」と並べたものが出てきても、それじゃあ見ないですよね。セレンディピティみたいなものはあるかもしれないけど、確率は低いですよね。

 

重要なのはユーザーインターフェイス

氏家:データを上手く利用してサービスにつなげていくことが大事だし、テレビはそっちの方向に進むべきだと思うんです。地上波では、番組宣伝など一方的にマスをターゲットにしたプッシュはできても、ユーザーごとにきめ細やかなサービスを提供することはできません。動画配信サービスだと「これはどうですか」というレコメンドがすぐにできますね。そういうのは、やっていくべきだと思います。そのとき、ユーザーインターフェイスがきわめて重要になってきます。

有園:インターフェイスですか。

氏家:はい。みんなインターネットの贅沢なサービスに慣らされているから、インターフェイスが使いづらいと見ない。次々と便利なサービスが出てきて、それが当たり前になっているから、使いにくいサービスだとすぐにダメになってしまう。その点、TVerのインターフェイスはものすごくシンプルでいいです。

有園:シンプル(笑)

氏家:シンプルだから逆にうけているというのもあるみたいですが。ニコニコ動画の初期みたいなもので、コンテンツ数が少ないから、ただランダムに並べているだけで使えます。番組数がどんどん増えて、東京キー局だけでなく日本中のローカル局の番組も次々アップされるようになってくると、インターフェイスが大事な問題になってきます。

有園:そうですね。

氏家:IDさえ取っていれば、過去こういうドラマを見ているから、この人に対してはプッシュで「明日の何時に、こういうドラマを放送しますよ」というレコメンドなんかは簡単にできるようになります。もちろんテレビ局自身もやりますが、そんなことは、みんながやってくれればいいんだよね。外部のサードパーティの人たちが。

SNSの中で書き込みがあって「こういうのを見たよ」、「あれすごく面白かったよ」、「あれ、ここで見られるよ」と書いてURLを貼り付ければ見てもらえる。そういうのって、テレビ局が自分たちでやろうとしても追いつかないし、そんな宣伝っぽいことはユーザーも好きではない。テレビ局が「面白いですよ」というものよりはSNSの中で友達が「面白い」という意見を信じるし、そこから視聴まで直結するルートができるようにしてあげるだけでガラリと変わる。

 

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次回「シェアされやすい仕組みを作る」に続く…
http://ayablog.com/?p=783

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