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20183/16

テレビ画面の争奪戦が始まった

3月2日に、毎年恒例の「情報メディア白書2018セミナー」が開かれました。そこでの最初のセッションが電通メディアイノベーションラボの統括責任者、奥 律哉氏の『スクリーン選択時代の情報行動』でした。奥氏のセッションは毎年、多彩なデータを元に鋭くテレビを中心としたメディア状況を切り取るもので多くの刺激を受けます。特に今年の内容は、テレビ受像機の中でのスクリーン選択=争奪戦がついに始まり、テレビ放送はその戦いの中で生き残る道を探さなければならない時代に突入したというものでした。ショッキングなデータも多く、これは自分自身の中で消化するためにも、あやぶろで一度、書いておこうと考えました。奥氏には資料の転載等をご快諾いただきました。ありがとうございます。

全体の資料の量は膨大なので、その中から強く私の印象に残ったものを選んで、私なりの解釈も加えながら紹介します。

 

ネットに接続されたテレビは3台に1台

まず大前提として、ネットに接続したテレビ受像機がどれくらいあるかというと、全体の29.0%、そしてネット動画サービスを利用しているのは15.9%だそうです。これは2017年9月の調査ですから、今現在ではおそらく3割を超えているでしょう。この29.0%という数字は、自宅にテレビがない人も含めたものです。自宅にテレビがあってそれを使用している人の中では、ネットに接続しているのは33%を超えています。つまり大雑把にいうと、テレビの3台に1台はネットに繋がっているのです。そしてその中の半分がネット動画をテレビで見ています。
数年前、まだ接続率15%くらいの頃は、2020年の東京オリンピックまでに5割を超えるのかもと言われていたのですが、接続率の増加速度は意外に早く、2020年には7割くらいのテレビがネットに繋がるのではないか、という見方も出てきています。

テレビ放送はネット動画に毎日30分を奪われている

では、テレビでネット動画を見ている人はどれくらい見ているのでしょうか。それを表したのが下のグラフです。

右側が、テレビをネットに接続しているものの、ゲームをやるだけで動画は見ていない人です。ゲームをやらない方のために説明しますと、今のプレイステーション4や、ニンテンドー Switchなどのゲームは、ほとんどがネット接続でやるようになっています。大ヒットしているドラクエもスプラトゥーンもそうです。ネットに繋がり、ネットで仲間や対戦相手を見つけて楽しむようになっています。私はプレイステーション4とニンテンドー Wii Uでテレビがネットに繋がっていて、NetflixやAmazonビデオを見るときは、プレイステーション4経由で見ます。ゲームのためだけにテレビをネット接続する人もいるのです。

左側がネットに繋がったテレビで、ネット動画を見る人です。それぞれ1日に何分、利用するかというグラフです。ネット動画の視聴時間合計は37.3分で、内訳は共有系動画(YouTubeやニコニコ動画のこと)が14.8分、定額制動画配信(NetflixやHulu、Amazonプライム・ビデオ)が16.8分が多く、そのほかは無料動画配信、都度課金動画配信です。

そしてテレビ放送のリアルタイム視聴を比べてみると、左側の97.9分に対し、右側のネット動画を見ない人は128.9分と、31分の差があります。つまり、テレビ放送は1日あたり30分をネット動画に奪われているということになります。

ユーザーはテレビに戻ってきている

次はNetflixやHulu、Amazonプライム・ビデオをどんなデバイスで見ているのかを表したものです。配信サービスの種類別に、テレビで見る人とテレビは使わない人に分けて、1日あたり何分見たのかを表してあります。

意外なのが、スマホ全盛の世の中ですが、有料のネット動画をスマホで見る時間は意外に短いことです。定額制の有料動画を見るのにテレビは使わない人(左から2番目の棒グラフ)は、スマホでは11.5分しか見ておらず、一番長い時間見るのはパソコンです。都度課金の利用者もスマホで見る時間はわずかです。スマホならいつでもどこでも見られるのですが、お金を払って動画を見る際には、大きな画面が好まれるようです。

このグラフでは、定額制もレンタル型都度課金も購入型都度課金も、テレビで見る人の方が視聴時間が長いのが目立ちます。お金を払ってでも見たいという動画は、パソコンのような小さな画面でなく、テレビの大画面で見たいということの表れでしょうか。

そしてこのグラフで一番のポイントは、テレビで有料動画を見る人は、パソコンやスマホよりテレビで見る時間が長いということです。一番左の棒グラフ、定額制有料動画配信(NetflixやHuluなど)をテレビで見る人は、1日にテレビ、パソコン、タブレット、スマホを合わせて53.7分見ていますが、その時間の63%をテレビで見ているのです。
やはりテレビは、動画を視聴するデバイスとしては優れていることの証明でしょう。テレビ離れといわれている現象も、テレビ放送離れであって、テレビ受像機離れではないということです。家庭のリビングに置いてある大きな画面の動画視聴ツールは、やはり快適だということになります。

テレビ画面の陣取り合戦で、地上波テレビは負けている

次の調査は、奥氏の発表の中でも私が最もショッキングに感じたものです。とてもユニークな調査で、今までこのようなものは見たことがありません。自宅内での動画スクリーン(テレビ受像機など)がどのように見られているのかを、自由な空き時間の長さと、他の用事をしながら見るながら視聴なのか、それとも他の用事がなく画面に集中しての視聴かを分けて調べたものです。下図は調査の概要です。

空き時間が15分くらい、30分くらい、1時間くらいの3つに分け、さらに「他の用事をしながら視聴」なのか「他の用事がない視聴」なのかに分けています。

最初は、地上波テレビ放送の見られ方です。

空き時間が15分くらいなら「他の用事をしながら」、例えば新聞よ読みながら、スマホをいじりながら、雑誌を読みながらテレビを見る人は41.3%。これに対し「他の用事がない」、つまりテレビだけを集中して見る人は40.8%と、どちらの場合も4割の人がテレビを見ます。逆を言えば6割の人は15分くらいの時間ならテレビを見ようとは思わないということにもなります。

空き時間が30分になると、「他の用事をしながら」で地上波テレビを見る人は5割に増えます。「他の用事がなくテレビだけの視聴」も増えますが、「ながら」ほどではありません。

空き時間が1時間になると、「他の用事をしながら」視聴は6割に増えますが、「テレビだけ視聴」はほとんど増えません。つまり1時間だと、地上波テレビを「ながら」視聴で見る人より、テレビだけを「集中して見る人」は13.9ポイントも減ってしまいます。
テレビ番組を作る側は、できるだけ多くの人に見てもらおう、番組を見た人が「見てよかった!」と思ってもらえるように、長い時間と大変な手間をかけて精魂込めて作っているのですが、その番組をちゃんと向かい合って見ようという視聴者は半分もいないという、がっかりな結果となっています。

これは男女15歳〜69歳を対象とした調査です。この中からテレビ離れが激しいと言われている20代の男性・女性だけを取り出してみましょう。

男女とも最も顕著な差が現れるのが空き時間が1時間くらいの場合です。男性は「ながら視聴」が48.9%、「他の用事がない視聴」は39.2%に減り、女性は60.0%が43.5%に減ってしまいます。つまり20代女性は「ながら」なら見てもいいけど地上波テレビだけなら見ないわ、という人が16.5%いるということになります。
テレビ局側からすると、1時間くらい空き時間ができた時に地上波テレビをちゃんと見てくれる人が減ってしまう、つまり陣取り合戦に負けているのです。

他の用事がなくテレビだけなら見ないと思った人は、どこに流れて行くのでしょう。
それが次のグラフです。20代男性が空き時間が出来た時に、録画したテレビ番組を再生視聴するという人の割合と、無料の動画配信サービスを見るという人の割合です。

録画番組の再生視聴は、空き時間30分くらいの場合、「ながら視聴」なら11.5%ですが、他の用事をやらないで集中して見る人は16.9%と、5.4ポイント増えています。地上波テレビとは逆です。
1時間くらいでは、14.1%が、24.6%と、10.2ポイントも増えています。
地上波テレビのリアルタイム視聴ではありませんが、今は、録画番組を再生視聴する割合を調べたタイムシフト視聴率も、リアルタイム視聴率と合わせて総合視聴率としてカウントするようになっているので、これはテレビ局にとってはプラス、つまり自陣へカウント可能と言えます。
しかし問題は右側のグラフ、無料の動画サービスです。
空き時間が15分の場合も、30分の場合も、1時間の場合も、「ながら視聴」から「もっぱら視聴」が大きく増えています。
テレビ局からすると、敵方(アウェー)の陣地へ大量に視聴が流出しているのです。1時間くらいの空き時間で、他の用事をしながらネットの無料動画を見る人は22.6%ですが、他の用事をしないでネットの無料動画を集中して見る人は36.3%まで増えてしまうのです。

ちなみに20代女性も同様な傾向があります。

 

地上波テレビはいくつもの危機を乗り越えてきた

このようにテレビ画面の陣取り合戦でも、地上波テレビは陣地を奪われるようになってきています。テレビ局は長いことテレビ画面の争奪戦で勝利を続けてきました。最初の戦いは、1980年前後のビデオテープレコーダー、続いて1980年代半ばのファミコンなどビデオゲーム、そして1990年前後のBS放送、CS放送と、様々な戦いがありましたが、地上波放送はテレビ画面の奪い合いの戦いで常に勝利してきました。そして今、ネット動画配信という新しい敵が現れたのです。
今度の戦いはどうなるでしょう。インターネットが広く使われるようになった2005年以来、テレビの視聴率は下がり続けています。今までの戦いではこんなことはありませんでした。明らかにかつてとは異なる様相を見せています。

テレビ画面争奪戦の行方は

今回のテレビ画面争奪戦の勝敗を占う上で、重要な二つの要素があります。

一つは「コンテンツ」、番組が大切です。当たり前なのですが、簡単ではありません。インターネットによって誰もが声を上げられるようになり、番組の内容によっては簡単に炎上してしまうようになりました。炎上させているのは少数のノイジーマイノリティーかもしれませんが、テレビ局もスポンサーも炎上に対する耐性がありません。炎上が何度も繰り返されるうちに表現方法がどんどん狭められて行きました。これからの番組作りは、テレビが半世紀もの時間をかけて磨き上げてきた演出方法の延長線上にはありません。テレビ番組の新しい方向性をもがき苦しんで見つけ出さなければなりません。
またコンテンツを出すウィンドウはテレビ放送だけではなくなりました。NetflixやAmazonなどは、独占配信権の獲得に多額の資金を用意しています。その金額はドメスティック企業である日本のテレビ局がかなうものではありません。だったら逆にそれを利用すればいいのです。アニメではすでに起きている現象ですが、Netflixのオリジナル作品の制作です。Netflixは高いクオリティを求めますが制作費は潤沢に用意してくれます。実写のドラマでもやれることはあるはずです。例えば映画では上映時にプラスαの映像を加えてディレクターズカット版をパッケージで出したりします。実はテレビ局のドラマでも同じようなことはすでに行われています。これをNetflix向けにやったらどうでしょう。プラスαの部分で放送では出せない表現を付加すれば話題を呼ぶでしょうし利益もあげられます。
コンテンツ制作能力を磨いておけば、メディアや流通ルートがどう変わろうと生き延びることはできます。

もう一つはUIの進化です。今のネットサービス隆盛の時代では、ユーザーインターフェースを向上させるのにはネットに繋がらないことにはどうにもなりません。テレビ放送はハイブリッドキャストによってネットには繋がりますが、通常のネットサービスと比べると敷居が高いのは否定できません。それより直接ネットと繋がったほうがよほど早く簡単です。そのためには放送と同時に同じものをネットで配信する、いわゆる同時配信が必要です。ネットにつながることで様々なサービスができるようになります。この辺については前のポスト「テレビの同時配信についての考えを180度変えました。やるべきです!」http://ayablog.com/?p=865 に書きました。

もちろんこれだけでは足りません。同時配信はネットの最大のメリット「いつでも・どこでも」の「どこでも」しか満たしてくれないのです。私はテレビ放送を補完する要素としては「どこでも」より「いつでも」の方が重要だと思っています。

テレビ放送はおこがましい

テレビ放送自体は時代遅れで不便なサービスです。家のテレビの前でだけしか見られず、放送されているその時にだけしか見られないからです。以前、私の友人の20代の女性が、「テレビ放送はおこがましい」と言っていました。自分はいろんなことを見たり聞いたり考えたり表現したりで忙しいのに、こちらの都合を無視して一方的に押し付けてくるテレビ放送は論外のサービスだというのです。20代のデジタルネイティブ、ネットネイティブ世代なら当然の反応です。
今やテレビ放送は、「どこでも」見たいと思うほどの価値は、彼らにはありません。せめて「いつでも」見られるのなら、見てあげてもいいという程度です。ですからテレビ放送は「いつでも」を実現しなければなりません。

全局全番組の見逃し配信サービスが必要

同時配信は「どこでも」を満たすだけです。放送と同じですから、配信されたタイミングで見なければ、もう見ることはできません。「いつでも」見られるためには、全局全番組の見逃し配信サービスが必要です。私が4〜5年前からずっと言い続けていることです。インターネットを使ってこのサービスを実現することで得られるメリットは、ユーザー側にもテレビ局側にも、ネットサービス企業側にも絶大なものがあります。
ただこれを実現するのは容易ではありません。まずは同時配信サービスを実現し、それを突破口にして全局全番組の見逃し配信サービスを実現する、これがテレビ局が10年後も生き残るために必要不可欠の方策です。
今回、奥氏のセッションを聞いて、そんな思いを一層強くしました。

 

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