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20142/27

一つのテレビ局の力は全然大したことないことを、もう理解しよう

最近のテレビ局のインターネット展開は驚く程活発です。特に今年になって明らかになった、日テレとフジテレビ、それにテレビ番組配信サイト「もっとTV」の新しいサービスは、画期的で業界でも注目され、私自身も「よくできたなぁ!」と感心しています。
しかしあえて辛口に言いますが、この新サービスに多くのユーザーが一気に集まるようなことはないでしょう。ネットの動画サイトに匹敵するようなユーザーを集めるには、もっと大胆で思い切った、ネットユーザーを唸らせるようなサービスを提供しなければなりません。
それには、この3つの画期的なサービスを合体させればいいのです。

この3つの動画サービスを見てみましょう。

まず今年1月7日、「もっとTV」というテレビ番組のVODサービス・サイトで、民放キー局5社のいくつかのコンテンツが月額見放題で視聴できる新たなサービスを始めました。どの局の番組でも月額定額(税抜き900円)で見られるのは他初めてです。
これの画期的なところは、テレビ局の壁を乗り越えたことです。局ごとには既に月額見放題はありましたが、どの局の番組でもOKというのは、足並みをそろえるのが苦手なキー局としては注目に値します。
(*もっとTV;民放キー局5社と広告会社4社の共同出資によるプレゼントキャストという企業が運営)

その直後の1月15日、日テレが「いつでもどこでもキャンペーン」という、テレビ番組の無料見逃し視聴サービスを始めました。いくつかのドラマやバラエティー番組を、放送直後から1週間、無料でネット配信するというものです。視聴可能な機器はパソコン、スマホ、タブレットなどでOKです。
画期的なのは、会員登録やログインなどの面倒な手続きが不要なことと、無料だということです。有料の見逃し視聴サービスは各局が既にやっていますが、放送直後の見逃し配信は、各局ともVOD事業のドル箱になっています。番組数は限られているとは言え、これをタダで見せてしまおうというのは初めてのことです。

さらに2月17日、フジテレビがCS放送の「フジテレビNEXT」で放送されている番組をネットでも同時配信するサービスを3月14日から開始すると発表しました。これは有料ですが、一つのチャンネルの放送をそのまま同時配信(番組によっては1時間以内ならタイムシフト視聴可能)するサービスは、初めてのことで、通信の権利処理の困難さを乗り越えた点で、画期的と言えます。

これらの試みは本当に「よくできた!」、「画期的!」と言えます。しかしそれは業界や関係者からの見方です。
インターネット動画のはるかに便利なサービスに慣れてしまったユーザーから見れば、逆に「何故それが注目されるの?何が新しいの?どこが便利なの?」と言われてしまうでしょう。

ではそれぞれのサービスを見直してみましょう。

「もっとTV」の見放題サービスは、見られる番組数はかなり少ないのです。サイトを見る限り月額900円で視聴できる番組数はわずか39番組しかありません。
他の動画配信サイト、例えばHuluでは、月額980円で、1万本の映画、ドラマ、アニメが見放題です。さらに視聴できるデバイスも、ほとんどのスマホやタブレット、パソコン、テレビや録画機も種類が豊富です。
一方「もっとTV」では、視聴可能な機器はごく一部のテレビや録画機、一部のスマホに限られます。
これだけ差があると、ほぼ同じ料金でどちらを選ぶかと言われれば、よほどのテレビ放送好きでない限り、Huluを選ぶでしょう。

日テレの「いつでもどこでもキャンペーン」は、無料でユーザー登録もしなくていいということがメリットです。しかしどんなユーザーが見ているのかわりません。何より、見られる番組数は5つしかないために、一気に多くのユーザーを集めて、ユーザーの属性データやログデータなどをマーケティングに利用することは難しいでしょう。ユーザー集めというより、番組を見逃してしまった人に見てもらい、リアルタイム視聴へ回帰してもらうのが狙いなのでしょう。

フジテレビの同時配信サービスも、3月のギャンペーン期間中はフジテレビオンデマンドの月額会員とスカパー!オンデマンドの会員(有料)だけが見られ、4月からは月額1200円という料金になります。このサービスは原則的に生配信、つまり見逃したら見られないのです。これでは放送と変わりません。番組によっては1時間のディレイまでは許容されるようですが、そのサービスだけで月額1200円というのはかなりのハードルでしょう。

どれも画期的なサービスではありますが、これでユーザーが一気に集まるかというと、はっきり言って無理でしょう。そもそも各サービスには別の目的があり、ユーザー数を期待してはいないと思います。

氏家夏彦プロフィール
「あやぶろ」の編集長です。
テクノロジーとソーシャルメディアによる破壊的イノベーションで、テレビが、メディアが、社会が変わろうとしています。その未来をしっかり見極め、テレビが生き残る道を探っています。
1979年テレビ局入社。報道(カメラ、社会部、経済部、政治部、夕方ニュース副編集長)、バラエティ番組、情報番組のディレクター、プロデューサー、管理部門、経営企画局長、コンテンツ事業局長(インターネット・モバイル、VOD、CS放送、国内・海外コンテンツ販売、商品化・通販、DVD制作販売、アニメ制作、映画製作)、テレビ局系メディア総合研究所代表を経て2014年6月現職
テレビ局系企業2社の代表取締役社長
放送批評懇談会機関誌「GALAC」編集委員

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