
『テレビの未来』あとがきとして…新刊『データサイエンティスト』の感想
ソフトバンク新書から献本いただいた。橋本大也さんがお書きになった『データサイエンティスト データ分析で会社を動かす知的仕事人』という新書だ。
ちょうど、『テレビの未来』シリーズを書いている最中だったのだが、いろいろとインスパイアされたので、書評を書くことにした。
本書ではデータサイエンティストを「データを科学的に分析してビジネスの課題を創造的に解決する人材」と定義している。GoogleやAmazonのようなIT産業の急成長を支えてきたのがデータサイエンティストであることが広く認知され、他の産業でもその専門能力が幅広く求められるようになり、注目されている人材だそうだ。
本書の中では既に活躍しているデータサイエンティストの姿をいくつも紹介している。
例えばYahoo!JAPANでは、サーバーに流れ込んでくる、検索キーワードや各ページの閲覧履歴、ソーシャルメディアのフィード、ウェブメールなどのビッグデータを収集し、サービスに活用しているそうだ。
彼らが日々データを使って行っていることをざっくりいうと「最適化」であり、その代表例がレコメンデーションだ。ネットショッピングをすると、別の商品をお薦めされる、アレだ。かなりの効果があるらしい。
当然ながらターゲティング広告にも使える。またソーシャルゲームでは、アイテムに課金させるためにデータを駆使してゲームのパラメータの最適化をしているそうだ。アイテムの課金率が1%でも高まれば、何億円もの利益につながる。
その他にも本書では、野球などスポーツに活用した例などを紹介し、ビッグデータを分析してそれを活用しビジネスにつなげるデータサイエンティストという人材がいかに重要になるかを説明している。
本書は、『テレビの未来⑥』、『テレビの未来⑦』を書いている最中に読ませてもらった。これらのポストでは、「テレビの未来を明るいものにするには、テレビ局はメディア・サービス企業に進化しなければならず、その時ユーザーに提供するサービス群は、サービスデザインという革新的な手法で、インターネットを介して相互に精緻に連結される必要がある」と述べた。
これまでのテレビは、経営や物作りに利用できる物差しとしては、売上や各種利益率など一般的なもの以外は視聴率しかなかった。しかしこの視聴率が、いまの視聴者の視聴実態から乖離しつつある。最近のテレビの迷走は、これによると言ってもいい。
ところがこの先、テレビ局がメディア・サービス企業になれば、一気に様々なデータが利用できるようになる。テレビは、テレビ受像機によって何千万人もの人たちとつながっている。今まではそれがテレビ局から視聴者への一方通行だったが、スマートテレビや、各種ネットサービスを開発しそれを結びつけることで、テレビの向こう側にいる視聴者=ユーザーと、インタラクティブにつながる。ネット企業にも負けないようなビッグデータを利用できるようになる。
これのもつ可能性の大きさは、「オワコン」だの「斜陽」だのと言われてきたテレビの未来を一気に様変わりさせる。
ただしビッグデータは手に入っても、それを分析しビジネスに生かしてくれる人材が必要だ。それがデータサイエンティストであるという訳だ。
未来のテレビ局は、こうしたデータサイエンティストが活躍できる企業になっているだろうか。
もちろん、番組作りにデータを利用しろなどというつもりはない。番組は、視聴率を上げることを目的にするだけでさえ、つまらなくなってしまう。作り手側が「自分が面白いと信じるものを徹底的にこだわる」ことによってのみ、当たり番組が生まれる。結果、視聴率が獲れる。これは以前にエントリー『テレビがつまらなくなった理由』で書いた。
番組作りに必要なのはデータではなく「人』だ。昨日放送された『半沢直樹』の台詞、そのものだ。
『テレビの未来』シリーズでは、テレビ局はメディア・サービス企業になり、ビッグデータをあつかうデータサイエンティストが必要になる、という考え方を示したが、その上で一番心配なのが、上記の部分を誤解されることだ。「視聴者にサービスしていい番組が作れると思うのか」とか、「データを分析すれば心をうつドラマが作れるのか」などと反発されるのが心配だった。今のところ、こうした反論は受けていないのでちょっとホッとしている。
献本いただいた『データサイエンティスト』を読んでいて、こうした人材とともに仕事をしていくテレビ局員をイメージした時、後輩たちは大変だなぁと思うと同時に、なんと面白い時代を生きて行くのかと、羨ましくもなった。
今回のポスト、書評にはならなかったがとても拝読させていただき、大変勉強になったことは確かだ。改めてソフトバンク クリエイティブさん、ありがとうございます。

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