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20163/2

テレビの未来は明るい! これからの放送はサービスでありユーザーインターフェイスが重要だ! ①

今年1月28日に、アタラ合同会社のCOO有園雄一さんにインタビューしていただいた記事が、Unyoo.jpに掲載されました。

http://unyoo.jp/2016/01/tv-future/

最近「あやぶろ」用に記事を書いていないのを少しでも補うために、転載させていただくことをご承諾いただきました。大変長い記事なので、3回に分けて公開することにしました。

以下、インタビュー記事

**********************

テレビ局関連会社の代表取締役社長である氏家夏彦さんは、鋭い洞察力でテレビ業界を斬る、影響力のある言論者です。若者のテレビ離れが叫ばれ、地上波放送のあり方が問われる今、氏家さんにテレビ業界の今と未来についてお話を伺いました。

 

テレビ業界は元気がない!?

有園:最近よく「テレビ業界は元気がない」という声を聞きます。昨日の夜、偶然、TBSアナウンサーの初田啓介さんと食事をしました。昨日の昼間は大阪出張していて、朝日放送の報道局に勤める先輩とも話をしたのです。二人とも学生時代の同じサークルの先輩です。二人と話していて、やはり、少し悲観的な印象を受けました。とはいえ、テレビ局は「やり方次第でまだまだいける!」と僕なりに思っています。そこでぜひ、氏家さんにお話を伺えればと考えております。

氏家:よろしくお願いいたします。

有園:最近、フジテレビが1959年の開局以来初の赤字に転落したというニュースがありました。一方で、民放連の井上会長のかけ声で始まったといわれるTVer(ティーバー)が開始から3週間で100万ダウンロード突破したというリリースも耳にしました。テレビコンテンツはスマホでも見られている時代になりました。その状況の中で、テレビ業界およびテレビ局の未来について氏家さんはどのようにお考えでしょうか。

氏家:数年前までは、テレビ局に対しては「悲観的になりましょうよ」というメッセージを私は意識的に発信していました。悲観的にならなければ正しい危機意識を持つことができません。正しい危機意識を持ってはじめて具体的な動きができるわけですから。3~4年前までのテレビ局には「まだまだ大丈夫」という人がすごく多かった。今でも少なくはありませんが、その一方で「このままだとヤバイよね」という人が増えて、そのような危機意識を持った人がテレビ局内部でも、ちゃんとしたポジションについてきている。それがここ3年くらいの大きな変化だと思っています。

有園:なるほど。

 

テレビ局が危機意識を持ち始めた

氏家:ここにきていろいろな動きが一気に進んできたのも、各局のみなさんがしっかり危機意識を持つようになったから、変化のスピードが急に上がったんだと思います。逆にいうと、悲観的になることは大事。悲観的な気分にならなければ、次のイノベーションなんて起きないじゃないですか。イノベーションを起こす原動力になるものは「ヤバイよ」という気持ち。それを持つ人が増えていることは、僕は良いことだと思っています。それによってテレビの未来は明るくなるんですから。

有園:僕は、氏家さんはテレビ業界に対して啓発する意識をもって発言されてきたんだろうなと思っていました。少しずつ状況が変わり、未来を語れるようになってきましたね。

氏家:数年前まで、私の発言は「テレビはヤバいぞ」を強調してから「こうしたらどうだろう」という提言をしていました。視聴習慣の変化が起き、モバイルデバイスが急激に増えて、いろいろな状況の変化があって「このまま放っておくとテレビはヤバいぞ」ということを強く言わなければならなかった。みんな、そういうことをあまり認識していなかったから。でも、今はそう言わなくてもだいたいの人は分かっていて、「じゃあ、どうしましょう」が素直に議論できる段階だと思います。

 

テレビの視聴率が落ちている

有園:2008年秋のリーマンショックの影響で、テレビCMの視聴率1%あたりの収入が2009年に底を打ちます。その後、2010年以降、テレビCMの単価が上がっている。けれども、いわゆる全日視聴率が落ち続けているといわれています。このままでいいのでしょうか。

氏家:テレビの視聴率が落ちているのは動かしがたい事実であって、いまでも落ち続けています。これは受け止めなければなりません。

有園:はい。

氏家:視聴率が減っているのは、テレビを見ている人が減っているからです。特に若い人を中心に。これによって何が起きるか。今のところ景気が上向いているので、テレビ広告費は少しずつ増えています。でも、この先に何かあればドーンと落ちる恐れがあります。

この5年ぐらいは、視聴率が下がっているのに広告市場は膨らんできた。膨らんできた分が一気に弾けて、すごく悲惨なことになるのではないかと警戒し、まずはそれに備える必要があります。未来にそういうことが起きることを想定しながら対策を練らなければ危険です。

広告収入が減るということは制作費が減るということです。一番大事なコンテンツを生み出す源泉が無くなるということです。いくら「安くても良い番組を作ればいい」といったって、それには限界がある。そうした事態に備えていかなければなりません。

 

視聴質を高める、テレビ画面に集中させる

氏家:そのために必要なことは2つあります。1つは、リアルタイム視聴の促進です。テレビは視聴率が下がっているとは言っても、リーチ力では他の媒体に比べて地上波は圧倒的。その地上波の利点をどうやって伸ばしていくのか。視聴率が下がったとしても見る濃度、濃さが高まればいいじゃないですか。

有園:はい。

氏家:どうやってテレビ画面に集中させるかを考えていけばいいと思います。テレビは一度に多くの人に見られる、いわば広い面積を取れるメディアですが、奥行きが浅い。気に入ったドラマであれば奥行きは深いけれど、そういうドラマって録画されてしまうんです。

例えば、大ヒットした「下町ロケット」というドラマを見ていたんですが、ある日、裏ではテレビ朝日でアイススケートをやっていました。僕は「下町ロケット」が絶対に見たいので録画して、アイススケートを生で見ました。SNSでそれを書き込んだら、自分も同じだという人がたくさんいました。そうした視聴の仕方が増えています。そして録画視聴している人の8割くらいがCMを飛ばしてしまうので、今のテレビのビジネスモデルでは苦しくなってしまいます。

 

リアルタイム視聴の促進

氏家:その状況をどうやって乗り越えるのか、どうやったら媒体価値を高められるか。それを考えるべきです。その解がリアルタイム視聴の促進です。

有園:リアルタイム視聴という言葉は、録画ではなく普通にテレビを見るという意味で使っていますか?

氏家:そうです。生で見ること、生放送という意味ではなくて、放送しているのをそのまま見ることをどうやって促進していくか。そのやり方の1つとして有望だと思っているのが「みんなで見ているのを実感してもらう」、「みんなで盛り上がる」というものです。

Bascule(バスキュール)の朴さんが上手い言い方をしていたのですが、今の番組は視聴率30パーセントの番組も1パーセントの番組も、テレビ画面を見ている限りは同じにしか見えない。それを、どれだけ多くの人が見ているのか分かるようにしたら面白いのではないだろかというのです。テレビ画面で視聴者が直接参加している感じ。それを出すにはどうしたらいいのかをBasculeさんたちは考えています。

例えば、ニコニコ動画は疑似リアルタイム視聴ですが、人気のある動画のシーンで盛り上がるところにくると画面全体を字幕がバーッと流れます。「弾幕」と言うのですが、画面が字幕で埋め尽くされて何が映っているのか分からなくなるほどだけれど、ポチッと押せば消えます。その字幕で、みんなで盛り上がっていることが分かるんです。

それをそのままテレビでもやれとは言いませんが、工夫をして取り入れることができるのではないか。盛り上がっていることが視聴者に伝われば、視聴者が参加している感を得ることができるのではないでしょうか。特に、スポーツイベントはそうかもしれませね。それってリアルタイムでやらなければできませんから、リアルタイム視聴を促進することになります。1年ほど前までは各局とも積極的にやっていたのですが、最近はあまりやりません。期待したほど視聴率に反映しないためらしいのですが、目的を「視聴率アップ」から「視聴者を放送に巻き込む」に変えて、継続的にトライしていくべきだと思います。

 

CMの効果を上げるために

氏家:二つ目は、CMの効果を上げることです。今はただ流れているCMをたまたま見ているだけで、普通の視聴者は、CMタイムに入ると意識がCMから離れてしまう。CMをただ流れるものではなく付加価値を付けていく。例えば、セカンドスクリーン連動もいろいろ試行錯誤しているけれど、イケてる方法が見つからない。

有園:TBSは「ぶぶたす」アプリで番組と連動したことをやっていますよね。

氏家:あれは大変よくできているアプリですが、もっとユーザー目線でサービスを考えて、こっちが何をやりたいかではなくユーザーにとって面白いセカンドスクリーンサービスという発想を突き詰めれば、さらにいろいろなことができると思うんです。テレビ局が自分たちだけでやるのでなくサードパーティにも解放して、面白いアイデアを持ってきたところとは一緒に組んでやればいい。

有園:アプリを開発してもらうとかですね。

氏家:そうそう。こっちから呼びかけてどんどんやってみる。もちろん、スポンサーさんを巻き込む手もあります。

 

CMを売るだけではない、新しいことにトライ

氏家:今までテレビ局はCMを売るという作業しかしてこなかった。ネットに関しては発想が限られているので、セカンドスクリーン連動とかネット連動とか、仕組みや仕掛けを自分たちだけで考えるだけでなく、周りと一緒にやっていく。スポンサーさんにも理解してもらって通常のCM料より高いお金をいただくとか。CMを売るという伝統芸の営業の世界だけでない、新しいことにトライしていかないと。でもそれって、口で言うは易しなんですよ。

僕も現場にいた頃、深夜番組でいろいろなことをやろうとしたけれど、新しいことをやろうとすると、とにかく抵抗が強い。ものすごくエネルギーが要る。あっちこっちを説得するんですが、やりたがらなかった。これまでのテレビは、段取りが決まっていて、段取り通りに処理すれば膨大なお金が入ってきた。ところが、それだけではダメになってきたから新しい仕組みを作りましょう、儲けるためにいっぱい汗をかきましょうと。そういう風にしていくと、もっと広がっていくんです。CM効果も上がってくる。今はいろんなチャンレンジがやりやすい環境になってきているようですから、これからですね。

有園:なるほど。

 

テレビのネイティブ広告

氏家:CMの効果を上げるもう一つの方法が、ネイティブ広告です。ネイティブ広告というと、ウェブサイトの記事の中に紛れ込んでいる記事の体裁をした広告ですが、これはテレビでもできます。「リアル脱出ゲームTV」では、日産のCMに出演者がそのまま登場していました。

(参考記事:「ネイティブアド」のあるべき姿を、日産自動車とTBSのテレビでの取り組みに学ぶ

有園:「リアル脱出ゲームTV」での日産のCMは話題になりましたね。

氏家:番組から自然な形でCMに入るんです。TBSの「ルーズヴェルト・ゲーム」ではドラマの中に社会人野球が登場するので、スポンサーのニッセイさんや東芝さんの社会人野球の動画CMを急きょ作って流しました。ドラマの流れを断ち切らない、雰囲気を壊さない工夫ができていたんですよね。

「M-1グランプリ」のときのユニクロのCMも良かったですね。あれやったのはABC朝日放送さんです。朝日放送さんて、いつも冒険的な試みをするんで面白いですよね。

(参考リリース:「服」と「笑い」の力で日本の冬をあたたかく!漫才日本一決定戦「M-1グランプリ」をスポンサード、全国6都市のユニクロ店舗にM-1芸人が登場

<参考動画>

https://youtu.be/ZhH_b51DJRo

ネイティブ広告って雰囲気を壊さないから効くのだと思うんです。そういうCMを流すと、おそらく認知のされ方がまるで違ってくる。視聴者にとってCMが邪魔なものではなく、共感を得るものに変わるんです。そのドラマや番組でないと通用しないから、使用できる回数は少ないかもしれないけれど、その分の制作費を安くしたってリターンはくるんじゃないかな。それをYouTubeにアップしておけば、SNSで口コミで広まり放送は見なくても、多くの方に見てもらえるわけだし、効果は大きいと思います。

あとはメタデータや視聴データを広告主にも提供して利用してもらう。広告主が「テレビCMって面白いね」って思ってくれるようなデータを提供することで、CMを伝える媒体としてのテレビの価値は上がると思うんです。

 

テレビを録画させない

氏家:もう1つのテーマにつながるのですが、アスキー総研の調査によると、今は録画視聴する人が4割なんですって。その録画をさせないようにすればいい。

有園:録画をさせないのですか?

氏家:全部、見逃し視聴をさせればいい。

有園:TVerで全部流しますよと。

氏家:そうしたら録画は必要なくなる。「TVer」や「Hulu(フールー)」でかなりの番組が見られるようになったでしょ。それを見るので録画はしなくなったという声は結構聞きます。

 

有園:僕としては全番組をネットで配信しちゃえばいいじゃんって思うわけですよ。アーカイブがあればいつでも見られるわけだし。録画しなくてもいいし。いろいろな議論があるとは思いますが。

 

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次回「テレビは使いにくい」に続く…
http://ayablog.com/?p=778

 

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