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20187/7

テレビ局をディスラプト(=破壊)するもの…後編

LINE執行役員の葉村真樹さんが新著
「破壊-新旧激突時代を生き抜く生存戦略」を出されました。
本書はテレビ業界を念頭において読むと非常に示唆に富み、付箋を貼り、線を引きまくって熟読しました。
葉村さんは「既存の産業を破壊=ディスラプト(disrupt)し消費者にとってより利便性高く拡大するイノベーションを起こし、新たな産業を想像する者をディスラプター(disruptor)」と呼びました。
テレビ局はなぜディスラプトされてしまうのか、ディスラプターにどう対処すればいいのか、葉村さんの著書を参考に、課題と閉塞感を打破するためのビジョンについて考えてみました。

前編
http://ayablog.com/?p=976

*デザイン・シンキングの威力
*「視聴者のために良い番組を作る」を捨てる
*電波の凄さと、どうしようもないダメさ

デザイン・シンキングでテレビのサービスを考えると…

ディスラプターの競争戦略そのものでもあるデザイン・シンキングで、テレビ局がどうすればいいのか考えてみましょう。デザイン・シンキングがどんなものかは前編に書いてあります。
今のテレビ・ユーザー(テレビ離れした人も含めて)は、テレビ局にどんなサービスを望んでいるのでしょうか。

一言で集約すれば、

見たい時に…
好きな場所で…
どの番組でも…
どの局の番組でも…
好きにサクサク選べて…
昔の番組でも…
オリジナル番組なんかも…
ついでに映画とかも…
スマホではもちろんテレビでもパソコンでも…

見たい!と、こういうことになります。

「見たい時に」「好きな場所で」はすでに見逃し配信で実現されています。
しかし「どの番組でも」はまだまだです。権利処理作業に非常に手間がかかりコストがかかるためです。著作権に関わる法律を変えないと無理でしょう。またネット配信に後ろ向きのプロダクションも説得しなければなりません。
「どの局の番組も」「サクサク選べて」については、TVerで実現されていますが、前にも述べたようにまだごく一部の番組にしかすぎません。サイトの使い勝手も、まだまだブラッシュアップする余地がありそうです。

NHKも含めた全局の全番組が、放送と同時にネットでも見られ、過去1週間分の見逃し視聴ができ、過去1ヶ月の番組や、さらに昔の番組も、オリジナル番組も映画も月額定額で見放題で見られるようにして、初めてユーザーの要求に応えることになります。

 

必須機能の「盛り上がりの共有」

こんなサービスができたら、ユーザーはこぞって使ってくれるでしょうか?
残念ながらこれだけではダメです。今の動画配信サービスはもっとはるか先を行っています。
例えばAbemaTVでは、ある番組が始まってから何人の人が見たのかが数字で表示されています。そしてユーザーのコメントも書き込めるようになっています。人気アニメが放送された時は、視聴数が100万を超えたそうです。その時はコメント欄も大いに盛り上がりユーザー同士が、みんなで一緒に見ているという楽しみを共有していました。

今のテレビにはそんな機能はありません。視聴率40%を超えるサッカーの試合も、視聴率1%の番組も、見ている側は同じなのです。日本中でテレビの前で応援する他の視聴者の姿も熱気も、全く伝わってきません。

今やこうしたコメントの共有は、動画サイトならばあって当然の機能となっています。
この「みんなで盛り上がる」を最初に実現したのはニコニコ動画です。10年以上前のことです。
ところがテレビは、10年経っても盛り上がりを共有するという機能を取り込むことができませんでした。技術的には難しいことではないのに、取り込もうという発想自体がありませんでした。

 

番組価値の増大効果絶大の評価&リンク機能

足りない機能はまだあります。
Netflixになぜ多くのユーザーが集まるかというと、多くのコンテンツが見られるからではありません。Netflixはユーザーにオススメの番組を提示するレコメンドの機能に命をかけています。あるコンテンツを見終わると、次にこれはどうですか?というオススメ番組が列挙されます。それでついつい次も見てしまう、この機能がすごいのです。Netflixの視聴の75%はこのレコメンドによるものだそうです。

Netflixがなぜこんなことができるのかというと、全てのユーザーの視聴ログ(どのコンテンツをどのように見たのか、一気に見たのか、途中で止めたのか、次に見たコンテンツは何なのかなど、視聴に関する全てのデータ)を分析しているからです。
視聴ログは、コンテンツに対するユーザー側の評価そのものと言えます。

葉村さんの「破壊」には、この辺りについての記述もあります。

葉村さんは、UberやAirbnbでは、サービス提供側とユーザー側、双方の評価がスコア化されていて、スコアの高いものはより機会を得て、低いものは淘汰される仕組みになっている、これはまさに「評価経済」と呼べるもの、としています。

これをテレビに当てはめると、面白い未来が見えてきます。ユーザーの評価を可視化し、話題になった番組がいつでも見られるようになると、新たな番組価値を創造することにつながります。

ユーザーの好みは細分化しています。あるクラスターには深く刺さる番組でも、他の人たちは全く興味を示さないということはよくあります。
うちでも私はアニメが大好きなのですが、家内は全く興味なし。仕方なく家内が寝た後、深夜に一人でまとめて見るなんてことは良くあります。
テレビ番組がネットにつながれば、ドラマなどに比べれば数少ないアニメ好きとつながります。アニメ番組は多すぎて、とても全部を見ることはできません。しかし、過去の番組が見られれば、ネット上の評価を番組価値として取り込むことができます。

TwitterやFacebookなどネット上のコミュニティの盛り上がりから番組視聴にリンクで直結するようになれば、番組の価値は劇的に向上するでしょう。誰も気づかない深夜に、意外に面白い番組があったらそれはネットで拡散し、リンクをクリックするだけで、すぐに視聴されるようになります。
インターネットのリンク機能は、普段私たちは当たり前のように何気なく使っていますがすごい効果があります。このリンク機能も、テレビ放送では全く使うことができません。

視聴率はイマイチでも熱狂的なファンが生まれるような番組が出てきています。最近でいえばテレビ朝日のドラマ「おっさんずラブ」がそうです。平均視聴率は4%ちょっとでしたが、それこそ熱狂的なファンが多く誕生し、Twitterのトレンドで二回も世界一になりました。
私は放送が全て終わってからこの盛り上がりに気づきましたが、もう見ることはできません。しかしガラポンTVという全局全番組録画機を利用していたので、第1話から見ることができました。追加でつけたHDDに過去4ヶ月分の番組が録画されているからです。ちなみに月額1250円で使えます。こんなサービスをテレビ局が提供していたらクールなんですが。

こうしたユーザーの評価を取り込むだけでなく、UberやAirbnbのようにユーザー側をも評価することで、ユーザーも「評価経済」の恩恵を被ることができるようになります。質の高い評価をするユーザーは、他のユーザーから評価されるようになり、それが可視化されればインフルエンサー的な役割を果たすようになるでしょう。そこに「経済」の要素が発生する余地が生まれます。

 

破壊=ディスラプトされるテレビ局

「良い番組を作ればいい」は、はるか昔のことです。良い番組を様々なルートで届ければいいという時代でもありません。それも過去のことです。
全局の全番組を一つのプラットフォーム上で放送と同時配信し、見逃し視聴ができ、過去のアーカイブも見られ、映画やオリジナル番組も見られるというのは、テレビ局にとってはとても大変なことですが、ネットサービスで贅沢になってしまったユーザーからみると「なぜいまだにできないの?」という程度のサービスです。

少なくとも今の各局バラバラのサービスでは、絶対にユーザーの要求には応えられません。
世界をみると、NetflixやAmazonプライム・ビデオ、DAZNなどがすでに圧倒的なユーザーを確保しています。Netflixのユーザー数は1億人を超えています。そして資金力は絶大です。NetflixやAmazonは途方もない値段で日本のアニメを購入しています。DAZNもとんでもない高額で日本のスポーツコンテンツをかき集めています。
今から日本のテレビ局がどんなに頑張ってもかないません。フジテレビのFODや日テレのHuluがどんなに努力しても、何千万人ものユーザーを集めることはできません。世界に打って出ることなど、逆立ちしてもできません。

今のままでは、日本のテレビ局にも、テレビ局の動画配信サービスにも未来はありません。放送もダメ、配信もダメとなったら、どうなるのでしょうか。新聞のように、徐々に死んでいく道しかないのでしょうか。

 

ディスラプトする側に回るテレビ局

葉村さんの言葉で言うと、今の放送局はディスラプトされる側です。
しかしこれまで述べてきたような全局共通プラットフォームや、ユーザーを巻き込んだサービスができれば、ディスラプトする側に回れるかもしれません。

インターネットには見切れないほどの動画があると言われていますが、テレビ番組や映画などのプレミアム・コンテンツはわずかです。それが一箇所に集約され、他の動画サイトでは見られなくなれば、テレビ局はディスラプトする側になれます。グローバルでみればNetflixなどの巨人には到底かないませんが、日本に限れば市場を制することはできます。

ここにしか日本のテレビ局が生き残る道はないでしょう。もちろん今のままでも、5年後にテレビ局がディスラプトされることはありません。しかし10年後はわかりません。変化が加速していることに目をそらさず、ちゃんと正面から受け止めるべきです。

 

テレビ局が電波を捨てる日

電波は有限で貴重なものです。全てのものがインターネットにつながるIoTは、今後、幾何級数的に増加し、そうなると電波は圧倒的に不足していきます。その時に、テレビ放送のために電波を使うのが公共の利益につながるのかという議論は必ず起きます。

今はネットに繋がったテレビは3割ですが、10年後は全てのテレビがネットに接続されているでしょう。テレビ放送とテレビの同時配信を見る時、視聴者・ユーザーは、自分が今見ているのはどちらかなど意識しないでしょう。どっちも同じなのですから。
むしろ同時配信の方が、その番組の過去放送分を見たり、他のユーザーの評価を見るなど様々なネットサービスに直結しているので、不便なテレビ放送を見る人の方が少なくなるでしょう。

そうなるとテレビ局は電波でなくて配信でいいじゃないか、電波は生活が便利になるIoTに使うべきだ、というのが共通認識になっていきます。
そのような時代になった時、Amazonがリアル店舗の本屋を不要なものだと判断したように、Netflixが貸しビデオ屋とDVDを捨てたように、テレビ局は自ら電波を捨てる判断を下すのかもしれません。

そんな時代は、テレビ局の人たちが考えるよりずっと早く訪れるのではないでしょうか。

 

前編
http://ayablog.com/?p=976

*デザイン・シンキングの威力
*「視聴者のために良い番組を作る」を捨てる
*電波の凄さと、どうしようもないダメさ

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  • 氏家夏彦
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