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20163/4

テレビの未来は明るい! これからの放送はサービスでありユーザーインターフェイスが重要だ! ③

今年1月28日に、アタラ合同会社のCOO有園雄一さんにインタビューしていただいた記事が、Unyoo.jpに掲載されたものを転載しています。
http://unyoo.jp/2016/01/tv-future/

3回めです。
(1回めは http://ayablog.com/?p=770 )
(2回めは http://ayablog.com/?p=778 )

以下、インタビュー記事

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シェアされやすい仕組みを作る

 

有園:それは、TVerに出している番組動画がシェアされやすい仕組みを作るだけでも全然違うだろうってことですか。

氏家:そう。その仕組みを作っていかなければいけない。番組数が増えていくと何を見たらいいのか分からなくなる。今はやっていないけど、一週間分の過去番組表をダーッと出して「これ見よう」と思ってピッとやったらすぐ見られるとか、いろいろなやり方があると思います。いわゆるキュレーションサイトみたいなものも出てくるでしょうから、そういうところにもデータをオープンにして。

それこそ、テレビとの接触チャンスを増やすためには「何でも使い倒してやろう」という考え方に変えた途端、すごく不便でダサかったテレビが、すごくイケてるテレビに変わるんです。そういう風にやり方を変えていけば、テレビの未来ってすごく明るい。

コンテンツの魅力で言えば、テレビってやっぱり面白いですよ。素人やYouTuberが作った動画のほうが面白いって言う人も多いですが、本当に面白い動画は全体から見ればごく少数です。今でも「テレビのほうが面白い」って言ってくれる人がたくさんいます。

ただ、毎日放送されている膨大な番組の中に、どんな面白いコンテンツがあるかなんて分からない。それが、自分の好みと合う番組がレコメンドされて、友達から教えてもらってたやすく見られるのであれば便利。そうなった途端に、テレビのコンテンツというか、テレビメディアというか、その価値は爆発的に高まると思っています。

 

見逃しやアーカイブは全局足並みをそろえるべき

氏家:もう1つ大事なのは、見逃し配信は全局足並みそろえることですね。特に今、取り残された感のあるローカル局がなかなか参入できないのは問題です。権利処理のハードルが大きい。キー局は、だいぶ前からやっているから処理のルーティンができてるけど、ローカル局はノウハウもないので何から手を付けたらいいか分からない。そういうのを助けるサービスがあってもいいのかなって思う。

テレビ番組のアーカイブに関しては、時間的に直近のものと過去物とで分かれます。各社、直近のもの、つまり見逃し配信はCM付きで流れています。過去物に関しては CM付きではなくてTVODかSVODなんです。都度課金、一本いくらで買うか、トランザクショナルかサブスクライブドの二種類。それをTBSはTBSオンデマンド、フジテレビはFODでやっていたり、日本テレビはHuluでと各社バラバラ。

これって使いにくいんですよ。各局の見逃し配信が注目されたのはTVerのおかげでしょ。もちろん、TVerの前にも各局別々のサービスとしてあったのですが、全キー局がまとめて見られるTVerが入ったおかげで確実に視聴回数が上がっているはず。それならアーカイブも同じでしょう。

だったら日本の各局、ローカル局も含めて番組に関しては、1つのプラットフォーム上に乗せて、ケーブルTVの「ベーシックコース」や「ベーシックチャンネル」のように幾つかの番組はSVODで見られたり、それ以外は都度課金みたいなやり方があると思うんです。それができたらすごく面白いと思うんですよね。視聴回数に応じてリターンも入るし。

 

アーカイブにCMを入れる

有園:アーカイブにCMを入れてもいいんですよね。

氏家:問題ないですよ。衛星放送だって有料なのにCMが入っているじゃないですか。有料配信でも15秒くらいだったらユーザーも認めてくれるんじゃないかな。見逃しはタダで30秒、有料でも30秒だと「なんで」となるから15秒くらいで。

有園:CNNとか普通にCMが入っていますよね。

氏家:そこはやりようだと思います。より儲かるほうで。β版としてCMを入れて離脱率が高いなら止めたらいいし。各局アーカイブのポータル化は、ぜひやるべきだと思います。

有園:NHKの人と話していて、Hybridcast(ハイブリットドキャスト)は元々VODを想定していたそうです。かつECも考えていて。総務省やNHKはきっと、民放にもハイブリッドキャストを使ってほしいと思っている。民放は局によって違うとは思いますが、フジテレビのある人は「前向きに考えていますよ」とおっしゃっていました。

ハイブリッドキャストは、いわゆるスマートテレビみたいな感じで各局、少し違いはあってもテレビ画面でネットにつながるようになる。VODはNetflixみたいな感じで見られるのだと思います。例えば、ドラマの中でソファがあり「あのソファいいな」と思ったときに「このソファはIKEAで売っています」みたいなのが、テレビ画面の端っこに出ていると、ECもその場でできて、テレビ局には手数料が入ってくれば良いのかな。そういうのってどう思われますか。

氏家:昔、うちでも確か同じようなのをやっていたことがありました。ただし、放送やテレビ画面と直結はしませんでした。ECサイトにそういうのがあったのですが、売上はあまりたいしたことがなかったようで今はやっていません。でも今なら、放送からの導線を短くすることで売れやすくなると思います。

 

王様のブランチで「ぶぶたす」が好調

氏家:王様のブランチでやっているスマホアプリの「ぶぶたす」は、かなり売上げがあるらしい。それは導線が短いから。王様のブランチを見るときは「ぶぶたす」アプリを起動してくださいと。商品紹介をやっていると出てきて、それを見て「これいいな」と思うとすぐ買えちゃう。

有園:いわゆるセカンドスクリーンですね。私の認識が間違っているかもしれませんが、ハイブリッドキャストの説明ページを見ていると、テレビ画面が今放送されている番組から切り替わってしまうようなのです。ECへ行ってしまう。テレビ局側からすると、せっかくテレビを見ているのにECサイトへ行ってしまっていいのかなと思ったりもするのですが。

氏家:そのサービスもいけてないね(笑)。買おうと思っても番組は見続けたいよね。L字のところで買えたりね。

有園:それであればいいということですね。

氏家:そこらへんはいくらでも組み立てられると思います。せっかく見ている番組をやめるのも嫌だし、「後で買おう」と思っても忘れてしまうので。ユーザーも、そんなに集中して見ているわけではないから、セカンドスクリーンでも、脇のスクリーンでも、二画面でもいい。そういう動きは出てくると思います。

 

これからの放送はサービス

氏家:これからは、放送というものは、上から降らせるものではなくてサービスだと考えなければならないと思っています。サービスにした途端、いかに儲けるではなくて、いかに良いユーザー体験を提供できるか、いかに良いユーザーインターフェイスを提供できるかという風にKPIが変わるはずなんです。そこからいかないと逆に儲からなくなってしまう。儲かるところから始めるとユーザーが増えないんですよ。素敵なユーザー体験を提供するところからいかないと儲からない。フェイスブックもそうだったし、インターネットサービスは、そうやって多くのユーザーを集めてから儲けるというやり方ですよね。

放送はサービスであると完全に割切る必要があります。素敵なユーザー体験を与えるためには、実は放送をやっているだけでも、動画をやっているだけでもダメで、放送というコンテンツを基にした、いろいろなサービスを提供しなければならない。

実はすでにテレビ局はやっているんだよね。DVDなどパッケージやったりECやったり、世界観にあった商品開発とかをやっているわけです。キャラクターグッズも作っているし。そういうものもトータルで、サービスとしてのユーザー体験を高めるためのものなんだと考えると、まだまだできていないことがあって、実はやることがたくさんあります。

 

若者のテレビ離れではない。テレビの若者離れだ!

有園:結局、番組もしかりですが、いま起こっていることは、若者のテレビ離れではなく、テレビの若者離れだと思っているんです。つまり、若者に対して素敵なユーザー体験、あるいは、サービスを、きちんと提供できていない。

世帯視聴率を上げようとすると、M3F3の人たち、つまり、50代以上のおじさん・おばさんにウケる番組を作らないといけない。その結果、若者が面白いと思う番組を作ってない訳ですよ。若者に寄り添うには、若者にウケる番組を作ってスマホとかに出す。つまり、若者にウケる番組を若者に向けてマーケティングしなければなりません。趣味嗜好、デモグラみたいなものに合わせて、あまり小さなターゲティングはできないでしょうし意味がありませんが、そういうこともやっていかなければならないでしょう。

 

イギリスBBCのラジオ戦略

有園:2015年8月にNHK放送文化研究所が「イギリスBBCのラジオ戦略」というのを出していて、これが結構参考になるのではないかと思っています。

NHKは3チャンネルですが、BBCラジオは10チャンネルあります。BBCラジオはチャンネルごとに、10代向けにはロックなどの音楽を中心に流していたり、「ラジオ4」というのが伝統的なラジオで、NHK総合チャンネルみたいな構成になっていて、で、それ以外に、スポーツ専門のチャンネルもあれば、アジア住民向けのチャンネルもあったり、クラシック専門のチャンネルがあったりと、それぞれ特徴を持たせていて、2014年に過去最高の接触者率を達成したそうです。週間接触者率が70パーセント近かったそうです。

氏家:それはすごいね。にわかに信じられないね。

有園:日本とイギリスではラジオ文化が違いますよね。その中で「Listen、Watch、Share(聴いて、見て、シェアしてもらう)」という戦略があって、この時代にラジオがこれだけウケているのも驚きですが、ラジオなのに番組内容を動画でYouTubeにあげて、それを見てもらえるようにして、かつシェアされるようにしている。シェアされた情報を得て、また聴きにくるといった流れができあがっているから聴いてもらえる。チャンネルなのか番組なのかはあると思いますが、若者にも届けられるような仕組みを用意できればいい。

 

世帯視聴率に縛られない新しいマーケティング

有園:今でさえ若者は「TVer、面白い」と言っているわけですから、ちゃんとすれば絶対に戻ってくると思うんですよ。スマホで見ているかもしれませんが、それでもいいじゃないですか。民放連の井上会長が言うように、スマホも測ってお金に換えていければいいわけなので。そういうマーケティングをテレビ局はもっとやっていって欲しいのです。世帯視聴率だけに縛られない形のマーケティングが今後は必要だと思います。

氏家:これからですね。井上会長がおっしゃっていたことって、すごく先を行っているんですよ。今までのテレビ業界って、責任ある立場の人が、あのように先のことを大胆に語ることはなかった。

有園:びっくりですよね。

氏家:びっくりです。でも、言ったのだからそっちの方向へ行くしかない、そう覚悟していると思います。ここで「良きに計らえ」なんてやっていたら絶対に前には進めないと思っていらっしゃると思います。確かに、その方向には進むと思いますよ。

有園:TVerも1年くらいで出てきましたしね。

 

局内の対抗勢力とどう戦うか

氏家:テレビ局の中には保守的な人や、コンサバティブな人たちはいます。「そんな方向に大胆に変化して大丈夫なのか」と、よかれと思って言っているんです。「地上波の一番大事なビジネスモデルが壊れるじゃないか」と。でももう壊れ始めているんですよ。

今までテレビは非常に効率的なビジネスだった。それを壊さないためには、変化などしないほうがいいと言うのは正解でした。でも時代は大きく変わってきている。民放連のトップが「こっちに行くぞ」とはっきり宣言したということは、そういう保守的な人たちを説得する上での効果がとても大きいんじゃないでしょうか。テレビの外の世界の人たちからは、井上会長の発言は評価されているようですし。

TVerをやるときも各局の中には「そんなこと、やる必要ないだろう」という人が、かなりたくさんいたことはよく分かっているけれど、それでもやったわけですよ。で、実際にやってみると効果が出た。わずか3週間で100万ダウンロードでしょ。誰も考えていなかったスピードです。しかもほとんどTVerのプロモーションをやっていないんです。やっても、それこそ「下町ロケット」のドラマの終わりの5秒とかだけで。それなのに100万DLいってしまうんだから。Huluが60万から100万を超えるのに、どれだけCMを打ったことか。

TVerはほとんど何もせずに100万いった。その潜在力はすさまじいものがあります。各局がバラバラにやっていたことを、ただ束ねただけなんです。ユーザーは、バラバラのところに見に行くんじゃなくて、一カ所にまとまっているところで見られる、それだけです。だからユーザーインターフェイスが重要だと言っているんです。

有園:まだまだお話ししたいのですが、時間がなくなりました。でも、氏家さんとお話しして、テレビ局の未来は明るいなと改めて感じました。民放連の井上会長の存在が、やはり、大きいなとも痛感しました。

氏家:井上会長が道を作ってくれたことが大きいのと、5年、10年するとテレビの中の人が世代交代するじゃないですか。デジタルネイティブの人たちが組織の中で大きな決定権を持つようになります。だから、いまのペースでいけば、テレビ局の未来が明るいことは確かかな。

有園:長い時間、ありがとうございました。また、勉強させてください。

 

《対談者プロフィール》

氏家 夏彦(UJIIE NATSUHIKO)
メディア論ブログ「あやぶろ」編集長、放送批評懇談会機関誌「GALAC」編集委員。
東京大学経済学部卒業後テレビ局入社。報道、バラエティー、情報番組、管理部門、デジタル部門、放送外事業を担当した後、メディア総合研究所代表を経て現在はテレビ局関連企業経営。

 

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以上転載終わり

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