あやぶろ

多彩な書き手が、テレビ論、メディア論をつなぎます。

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20136/20

のめりこませる技術

 パロ・アルトのフォーチュン・クッキー

「出るから、入りな」
どこからか歩いてきたサングラスのオバサンが指差した。
パーキング前で空きを探していた僕らの車がノロノロ後をついていくと、オバサンは銀色のポルシェに乗り込み、親指立てて去っていった。
カッコエエ。
生温くも冷たくもない風。青い空に薄茶の建物。サンフランシスコから、シリコンバレーを車で1時間南下した街パロアルト。

スクリーンショット 2014-07-06 2.23.50
パロ・アルト(Palo Alto)はTall Treeのスペイン語。
群生するRedwood=セコイアから名付けられた。

通りには画材屋、古本屋が並ぶ。なんか文化的香りクンクン。行き交う人も優しそうなんて気のせいか。窓を開け放したカフェでは、誰もがMacを開いている。

昼どき。
チャイニーズ・レストランでシュリンプ・フライドライスを注文した。9.25ドル。乾いたタイ米をよく「炒」してる。美味しい。
「またディナータイムにおいで」
食べ残した皿にフォークとスプーンを乗せながら、オバアチャンが言う。
伝票の上に投げられたフォーチュン・クッキーを割ると、「Everybody is drawn to you」の文字。Drawnってひき込むだっけ?
それを見て、思い出した。
ちょっと前に頂いた「のめりこませる技術 – 誰が物語を操るのか」という本。
著者はアメリカのWiredっていう雑紙の編集者だったフランク・ローズ ( Frank Rose ) 氏。(フィルムアート社、島内哲朗訳)
のめりこませるってなんだろう?

スクリーンショット 2014-07-06 2.24.12

ドーパミンという米国のスタートアップ。ゲーミフィケーションの会社

 

ドーパミン - のめりこませる科学

本のなかでいちばん面白かったのは「ドーパミン」の研究を紹介するところ。ドーパミンは快楽、モチベーションに関連して放出される脳内物質。
<ドーパミンが放出されてる> → <モチベーションが上がってる=のめりこんでる状態>
だから、
<ドーパミンがどんなときに放出されるのか検証> → <人間をどうしたらのめりこませられるのか?解明できる>
という。
スイスの神経科学者ウルフラム・シュルツ(Wolfram Schultz)氏が行った「サルにジュースをあげる実験」を引用してみよう。(356頁)

①ジュースをサルに与えるときに「ピー」と音を鳴らす。
②すると、「ピー」という音を聞いたときに大量のドーパミンが放出されるようになる。(ジュースを飲むときではない)
③ところが、慣れてくると、次第に「ピー」が鳴ってもドーパミンがまったく出なくなってしまう。

この実験でわかったのは、
a) ドーパミンは、「ジュース」そのものには反応せず、「音」に反応している。
b) 100%ジュースが貰えるとわかると、ドーパミンは放出されない。音が鳴ってもジュースが来ない、そんな状態を作ると、またドーパミンは「音」に反応し始める。

ドーパミンが放出される=のめりこむ状態と考えると、サルは「ジュース」自体の価値じゃなくて、「ジュース」が飲めるかどうかの「期待(文中より)」にひきこまれてる。
そして、「その期待値が半々のときにいちばん激しくドーパミンが放出される(369頁)」という。

「報酬があるから、ドーパミンが放出されるわけではないのです。“不確実性”こそが放出を促すのです。」 369頁 ポール・ハワード=ジョーンズ博士 (参考:氏のスライド YouTube )

不確実性。そう。獲物を探しに狩りに出る。上手く見つかるかは、わからない。ただ、食料は必要だ。だから、狩りには行かなきゃ。ドーパミンは、面倒だけど狩りに出なきゃっていう動機に関係してる。

「ゴールを獲得することではなくて、ゴールを探す行動こそ、ドーパミン反応を促す」(365頁)

とにかくまず「行動」せねば「ゴール」が得られないってことをドーパミンが動物に後押する。
要は、「ゴール」設定に加えて、「行動」を促す仕組み(「不確実性」を組み込もう)を入れると、人間をうまく動機付けられるってことだろう。(この仕組みをゲーミフィケーションと呼ぶ。JB Pressに書いた記事を参照。)

 

 クリエイティブとドーパミン

人間をうまく動機付けられたら。。。なんでも買わせて大金持ちになっちゃう。商売にはウマくハマりそうだ。
だが、このドーパミン研究、モノ作りに携わる人にはちょっと刺激的な結果じゃないだろうか。
というのも、サルにとって「ジュース」より「ピーという音」のほうが効果あるってことになってる。
それって、サルを食いつかせるためには、もっといい「ジュース」をチラつかせてもダメってこと?クリエイティブな人だったら、サルの気を惹くために「ジュース」そのものをよりよく努力するだろう。
でも、ドーパミン研究は、「そこじゃない。改善すべきはそこじゃない」と言ってる。
いいコンテンツだから売れるのか、そうでなくとも売れるのか、売れたのがいいコンテンツなのか。。。そもそも、いいコンテンツの「いい」ってなに?
我々はいつも悩んでいる。
身体的心地良い不確実性

じゃあ、このドーパミン研究をクリエイティブ活動にどのように生かせばいいんだろう。
「ひきこまれる技術」から、もう一節引用してみよう。

「物語世界にあなたを招きいれるような物語は、必ずあなたの探餌本能をくすぐる。人間は無限に捜し求めるものだ」 (372頁)

「物語世界にあなたを招きいれるような『物語』」とは、「仕掛け」とでも言い換えられるだろうか。
ドーパミンがコンテンツ自体には反応しないのならば、コンテンツのなかになにか、不確実性、ギャンブル性を入れていけばいいのか。
このコンテンツの良さを追求する指向性と仕掛けを考えるうえで、思い浮かべたのが、村上春樹氏のこの言葉。ウェブから引用してみる。

小説にとって意味性というのは、そんなに重要なものじゃないんですよ。大事なのは、意味性と意味性がどのように呼応し合うかということなんです。音楽でいう「倍音」みたいなもので、その倍音は人間の耳には聞きとれないんだけど、何倍音までそこに込められているかということは、音楽の深さにとってものすごく大事なことなんです。
(白水社のウェブから 村上春樹・柴田元幸『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を語る)

「大事なのは、意味性そのものよりも、意味性と意味性がどのように呼応し合うか」という指摘は、よりよいモノを作るというより、あるいはよりよいモノを作るには、モノ自体のバリューを2倍にするんではなくて、バリューとバリューがどうつなげるかの関係性にあることを言ってるんだろう。
その関係性は、ドーパミン研究からいえば、「不確実性」か?
「何か」いいことを言おうとするんではなくて、驚きのあるつながりをモノに込めるってこと?「へぇ〜」っていう驚きを盛り込みゃいいの?
それが、「のめりこませる」技術ってことか。

 

WhatとHow

友人のJoohun Lee(ジュハン)。ソウルでパイプ製造の会社を営んでいる。
久々の東京。銀座で呑みながら、彼がボソリとこう言った。
「カジュ、俺は自分が何をしたいのか、いまだにわからない」I still haven’t found what I am looking for by U2。ゴールを探し続ける人。永遠の狩人かっ。
「なにか」を得たら「満足」する。それはドーパミン的に勘違いなはず。人間ってそれでも「何か」を探し続けるものなのね。
ドーパミンは、「何か」じゃなくて、「過程」に反応するのだ。
武道でよく言う(鬼平も言っていた)「倦まず弛まず」って言葉は、「何か」と「過程」にまつわる勘違いを正してくれる。
スゴ技を身につけるのが目的じゃない→技を磨き続けるその過程が大事。「何」をしたいかなんてことを求めてはいけない。ただ修練あるのみ。
ということで、「のめりこませる技術 – 誰が物語を操るのか」は、のめりこまされる本。いい本だな〜。

 

(参考)
村上春樹氏のインタビューは内田樹氏の本で知った。内田氏も「物語」についてこう述べている。
「すぐれた物語」は「身体に残る」。だから、私たちは実は頭でなく、身体で物語を読んでいるのである。(98頁、「村上春樹にご用心」、アルテスパブリッシング)

志村一隆(シムラカズタカ)プロフィール
1991年早稲田大学卒業、第1期生としてWOWOWに入社。2001年モバイルコミュニティを広告ビジネスで運営するケータイWOWOWを設立、代表取 締役就任、業界の先駆けとなる。2007年より情報通信総合研究所で、メディア、インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学で MBA、2005年高知工科大学で博士号
『明日のテレビ-チャンネルが消える日-(朝日新書)』、『ネットテレビの衝撃(東洋経済新報社)』が絶賛発売中。ツイッターは zutaka
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