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20163/16

父に送るトランプ現象の私的見解

あやぶろ執筆者の一人、山脇伸介さんがFacebookに投稿したコメントがとても示唆に富んでいました。山脇さんにあやぶろへの転載をお願いしたところご快諾いただきました。
トランプなんてとんでもない!という論調の記事は多いのですが、そのとんでもないと言われている人物がなぜこれだけ人気を集めているのか、そのへんの背景をだれか紐解いてくれないかなぁと思っていたところに、山脇さんが実にわかりやすくこれを分析してくれました。
山脇さん、ありがとうございます。

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父上。トランプ現象について意見聞かせろとのこと。ちょうどいいので、自分なりの私見をまとめてみます。

思えば、私がNYUに留学した2008年はオバマ候補が予備選でヒラリー候補を下した年でした。当初の予想を裏切る形でオバマが勝ったのですが、ニュージャージー州のオバマ応援集会やNYのオバマ事務所を訪ね、私なりに大統領選挙を肌で感じたものです。リゾート地のカンクン(メキシコ)を訪れたときには、米南部の専業主婦とヒラリーの話になり、キビシイ意見に驚いたこともありました。

これから書くことは、あくまで私見に過ぎませんが少しでも参考になれば幸いです。

① 「アメリカンドリーム」という幻想の終焉

NYでずっとフシギだったのは、大金持ちも貧乏人もみな楽しそうに見えたことでした。考えてみれば、大金持ちには大金持ちの、貧乏人には貧乏人のコミュニティがあり、それぞれが交じり合うことがない。だから、それぞれがハッピーなのではないか?という仮説を立てました。

その雲行きが変わって来たのかな?と思えたのが2011年9月の「ウォールストリート占拠問題」です。1%の裕福な人々が米国の富を独占し、残りの99%が搾取されていると「私たちは99%だ!」と主張したこの運動は、ステューデント・ローンに苦しむNYUの同級生が多い私のフェイスブックでも熱く語られていました。

私が注目するのは、ここにアメリカの見えなかった「階級」がはっきりと姿を現したことです。もしかしたら、自分は貧しいのでは?と感じていた人々が、SNSによって「団結」し、表に登場したのです。これは、今回の大統領予備選を占う意味でも、大きな前兆だったといえるのではないでしょうか?

② 既存の政治家への嫌悪感

日本では若い頃は過激に考えた人でも、自分が豊かになれば「保守化」するパターンが多いのではないでしょうか?結局、思想が過激化するかどうかは、「持つ」か「持たざる」かによると言っても過言ではないでしょう。「ウォールストリート占拠問題」が深刻なのは、その中核をエリート大学OBの若者たちが占めたことです。彼らの怒りは「ワシントン政治」に向けられます。大金持ちがロビイストたちを通じて、中央政府に自分たちの利権を認めさせる手法は、「持たざる」エリート層にとって許せないものになってきます。ましてや、これが非エリート層であればいわんやをやです。

トランプを支持するコア層は、ホワイト・プアといわれています。プライドは高いが教育程度は高くありません。これまでホワイト・プアは米国の「負け組」の代表格といわれてきました。いわば肩身の狭い思いをしてきたのです。その彼らに明るい灯が射してきた、それが同じ白人で、しかも億万長者。だけど(自分たちと同じように)下品で本音を言ってくれるトランプの存在です。これまで鬱々と仲間内で酒をかっくらってたホワイト・プアが、堂々と人前に登場してきたのです。そして、ここでも彼らの「団結」に一役を買っているのは、SNSだと思います。

つまり、トランプとサンダースは支持母体は、ホワイト・プアとエリート予備軍の若者と全く異なりますが、現状の「ワシントン政治」に強い不満を持つ者たちがSNSで団結できたという共通点を持っています。

③ そもそも、テレビが創った大スター

でも、なにより忘れてならないのは、トランプが元々リアリティ番組のホストとして大人気だったという点です。日本でも「マネーの虎」という深夜番組がありましたが、「アプレンティス(見習い)」という番組は、様々な起業のアイディアを持つ人たちがトランプの前でプレゼンし、トランプが気に入れば出資してもらえるという番組でした。2004年から2012年まで12シーズンにわたって放送された大人気番組です。気に入らないアイディアに対してトランプが言う決め台詞「You are fired!(おまえはクビだ!)」は、流行語になりました。

日本で言えば、橋下徹弁護士のイメージでしょうか?そもそも、トランプは立候補前から、芸能人=大スターだったのです。前にSNSについて触れましたが、SNSというのは水面のようなもので、小さな石を投げ込んでもたいした波紋は起こしませんが、大きな石を投げ込むと予想外の大きな波紋を生み出すもの。今、トランプ現象といわれる巨大なムーブメントは、この結果といえるのではないでしょうか?

④ 先祖帰りの米国・・・

これまでの米国の成長を支えてきたのは、「アメリカンドリーム」を信じ、一生懸命がんばる貧乏人=移民という構図でした。新しいエネルギーが、米国を引っ張ってきたと言っても過言ではないでしょう。頑張れた移民たちは、おおらかに新しい移民を受け入れ、米国は活性化されてきたのです。
ところが現在の貧しいかつての移民たちは、「格差の固定」で貧民化し、新しい移民を歓迎できません。米国に来られたという「既得権益」さえ守ろうと懸命になっています。

考えてみれば、米国の移民の歴史も先に移住した人々が、新しく移ってきた人々を差別する繰り返しであり、かつてのモンロー主義こそ米国本来の外交方針だったはずです。

つまりトランプの主張は、今の米国から見れば奇妙に映るかも知れませんが、かつての米国の原点にもどっている点も多い。時代錯誤とはいえ、米国本来の姿に戻ろうというトランプの主張に共鳴する人々は少なくないのではないでしょうか?

以上、お粗末(笑)

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