U2の憂鬱
「ロートル」という言葉を初めて聞いたのは、中学生の時だった気がする。プロレスのリング上で忌野清志郎と桑田佳祐がマイクで舌戦を繰り広げるというテレビ番組があり、桑田が忌野に対して連発した言葉だった。ませたガキだった私は「いずれ自分も年を取るのになあ」と思って見ていた。ま、それはともかく、、、
U2といえば1980年代に絶大な人気を誇った、アイルランド出身のロックバンドだ。1987年にNYを一人旅したとき、街中に「U2の球場コンサート・チケット求む!!」という張り紙がベタベタ貼られていて、その人気の高さを実感したものだ。
(U2、1980年。左からアダム(b)、ラリー(d)、ボノ(vo)、ジ・エッジ(g)。若いっ)
アイルランドといえば、英国の陰で政治的にも経済的にも文化的にも虐げられているイメージがある(すみません)。そしてそれを逆手に取った自虐的なブラックユーモアは特に有名だ。名作映画「ザ・コミットメンツ」でも自虐的(かつ爆発的)なギャグシーンは抱腹絶倒ものだった。
そのアイルランドから彗星の如く登場したU2は、ボノの哀愁を帯びた絶叫ボーカルと、ジ・エッジが奏でるとんがった不協和音すれすれの金属的なギター。そしてなにより政治的テーマに遠慮なく切り込み、虐げられた若者たちの怒りとあせりを代弁するボノの突き刺すような歌詞が、当時の若者の心をワシづかみにしたものだ。
こうしてU2は商業的に爆発的大成功をおさめた。ハングリーだった4人の若者は、億万長者の中年になり、ボノ(54歳だって)は政治的な活動は続けているもののミック・ジャガーに次ぐセレブリティに成り上がった感がある。
そのU2が、9月9日に行われたアップルの新製品発表会に登場した。10月14日に発売されるニューアルバム「Songs of Innocence」を、iTunes(アップル)ユーザー5億人(119か国)に無料で先行ダウンロードさせるという(10月13日まで)。
(アップルの発表会に登場したU2。左はアップルのクックCEO)
無料ダウンロードというと、2007年にレディオヘッドがアルバム「In Rainbows」でいち早く挑戦している。この時は「リスナーが自分で価格を決める」という仕組みだったが、新しい時代の到来か!?と、NYU大学院の授業でも取り上げた。「著作権」に自動的に金が発生するのではなく、その作品の「価値」をリスナーが決めるという試みが画期的だという話になった。
ふたを開けてみると、発表された直後の1か月にダウンロードした約120万リスナ ーの内、6割が金を払わず、平均価格は2.26ドル。レディオヘッドも売上については「ノーコメント」という散々な結果に終わった。しかしそれにもメゲズ、レディオヘッドはその後も折につけ、無料ダウンロードを仕掛け続けている。
(レディオヘッド)
今回、U2の大ファンだった私も早速ダウンロードしたのだが、どこか白々とした気持ちを禁じえない。なんだろう?このもやもやとした感じ。。。
その後、TIME誌に載ったボノのインタビューを読んで、そのもやもやは氷解する。
「We were paid. I don’t believe in free music. Music is a sacrament.」
「ギャラは受け取ったよ。私は無料配信なんて考えていない。音楽は神聖なものなんだ」
金額は明らかにされていないが、関係者によればアップルが支払ったギャラは「1億ドルは下らない」とみられているという。
若いファン層を取り込みたいU2と、新製品発表会で花火を打ち上げたいアップル。両者の思惑が一致したということか。U2のマネージャーは「アップルからファンへのプレゼントだ」と言ったらしいが、リスナーの評価と関係なく青田買いで大金を手にするとは、さすが老獪なものだ。
私はまだU2のアルバムを聴いていない。次のジョギングの時でいいやと思っている。帰宅すると、かみさんの仕事関係で30~40代女子が8人来ていた。U2の無料ダウンロードの話をしてみたが、誰も興味を示さなかった。
ゆうつうのゆううつ(お粗末)
山脇伸介(やまわきしんすけ)プロフィール
1991年テレビ局入社。
朝昼の生情報番組やニュース番組のプロデューサーを経て、
2007年8月から1年間、ニューヨーク大学院(NYU)で「テレビとインターネットのこれから」について学ぶ。
帰国後、他局に先駆けてTwitterやFacebookの導入に尽力。
著書「Facebook世界を征するソーシャルプラットフォーム」(ソフトバンク新書)
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