マルーン5かく語りき
マルーン5のインタビューに立ち会ってきた。ちょうど9月3日にリリースされた5枚目のニューアルバム「V」が、全米ビルボードチャートで初登場1位になったばかり。これまで4枚のアルバムセールスは、全世界で1700万枚。いまや、世界を代表するロックバンドといっても過言ではないだろう。
【Maroon5。左からジェイムス(g)、ミッキー(b)、アダム(vo)、PJ(key)、ジェシー(key)、マット(d)】
私とマルーン5の出会いは2007年にさかのぼる。近所の店で、マルーン5のセカンドアルバムがヘビロテされていた。日本のCMソングにも使われた「Won’t Go Home Without You」を初めて聞いたとき、久々に脳天にシビレが走った。
思えばポリスが活動を停止した80年代半ば以降、ロックバンドというカテゴリーには、ぽっかりと大穴が空いていた。全米ヒットチャートはラップと女性ボーカルに席巻され、いつしか聞くのが億劫になっていた。中学時代からAFN(昔はFEN)で全米チャートを、三度の飯より一所懸命チェックしてきたおいらが、である。そのぽっかり空いていた大穴に、マルーン5はずきゅんと入ってきた。特にイントロに注目して聴いて頂きたい。
https://www.youtube.com/watch?v=VlMEGBsw6j8
【アダムは、美女との共演がお好き】
2007年夏に留学のため渡米すると、予想通り米国でのマルーン5人気は尋常ではなかった。
老舗バラエティ番組の「サタデーナイトライブ」を見ていたら、ボーカルのアダムが突如登場して驚いた。ちょうどイランのアハマディネジャド大統領がNYのコロンビア大学で講演し「イランでは、アメリカのように同性愛者は多くない」と語って、NYメディアの顰蹙を買っていた時のことだ。
その大統領を揶揄する音楽ビデオに、当代随一の人気者=アダムをキャスティングするセンスに脱帽したことを憶えている(アダムの兄がゲイだということは、後で知った)。アダムが登場したときの観客の声援(もちろん編集しているが)は、彼の人気を象徴している気がする。
https://www.youtube.com/watch?v=zoS8DrrlnTQ
【SNLミュージックビデオ「イランは遠い国」(2007年)】
https://www.youtube.com/watch?v=z5Otla5157c
【おまけ:SNL名曲「YOLO(You Only Live Once)」(2013年)】
帰国後2012年秋に、武道館で行われた彼らのコンサートに行った。最高だった。
そして2013年。毎年1月にラスベガスで開かれる世界最大の家電見本市「Consumer Electronics Show(CES)」を視察に行った時のことだ。CESで最も重要といわれるオープニング・スピーチを、1000人以上の聴衆とホテルの大広間で聞いていた。
かつては、マイクロソフトのビル・ゲイツが常連だったCESのオープニング・スピーチ。2013年は初めてモバイル系企業クアルコムのポール・ジェイコブスCEOが登壇し盛況だった。
そのスピーチの最後に、マルーン5のアダム(vo)、ジェイムス(g)、PJ(key)が突然、登場したのだ。会場は一気に盛り上がり、スピーチを記録するはずの私のビデオには3人のパフォーマンスが収められた。アコースティックで歌うアダムのボーカルは本当に最高だった。
https://www.youtube.com/watch?v=UDK-9C69q9Q
【マルーン5@CES2013】
今回のインタビューには、アダムとジェイムスが登場した。番組では2分足らずだったこともあり、放送できなかった一部をご紹介したい。
Q)今回のニューアルバム「V」はどんな出来だと考えていますか?
アダム :これは全てのアルバムに言えることなんだけど、今の段階で自分たちのベストのパフォーマンスを表現することにこだわっているんだ。今回も、今の自分たちの全てを出しつくすことができて、とてもハッピーさ!
Q)「V」の中で、オススメの曲は?
ジェイムス:もちろん全ての曲がオススメだけど、僕のお気に入りは『Animals』だね。僕のギターもファンキーなものになってるし。次は『Sugar』かな?これはNYの売れっ子Dr.ルークがプロデュースしたんだ。あと『It Was Always You』はピーター・ガブリエル風のバイブ感のある仕上がりになってるね。
アダム :(ピーター・ガブリエル「Red Rain」の物真似をはじめる)
ジェイムス:そうそう。レイ・チャールズっぽくもある(笑)。
Q)マルーン5が世界を魅了している理由はなんだと思いますか?
アダム :もちろん、いい音楽を作ることは大前提だよ。でも、それに加えてなによりも老若男女を問わず、全ての人々を自分たちの音楽で楽しませたいという「強い想い」を持っているからだと思う。
ジェイムス:そうだね。ビートルズやポリスが、あらゆる人々に向けて音楽を発信し、認められたことは本当にすばらしかった。彼らの音楽は、世界を一つにしたよね。
アダム :それを実現したいと願う「強い想い」を持つ。簡単なようでいて、それが一番難しいことだと思う。僕らの音楽で、世界を一つにしたい。苦しんでる人々や世界の平和に少しでも寄与したい、というのが僕らのゴールなんだ。
ジェイムス:今回もNY、ドイツ、イギリス、東京と旅して来たけれど、言葉が違っていても音楽で一つになれるというのは、本当に最高だったね。
Q)今までのシングルの中で、転機となった曲はなんですか?
アダム :最初のスマッシュヒットは、「This Love」だったね。その次は、約10年後のクリスティーナ・アギレラとのデュエット曲「Moves Like Jagger」かな?久々の大ヒットで、息を吹き返したんだ。
Q)そういえばアダム、あなたはPeople誌で2013年「世界一セクシーな男」に選ばれたけど?自分ではどう思ってますか?
アダム :う~ん。なんでだろう?(せきこむ)とても奇妙な感じだね。
「People誌さん、有難う!」って感じかなあ・・・。
やっぱり、ルックスかな?
ジェイムス:(爆笑)
Q)ジェイムスは、「世界一セクシーな男」と共演してどうですか?
ジェイムス:間違いなく言えることは、アダムは僕のタイプじゃないってことだね(笑)
と、ここでついに我慢できず、おいらが聞いてしまった。
おいら :「V」を聴いていると、ポリスの影響を強く感じます。ジェイムスのギターは、アンディ・サマーズ(ポリスg)を連想させるし・・・
ジェイムス:(大きくうなづく)
おいら :アダムのボーカルは、スティングを連想させる。同じ5枚目ということで、ポリスの「シンクロニシティ」は意識したんですか?
アダム :そうだね。ポリスは偉大なバンドだったけど、5枚目の「シンクロニシティ」が彼らの最後のアルバムになってしまった。バンドにとって、いつ活動を停止するかという問題は大きなテーマだし、一度活動を停止してまた復活することで新たな力を得ることもある。
ポリスは、5枚のアルバムで全てを出し尽くしてしまったけど、僕たちはまだまだ5枚じゃ足りないと思ってる。「X」まで作りたいと思ってるんだ。
おいら :(「本当に?」)
アダム :いや、無理かも知れないけど(笑)。
https://www.youtube.com/watch?v=NmugSMBh_iI
【「V」からのファーストシングル「Maps」。所々ポリスにそっくり】
残念ながら、ここでタイムアップ。「シンクロニシティ」がポリス最後のアルバムだったことを、アダムが強く意識していたことがとても興味深かった。
【Police 1983年。左からアンディ・サマーズ(g)、スティング(vo, b)、スチュワート・コープランド(d)】
「シンクロニシティ」はポリスの最高傑作といわれるコンセプト・アルバムだ。ユングのシンクロニシティ(「意味のある偶然の一致」=共時性)という心理学用語を縦軸に、それぞれの曲がつながっている。ポリスのインテリジェンスと音楽の完成度の高さを感じさせる名盤である。
しかし「V」は、どの曲もシングルカット可能な完成度の高さなのだが、アルバム全体のコンセプトという点では、散漫な印象も否めない。
今回アダムの話を聞きながら、私は「シンクロニシティ」が出た1983年と2014年という、音楽ビジネスの30年間の変化が、そのまま作品の形に現れていると感じていた。
アナログレコードに替わり、CD(コンパクトディスク)が急成長した80年代と、もはやCD売り上げが1年ごとに18~19%ずつ減少している2010年代。
2003年にアップルがiTunes ストアで音楽のダウンロード販売を始めてから、リスナーがアルバムではなくシングルを買うようになった流れ。
この原稿でも何曲かユーチューブから引用しているが、音楽ビジネスは明らかにCDセールスから、ライブ・コンサートでの観客動員にメインが移っている。その辺りも、5枚のアルバムで活動を停止することができたポリス(その後もベスト盤が、どんどん出された)とマルーン5では、事情がまったく異なる。
本当はU2のアップル「無料」ダウンロードについても、アダムの意見を聞いてみたかった。というのも、アダムは米国の安売りスーパー「Kマート」でアダム・コレクションという衣料品を売っている。で、アダム・コレクションを30ドル以上購入すると、「V」を無料ダウンロードできるという新しいビジネスモデルに挑戦しているからだ。
http://www.kmart.com/shc/s/dap_10151_10104_DAP_Adam-Levine-mens?sid=ISm20140904xSYWBxAdamFBxAlbumGiveaway
【Kマートのホームページ】
インタビューを終えて2人と握手した。アダムの手が肉厚で温かったのが印象的だった。アダムの鍛え抜かれた肉体に、21世紀の音楽ビジネスの答えが隠されている気がした。
山脇伸介(やまわきしんすけ)プロフィール
1991年テレビ局入社。
朝昼の生情報番組やニュース番組のプロデューサーを経て、
2007年8月から1年間、ニューヨーク大学院(NYU)で「テレビとインターネットのこれから」について学ぶ。
帰国後、他局に先駆けてTwitterやFacebookの導入に尽力。
著書「Facebook世界を征するソーシャルプラットフォーム」(ソフトバンク新書)