あやぶろ

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201411/4

イギー・ポップ先生の「Free Music」とは

突然ですが、外国語の翻訳とは本当に難しい作業だと思う。杉田玄白や福沢諭吉は、ゼロから外国語に当てはまる日本語を作っていったというが、21世紀になってもその難しさは変わらない気がする。中でも、私にとってartとfreeという言葉は象徴的だ。

私が留学したNYUの学部の正式名称は、ティッシュスクール・オブ・ジ・アーツ(Tisch School of the Arts)。ティッシュは個人名なので深い意味はないが、このartが実に深い言葉だった。

単純に「芸術(美術)だろう」と高を括っていた私は、授業や学生の作品紹介の度に頻繁に使われるartという言葉に、いつしか「芸術(美術)」という骨董的なイメージとは程遠い「生きている」「活動している」「変わっていく」「表現している」というlive的な現在進行形のニュアンスが強く入っていることに、新鮮な驚きを覚えた。

今ではartと聞くと、ざっくり「生き方」という意味を連想する。私たちがこの世に生を受け、生きていく(変わっていく)その営みのすべてがartだと。このart=生き方という捉え方は、ニューヨーカーの神髄にある気がして。とすると、私はNYUで「生きること」を教わっていたのか?(笑)
ニューヨークから帰国後、家内が料理家というまったく未知の分野に転職を決めた時も、根本にあったのはこの考え方の影響だったと思う。

 

そしてfree。9月2日にU2&アップルの無料配信が発表されてから2か月、音楽業界はめまぐるしく動いている。(そのときの拙稿「U2の憂鬱」http://ayablog.com/?p=531

free(無料)で配信された音楽が、知らないうちに自分のアップル製品に勝手にダウンロードされてしまうという事態が頻発し「free(自由)を侵害された」と、U2を知らない若い世代を中心にブーイングが続出した。アップルは、U2のアルバムの消し方を発表。ボノ(54才)も謝罪に追い込まれた。

この一連の音楽業界の動きについて、「パンクのゴッドファーザー」ことイギー・ポップが10月13日午後7時半から、BBCラジオで熱く語った。
お題はFree Music in a Capitalist Society 「資本主義社会におけるフリーミュージック」

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(「パンクのゴッドファーザー」ことイギー・ポップ、御年67才)

イギー・ポップを知らなくても、映画「トレインスポッティング」のこのテーマ曲はお聞きになったことがあるだろう。 https://www.youtube.com/watch?v=jQvUBf5l7Vw

1970年代には、デビッド・ボウイの「恋人」ともいわれ、ベルリンに共に住み、過激なパフォーマンスを繰り広げたイギー。ボウイとの共作には「チャイナ・ガール」などがある。
およそ50分の講義の模様は、BBCのストリーミングサービスで放送後4週間まで聞くことができる。http://www.bbc.co.uk/programmes/b04lcj6z

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(1970年代後半、ベルリン時代のイギー・ポップとデビッド・ボウイ。共に30代前半)

「イギーは、いつも私のナンバー1だった!」というクリッシー・ハインド(プリテンダーズ)の言葉で始まるイギー先生の講演は、およそ半世紀という長きにわたって甘いも酸いも味わい尽くしたパンクロッカーとは思えない、ゆったりとしてユーモアあふれるものになっている。

【資本主義社会においては、お金がすべてを支配してしまう。いま音楽業界は、U2とアップルの無料配信&巨額契約料の話で持ちきりだ。だが、私にとってお金は重要なテーマではない。私にとってお金とは“巨大な”重要でないテーマなんだ(笑)】

イギー先生はU2について「彼らはいい奴だ」とフォローしつつも、今回のアップルとの協業についてはかなり批判的だ。

【良い音楽は、インディーズ(独立系)から生まれる。ミッキーマウス・クラブではなく、インディーズだけが、新しい才能を生み出すことが出来る】
【大きいことは決して・・・良いことではない(笑)】

そして、イギー先生が高く評価したのがトム・ヨークである。前回の原稿でも触れたレイディオ・ヘッドのボーカルだ。そのトム・ヨークが9月26日に発表したソロアルバム「Tomorrow’s Modern Boxes」の試みを高く評価している。
というのもこのアルバム、ビット・トレント(ピア・ツー・ピア=peer to peerを使ったファイル共有ソフト)のサイトで、6ドルで販売されたのだ。 https://bundles.bittorrent.com/bundles/tomorrowsmodernboxes

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(レイディオ・ヘッドのボーカル。トム・ヨーク46才)

 ここで話は2007年に戻る。NYUの授業に、マット・メイソンという英国人がやってきた。「海賊のジレンマ」(和訳はコチラhttp://amzn.to/1pHD3uQ)を書いた彼は、インターネットが起こした音楽業界へのインパクトについて熱弁をふるった。

「かつてインターネットを敵視した音楽業界は、音楽ソフトをインターネットに出し渋り、返って『海賊版』がはびこるようになってしまった。でもCDセールスが激減する中、『ダウンロード販売』という新たなビジネスモデルを音楽界に与えたのは、『海賊』だと思われていたiTunesストアだった」という話。

授業後、マットをつかまえ「放送業界はどうかな?」と聞いた。するとマットは、「放送業界もインターネットを敵視し続けたら、同じことになるね」と言いつつ、「僕も本を書いてるから、著作権を否定するワケぢゃないよ」とウィンクした。

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(「海賊のジレンマ」著者、マット・メイソン30代後半)

そのマット・メイソンが、ビット・トレントに転じたと聞いたのが3年前。そして今回のトム・ヨークのアルバムの仕掛け人こそ、このマットだったのだ。まさに「海賊のジレンマ」を地で行く活躍である。

ビット・トレントといえば、「違法ダウンロード」の親玉と思われる方も多いと思う。ネットに詳しい後輩の安田英史くんによれば「ビット・トレント自体が、『違法=海賊』ではない」というが。

しかしこのP2Pという方式は、1人が有料コンテンツを購入すれば、誰でもそのコンテンツを容易くシェアすることも可能だ。1人がCDを1枚買って、それを瞬時に、友人やその友人やそのまた友人(数十万人以上)に無料ダビングしてしまうというイメージ。 とすれば、ビット・トレントは「海賊」そのものではなくても、「海賊の友達」と呼ぶにふさわしいサービスであるといえよう。ビット・トレントを使えば、有料コンテンツを無料で手に入れることも簡単だ。

イギー先生は言う。
【トム・ヨークのビット・トレント販売はとてもいい。ビット・トレントは「海賊の友達」だ。でも海賊だっていつか合法化されたいものだ。おれが尊敬されたいように。トム・ヨークはその新しい流れを応援しようとしている】
【アーティストの神は、大衆だ。どんな方法であれ、聴いてもらうことが重要なんだ】

 

しかし、「お金は“巨大な”重要でないテーマ」と言うだけあって、イギー先生は返す刀で、一般大衆の“海賊化”に警鐘を鳴らすことも忘れてはいない。

【昔の「海賊版」には可愛げがあった。「海賊版」の方がクリエイティブなこともあった】
【でも、今ではみんなが「海賊」になってしまった。「気に入らない曲を押し付けるな」とクレームするように、「金を払うことを押し付けるな」と言い出したら、盗むことが当たり前になっちまう。そしたら、すべてによくない結果をもたらすだろう】

 

では、イギー先生にとって最重要テーマとはなにか?それは「free」。 若いアーティストに向けた最終章では、イギー先生も思わず声が大きくなっていた。

【freeであれ!freeであれ!
freeには2つある。「自由」と「与える自由」と。 アーティストは「自由」でなきゃならないし、金なんかもらえなくったって「与える自由」から得られる「自尊心」や「キリスト教的奉仕」は、とても強いエネルギーになる】
【これは夢の仕事なんだ。夢を見ろ!夢を見ろ!寛大であれ!ケチん坊になるな!金を追いかけ始めたら、すべてが終わる。すべてが金になってしまう。音楽も金になってしまう。 そしたら、No funだ!】

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そして講演も最後になって、鈍い私は、やっとイギー先生の叫びに気づいたのだった。 Free Music in a Capitalist Society.
「資本主義社会で、音楽に自由を!」

 

 

山脇伸介(やまわきしんすけ)プロフィール
1991年テレビ局入社。
朝昼の生情報番組やニュース番組のプロデューサーを経て、
2007年8月から1年間、ニューヨーク大学院(NYU)で「テレビとインターネットのこれから」について学ぶ。
帰国後、他局に先駆けてTwitterやFacebookの導入に尽力。
著書「Facebook世界を征するソーシャルプラットフォーム」(ソフトバンク新書)

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